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『下着屋の前を通るときの顔』

20230709

 よく街を歩いていると、女性用の下着屋さんが目に入ることがある。

店全体が明るく照らされていて、下着しか身に付けていない白くてスタイル抜群のマネキンが堂々と店頭に何体も並んでいたりする。
これだけ書くと、もう変態感が隠しきれず警察に目をつけられてしまいそうだが、街を歩いていて困るのは、「あ、下着屋さんがある」と思った後の次の行動である。

 「あ、ある」と気づいた後に、まず取る行動としては、下着屋を見ていたことを周囲の人にばれないようにしようと、下着屋さんの隣のはちみつ屋さんに視線を向ける。都心にあるはちみつ屋さんは珍しいため、はちみつ屋さんを長めに見ることは、おそらくそこまで違和感はないだろう。その後、下着屋さんを意識的に見ないようにしていることがばれるのも嫌なので、なんとなく全体を見まわして、下着屋さんが目に入っても動じない通行人となる。ここまでできれば、あとは落ち着いて店の前を通り過ぎ、ミッションコンプリートだ。

 一人で歩いているだけなら、これでいいのだが、隣に意中の女性がいたりすると難易度はさらに上がる。下着屋さんがあるとわかった瞬間に、ピリッと緊張感が走る。その時の振る舞いで、今後の二人の関係性が左右されるといっても過言ではないように思う。
まず、下着屋さんを見ないことを意識しすぎると、会話がぎこちなくなってしまったりするし、「ん?どうしたの?」とか聞かれたりしたらおしまいだ。見過ぎてもいけないし、ほかの所に目を向けている感じを出し過ぎてもだめだ。この塩梅は非常に難しい。自然な流れで立ち並ぶ店を順番に見ていくことが必要となる。僕は一度だけ、逆にボケとして下着屋さんをジーっと直視し続けるという行動を選んだことがあるのだが、隣の女性に軽く咳払いを2回されて、完全に不発に終わった。

 今でも下着屋さんの前を通るとき、どんな顔でどこを見ればいいのかわからない。そもそも、下着屋さんがあることに気付かない人生だったら、もう少し楽なのかもしれない。


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