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【ランプの精 ①ランプのせい】


地球が丸い事がわかるような、きれいな砂漠。太陽が沈むという表現そのままで、綺麗だなと感じる。一面オレンジ色に染まるその景色は、感動を超えため息が出るものだった。
「こんな景色が見られるなんて」
「隣にこんないい男もいて」
「…そうね」
「いつもみたいに嫌がらないの?」
「まぁ、だって事実だし?」
柄にもなく口づけを交わした。

高円寺で雑貨屋を経営している男と恋に落ち、仕入れと言って彼と趣味の海外旅行を楽しむ。もちろん毎日が刺激的で楽しくて、1人では経験できなかったことをいまどんどん経験している。
日照りのきついこの国では芸術的なグラスや電灯、食器や棚なんかも日本のものとは異なり、きらびやかな物が多い。

ふと彼と入った雑貨屋。看板もなく客は1人もおらず、小物は素敵に飾られているが嫌に静かで、紫や赤の薄いタペストリーが怪しげな雰囲気を醸し出していた。
下の方に置かれた小物は、少し砂埃を被っている。あまり動かされていないということがこの店の客足を表現していた。
天窓から差す光の下、そこにはひとつのランプが置いてあった。
「みてみて、このランプ。まるでアニメに出てくるような」
「本当だ、よく作られてるな」
美しい湾曲型で、細部まで巧妙に作られていた。手のこんだこのランプを彼の店においたら面白そう。彼に、店主へ値段を聞きにいくよう促す。
『これはいくら?』
『…』
「なんて?」
「これ、品物じゃないらしいよ、売り物でもないし知らないって」
「え、綺麗に置いてあったのに?」
「別に持ってっていいって」
「なんか悪いわね…あ、じゃあこれ、これいただくわ」
店主の横に並べてあったネックレスを指差す。
勾玉のような形をしていて、組み合わせると一つの円になる。恋人とペア用なのだろうか。
店主はこちらが日本人なのをお構いなしに、母国語をつらつらを話していた。
「ねえ、いまなんて言ってた?」
「俺も少ししかわかんなかったけど、会える、とか離れない、とか」
「なんだろう、お金払ったし大丈夫よね」
「うん、大丈夫じゃないかな」

店を出たところで、向かい側に女性が二人塀に座っていて、こちらを見ながらヒソヒソ話していた。
「なんか言ってる?やな感じね」
「魔女って言ってる」
「魔女?ここって魔法使いのお店なの?」
「おなじ地球でも本当に知らないことだらけだね」
「ね、ほんとそう」
街には人が溢れていて、馬車も野良犬も、屋台もたくさん見えた。
「…ここの人たちも生活してるんだなって思うね」
「当たり前の日常を過ごしてるんだろうね、今日も」
「それは誰も奪っちゃだめだよね」
「うん、だめ、たとえ神様でもね」


ホテルまでの長い道のりを戻り、手に入れた商品ををカバンへ詰める。ランプを手に持ったとき、からからと中で音がした。でもランプの蓋は固くなっていて、開かなかった。もともと溶接されている作りなのだろうか。それから洋服を使って、ランプを大切に包んだ。ペンダントも、壊れないように。
商品は売れなくてもいい。彼と話したことや見たことを、そのものを見て思い出せればいいんだ。私の日常も非日常も、誰にも奪わせない。




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