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『「なぜ朝はクラシックなのか」と質問した友人』

20230618

 中学生の時、形と雰囲気だけでやたら押してきて、微塵も面白くない催しの一つに生徒総会があった。

生徒総会は、生徒会長や各委員会の委員長が活動報告をしたり、今後の目標みたいなことをしゃべって、形式的かつほぼ質問が出ない質疑応答の後に、多数決でその委員会の活動を信任するかしないかを、生徒全員が参加して決めるのだが、多数決といっても「信任する人は拍手をしてください」という不正確極まりない手段が採用されていた。生徒総数の3分の2以上の拍手で信任ということになるのだが、生徒のほぼ全員がてきとうに拍手して、てきとうに信任される。

私は、生徒会長や各委員長の話をしっかり聞いているわけでもないのだが、絶対に拍手はしないと強く心に決めて、全く拍手をしないやつとして座っていた。しかし、だんだんと周りの目が気になり始め、そのうち一本指を重ねて音のならない拍手を二回ぐらいするという行為に落ち着き、わずかな抵抗の意志を静かに示していた。

そんな中、私の中学校では、視聴覚委員会というものがあり、活動内容としては朝の放送と昼休みの放送を担当する放送委員会のような役割なのだが、生徒総会で視聴覚委員長が、
「活動内容としては朝はクラシック音楽を流し、昼休みは生徒のリクエスト曲を流したり・・・」
と、全員が知っている仕事内容を淡々としゃべっていた。視聴覚委員長の言う通り、朝の放送はいつも決まって同じクラシック音楽が流れて8時20分を学校中に宣告してくれて、昼休みは流行りのJ-POPとか洋楽が流れていた。

他の委員長と同様に無難な活動報告に終始し、質疑応答も挙手する生徒はいないだろうなあと思っていると、当時同じサッカー部の左サイドバックだった神田君が静かに挙手していた。

正直、おい、生徒総会早く終わらせたいのに、という雰囲気が体育館中に一瞬流れたような気がしたが、ただただ右手を垂直に挙げて前を見据える彼の姿を見て、私は彼なら何かやってくれるかもしれないとかすかな期待感に少し高揚した。

彼は当てられ、マイクの前に立ち、言った。

「なぜ、朝はクラシックなんですか?なぜクラシック以外は流さないのでしょうか?」

体育館全体が地響きを起こしたかと錯覚するほどの盛り上がりを見せることはなく、生徒全員がぽかんとしていたが、

僕には神田君が一瞬、蓮舫に見えた。

 なぜ一位じゃないとダメなんですか?二位や三位じゃダメなんですか?というあの質問をした蓮舫かのごとく、視聴覚委員長に、いや、朝はクラシックと思い込んでいる世論一般すべての人を巻き込み、切り込むその本質的な問い!!
ナイス!ナイスだ神田君!!
確かに、なぜ今までの僕たちは朝の放送でクラシックだけが流れることに違和を感じなかったのだろうか!なぜ朝はクラシックと思い込んでいたのだろうか!
朝から陽気なJ-POPとか洋楽が流れていたほうが、僕たちの勉強のやる気も上がっていたかもしれないというのにい!!
さすが左サイドバックの切り込み隊長!
敵陣にドリブルで切り込んでいくその姿を、いつも僕はゴールキーパーとして後ろから見ているぞお!!よし!よく言った!!

質問された視聴覚委員長は完全に困った様子で、「あ、いや、朝は静かで穏やかに始まったほうがいいのではというか、、はい、、、、。」

質問した神田君は自分が納得するまで質問し続けるようなことはせずに、視聴覚委員長の曖昧な回答を聞いて、自席に戻っていた。
神田君の席に戻っていく後ろ姿は僕の目に焼きつけられ、この時の生徒総会は僕の中学校の思い出の5本の指に入るといっても過言ではない。

神田君とは、中学校を卒業して以来一度も会っていない。意外と当事者の記憶には残っていなかったりするかもしれないから、いつか本人に当時どんな気持ちで質問したのかを尋ねてみたい。


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