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渇望する力

私は生まれてこの方、ありがたいことに、両親から無償の愛を受け続けてきた。これに関しては誰がどう見ても確固たる事実だと思う。だけどそんな環境に身を置いていたがために私には不足しているものがある。

それは「渇望する力」だ。

それは喉から手が出るくらい愛情を渇望する貪欲さだ。両親からも兄弟からも愛されて育った私は、友達と喧嘩しても、惚れた人に好きになってもらえなくても、いつだって周りには信頼してる人がいて、私に安心感を与えてくれた。現に、中高時代の親友が大学進学と共に人格が変わってしまったのを感じた時、割と簡単に手離してしまうくらい人に対しての執着が少ないのはこういった背景があるからではないかと思う。

無条件の愛情がたっぷり入ったぬるま湯に浸かってきたあまり、人から好かれる話し方、愛想、態度の取り方などその他諸々を学ばないで生きてきてしまったのだ。

そして私は高校を卒業し、一人暮らしを始めた。一人暮らしを始めたからといって親や姉からの愛がなくなったわけではもちろんないが、やはり今までずっと顔を見て相談してきた人を失ったため、かなり孤独を感じることが多くなった。単に失ったというだけでなく、家族より新しい人との新しい関係を自ら求めていたということもあるが。
一人暮らしを始めてから、私の心は不安定になった。色々なことと戦わなきゃいけないし、新しい人間関係の構築も思い描いていたようにはいかず、今までの人生で一番もがき苦しんでいた時期のように思う。

新生活で新しい関係を求めていたにも関わらず、私は新しい人との関係の構築方法を失念していた。中高一貫校だったためその中で友達を作ることは簡単だったが、「大学」という大海の中ではその時の要領では友達ができにくいことを実感した。

しかし、そもそも人と仲良くなることは、「習得」とか「構築方法」、みたいな固い言葉で修飾することではないはずなのだ。
ただ、あなたといると楽しいとか、大好きだとか、また会いたいとかそういう気持ちを素直に言葉にしたり態度に出すだけなのだ。人は同性からも異性からも好かれていると感じたら大抵悪い気はしないし、その気持ちを汲み取って相手も好いてくれ、仲良くなるというのが自然の流れだ。

ただ振り返ってみると、以前から交友関係の構築にはかなり消極的だった。相手の方から積極的に優しくしてくれたり仲良くしてくれる人と一緒にいる、というのが私のスタンスだったし、それについて考えたこともなかった。それで十分楽しかったし、ありがたいことにその時々で歩み寄ってくれた人がいた。

こんなふうに、積極的に仲良くしてくる人に甘えてしまったために、私は離れて欲しくない人に対して日頃から気持ちを伝えたり、必死になって止める貪欲さみたいなものが不足しているのだと思う。好きな人には好きと伝えるべきだし、そうしたらもっとたくさんの人と仲良くなれる可能性は広がるんだろうなぁ。

そして異性が絡むとさらに私の能力不足が顕著になってくる。
大学に入ってから、「男に媚びるのがうまい女」というものをよく見かける。きっと誰しもの周りに1人や2人いるだろう。

「男に媚びるのが上手い女」というのは、容姿、会話の仕方、笑顔、ボディタッチ、という様々な部門において持てる技を最大限に駆使し、いかに異性からかわいく見られるかというところで日々闘っているプロの人たちだ。

私はそういう類の女に、妬みなのか分からないがとにかく負の感情を抱き続けてきた。それも強烈に意地汚い感情だ。
なんでだろう、といつも思っていた。「嫉妬」では片付けられない強い負の感情の根幹をずっと知りたかった。

それがついにわかったのだ。

そういう人は、喉から手が出るほど愛を渇望していて、それ相応の行動をしているんだ!そうしないと愛してもらえない、そういう意識があるのか無意識なのかは知らないが、そういう考えがベースにあるんだ!!!自分に持ってない能力を備えているし、彼女たちの努力は半端じゃない。 そしてその能力を駆使して私にはない経験を得ている!!(場合が多い!!)

何言ってるんだ、当たり前だろうと思う人が大多数だと思うが、私にとっては大発見だった。

単にチヤホヤされている状態が羨ましいのではなく、そういう熱量やテクニックなど私が持ってない何かを持っていることへの羨ましさだったのだ。

男に媚びる女からすれば、私は甘っちょろい箱入り娘のへなちょこ野郎だったのだ。何が孤独だ。お前には雑草魂が足りん!と思われているかもしれない。
読んでくれているあなたの中にも、なんて平和ボケした奴なんだと思う方もいるかもしれないが、こればっかりは今気づいたのでどうしようもない。

自分が男に媚びることが苦手だというのは随分前から知ってたけど原因がここにあるとは思わなかった。

そう考えると男に媚びるのがうまい女はそのテクニックにはもちろん、力強さにも尊敬の念を覚えるし、愛おしくてかわいい存在にも思える。

小手先でどうにかしてやろうという精神やチヤホヤされる自分に陶酔している姿は見習うべきものではないかもしれないが、その貪欲さと強かさは確実に私に不足しているものだ。

彼女らの良いとこだけを抽出して、少しずつでも欲しいものを欲しいと言えるような素直な人間になりたいと思う今日この頃である。



※2019年8月18日執筆

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