見出し画像

【脱がせてもらっている時間は時間に含まれていないと思っていたでござる ③シニガミのはなし】

「まだ居たか!」
敵だと思い剣を抜く。
「えっちょ、ちょっと危な!なになに、なんやねん、見えてる感じ?」
言葉遣いが変な男だった。しかも刀を持っていないとは。
「ちゃうねん、俺はなんかそういうんじゃないねん。てかなんで見えてんねん」
「オサジマから離れるでござる!」
「いやいや、こいつ死んでん。いま転生終わったとこやねん」
「死ん…?」
オサジマへ駆け寄る。
オサジマは既に息をしておらず、触れた時には身体に力が入っていなかった。
「…」
「大量出血やな、死因は」
「お前は誰だ!」
「なんで怒ってんねん。てかなんで俺が見えるん?」
「変な服を着て、変な話し方をしている、お前は誰だ!」
「俺はどう見たって死神やろ。」
「死神…?」
「え、知らん?この時代って死神って概念ないん?」
隙を見て剣を彼に向けて振りかざした。
「いってぇぇぇぇえ、何すんねん!!!危ないってぇ!」

肉を捉えた感触があり確実に仕留めたものの、血が全く出ず傷すら付いていなかった。
黒い服の男が何を言ってるか全く分からなかった。神の存在は知っているが、死の神?どういうことだ。
「やめてなぁ、それ。…人は死んだらな、転生すんねん。ほら、輪廻転生あるやろ、ここ仏教の国やんか。あれ割と合ってんねん」
「転生…」
「オサジマはな、転生ルーレット選んでん。地獄でも天国でもなく。今結構増えてんでルーレット選ぶやつ、転生早いからな結構」
「何の話だ」
「てかなんで俺が見えてるん?お前能力あるんなんか?」
死神と名乗る男は喋りながら黒い箱の様なものを操作していた。

「あ~治癒能力あるんや、覚醒すんのはまだまだやけど」
「何の話だ」
「いや、俺見えるヤツって死んでるやつやねん。でもお前は生きてるやろ?そういう奴はな、普通のやつではないねん。なんか上手かったりせえへん?スポーツとか絵描くのとか」
「剣の能力は褒められるが…」
「あ、そうそう、そういうやつやねん。」
「さっきからお前が何を言っているか全く分からない。でも、オサジマはどこかへ転生したという事だな?」
「あっそうそう、1990年?の時代行ったで。しかもあいつまた人間でさ。ほんまラッキーやん。大人になったら本書いて賞獲るんやで」
「本!」
「なんか好きなんやろ、あいつ、文書くの。記憶は引き継がれないけど、好みとかはやっぱ残るねんなぁ。ちゃんと周りに評価されるみたいやで」
「良かった…」
人が亡くなったことより、どこかでオサジマが生きていて、好きなことで評価されている。
例えこの死神ってやつが嘘をついていたとしても、いまの自分にはそんなふうに安心出来る言葉が必要だった。

「俺忙しいからもう行くで」
「あっ、待ってくれ。もう一人、もしかしたら怪我をしている人がいるかもしれない。助けてはくれないか」
「いやいや死神やから、そういうのは出来んて。死なんと。」
「でも大切な人なんだ…名をハナという」
「はいはいハナね…」
また死神が黒い箱を取り出し、なにやら指を動かしていた。
「あー大丈夫やわこの子は。絶対大丈夫や」
「なぜ言い切れる。もしかしたら今も怪我をしているかもしれない」
「いやいや、この子めっちゃ強いわ、安心やわ」
「…?」

「あっ、でも…」
「あかんわ、将来生まれる子が事故死するらしいわ。あんたの娘ちゃう?これ転生した後の。うーわしかもその子大変な仕事してはるわ、…これ見てられんわ」
「何が起こるんだ!俺の子供…?事故死…?」
「いや子供って言ってもだいぶ遠いで。現世終わってから転生したあとやし。あっ、しかもこの時代、オサジマヤスナリが転生した時代と同時期やわ。…え、オサジマ自殺するやん…まじで見てられん。」
「自殺…?」
「てかあんまり言ったらあかんねんこういうの。閻魔様えぐいねんて」
「…なにか、何か助けられる方法はないのか!」
「未来を変えたらあかんねんて、いろいろやってる死神いるって噂よう聞くけど。俺は保守派やねんて。」
「頼む、なんでもする。俺の存在で、いまオサジマが殺された。しかも子供がなくなる、そんな…そんな未来なんてあってはならないはずだ」
「そりゃ、そうやけどさぁ」
「今の人生が終わってもいい。もう十分生きた。いやもう生きてはいけないくらい人を殺めてしまった。」
「頼む。なんでもする。この通りだ…」
俺は黒い服の男に対し頭を垂れた。
「…しゃあないな。ほんま嫌やねんけど。流石に身近な人の自殺とか子供が死ぬのは見てられんよな。」
「ありがとう…」
「どうしたらいい」
「とりあえずまあ、こっちの時間軸行くか。」
ふとその場にいるオサジマを見ると、心なしか安堵の表情で眠っているようにも見えた。
黒い服の男が指を鳴らした一瞬、瞬きの間の闇で見たこともない明るい街へと移動していた。




この記事が参加している募集

推しの芸人

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?