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ともだち

いつから居なくなってしまったのだろう。
私の友達は。

小学生の頃は、お互いの家を行き来するような子もいたし、誕生日会に呼んだり呼ばれたりもした。
家に帰ればランドセルを放り出し、近所の友達と陽が落ちるまで遊んだ。

当時、家の中でオリジナルの謎ダンスを踊っていたら、迎えに来た友達数人に目撃されてしまう、というトラウマ級の失態を犯したが、何事もなかったように受け入れてもらえる、そんな良い時代であった。

中学にあがり、新入学のタイミングで引越しをした事もあり、話せる人のいない日々が続いた。
ハンカチを握りしめ、一点を見つめながら時間が過ぎるのを待っていた。

しばらくして、誰も知らないあの子は誰なのか、と言うような噂が広まり、勇気を持って話しかけてくれた子と友達になれた。
危うく都市伝説になるところであった。

彼女には感謝しかない。
帰りはいつも一緒に下校し、陽気な彼女のおかげで友達も増えた。

その彼女、仮に花ちゃんとする。
花ちゃんはリーダー格ではないが、誰とでも上手くやれる、人として魅力的な女子であった。
ある日突然、幽霊が見えるのだと告白し、周囲を驚愕させた。

音楽室の壁からおばあちゃんが生えている。
廊下の角に俯いて佇む作業着のおじさんがいる。
先生の後ろから覗きこむ女性が怖い。

正直わからなかった。わたしには何も見えない、聞こえない。
だが面白い。

友達数人で何も見えない音楽室の壁を見て怯え、廊下の角を見ないように猛スピードで通り過ぎ、先生の授業は居眠りで乗り切った。

オカルトが盛り上がっていた時代。楽しかった。
校庭でUFOを呼んでいるクラスメイトもいたし、幽霊が見えると言ったり、心霊写真が撮れたと言ってもバカにされたり仲間はずれにされる子はいなかった。
そんな仲間に囲まれて、楽しく、時に怒られながら3年間過ごせた。

この時点でまだ友達はいましたね。

高校進学は示し合わせた訳ではなかったが、花ちゃんと同じ学校になった。
クラスは別だったが、部活は同じで登下校も一緒だった。
高校生になると、クラスの中で幽霊が見えると言ってくる子もいなかったし、校庭でUFOを呼ぶ子もいなくなった。
女子はメイクに夢中になり、花ちゃんもクラスメイトと同じように、当時流行したガン黒メイクをマスターし、カラオケに繰り出す放課後を送るようになっていた。

下校時、クラスの違う花ちゃんに一緒に帰ろう、と声を掛けに行っていたが、断られることが多くなり自然と足が遠のき、疎遠になっていった。

それからは自分のクラスでのポジションを定めるべく迷走していた。
かわいい訳でもなく、おしゃれでもなく、なんの取り柄もない私は、仲間に入れたグループから追い出される訳にはいかないと思案していた。
当時はグループに入れない者は空気のような存在だったからだ。
今思えば、バカバカしい話だが、私の世界はそれほどまでに狭かった。

一度、何か発言したら天然で面白いと言われたことがあり、天然キャラになりすますことにした。
わざとズレた発言をしたり、お昼ご飯にうまい棒を食べたり、個性的なヘアカラーをしたり、妙なデザインのピアスをつけたり。
自分の中の天然キャラのイメージを実行したが、だいぶ間違っていたと今となっては思う。

頑張っていた。本来の自分ではなかった。はみ出さないように、空気扱いされないように。

おそらく偽物の天然キャラなど気付かれていたと思う。
女子は鋭い。そして賢い。
騙されたフリをして、何も言わないでくれたのだろう。
今でも恥ずかし過ぎて燃え尽きそうだ。

自分ではないキャラクターを演じ、必死に作り上げた別の自分。
そのあたりで友達といえる人は、いなくなっていたのだろう。
それはそうだ。偽物にはなんの魅力もない。
学校で一緒にご飯を食べる仲間はいるが、休日を一緒に過ごす友達はいなかった。

おそらくこのあたりですね、友達がいなくなったのは。

その後、偽物天然キャラを脱ぎ捨てた私は、あれよあれよと本来の自分に戻り、ひっそりと静かに生活している。
そして「知り合い」「職場のメンバー」などと当たり障りのない日常を送るだけである。

今でも時々、羨ましいな、と思う事がある。
何でも話せる友達。
困った時に助け合える友達。

先日、我が家の小学生男子が、「今日は校庭で
友達と、龍を呼び出す。」と言って登校したので、順調に育っているなと思いつつ、その友達を大切にして欲しいと思った。
その翌週、「今日は校庭にUFOが来るらしい。」と言って出て行ったので友情は順調に育まれているようだ。

我が子にファンキーな友達ができて誇らしく
思う。
私にはできなかったが、我が子には友達に囲まれる豊かな人生を送ってもらいたい、と切に願っている。

今日の就寝のお供
みうらじゅん 「マイ仏教(新潮新書 421)」















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