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【カットステーキランチ ②ある街のはなし】


ある日、彼女と高円寺を歩いている時だった。
安くて可愛い古着を探すいつものコース。この街は安さだけでなく、個性も売っているからすごく好みの洋服や小物に溢れているのだった。
「ねえねえ、ヤス、もうすぐ私の誕生日!」
店先のワンピースを体に当てながら、彼女が僕へ言ってきた。
「えっこれで14800円、ダメだよ高すぎ」
「ぶー!ぶー!」
彼女はブーイングしながらも、楽しげな様子だった。
「可愛いものがいいな、でね、身につけられるやつ、そして実用的な」
「そんなのあるかな、この街に」
「実用性はいいや、二の次」
そんなどうでもいい会話をしながら、この街では有名な、店の外まで雑貨で溢れている雑貨屋に入った。
「わぁあ!可愛い〜」
彼女は目をキラキラさせ、いろいろな雑貨を物色していた。
「これ、これも好き!好み!」
「確かに好きそう」
「わ〜なにこの変な形のネックレス!」
そこには勾玉のような、不思議な形をしたネックレスが置いてあった。
「これ、なんか意味がありそう」
彼女はネックレスを手に取り、ふと値札をみた。

39800円。

「え、これが?」
ぼくはこの変な形の価値がわからなかった。
「なんか芸術家の人が作ったとか?」
「それにしても、だって石とかも使ってないし、重みも…そんなにいいものじゃない」
「もしかして、この勾玉の形、合わせると1つの丸になるとか?」
「ひとつの丸になったからなんなの?」
「ひとつしか置いてないじゃない。だからいいのよ、もう一つを持ってる誰かに会えるとか?」
「それはこの金額の価値ある?」
「それ以上よ、なんかワクワクする」
「ほら、高い物だから置いて」
珍しく彼女がずっと手にとっていて、なかなか離そうとしなかった。
確かに彼女の好みそうなエピソード(彼女の妄想だけど)がついてきてるから、いろいろ考えているんだろうけど。
「買えないよ、これは」
「買うんじゃなくて、もらうとしたら?」
「貰う?」
彼女がイタズラに笑った。
その目線の先にはレジ。そしてレジには札が置いてあり
【トイレ休憩中です。しばらくお待ちください。】
古い雑貨屋。ここの店主はおじいちゃんで、家の一階を改装したような作りになっている。
お店自体も相当古く、利益目的でやっているような雰囲気ではなかった。
「いや、さすがに」
僕は彼女がやりそうなことがわかった。
「…」
「…」


魔が差すってこういうことなんだな、なんて呑気なことを考えながら、気づくと高円寺の街を走っていた。
右手にはネックレス。左手には彼女の手。
さっきまで見ていた古着屋たちが、一気にフィルムカメラのような色合いになって僕らを照らした。
5分くらい走ったところのパチンコ屋の裏で、彼女と座り込んだ。
「きゃはははは」
「はぁ…はぁ…」
2人で息を切らしながら笑い合った。
「これ…、一生の思い出になる!」
彼女はヴィランのように悪く、でもとても無邪気に笑っていた。
「…バレたら捕まる?」
「ううん、万引きくらいじゃまだ」
「どきどきしながら生きてくのかな」
「このどきどきは今しか味わえない気がする。きっと忘れちゃうよ。」
「悪いことしたのは忘れたいけど、これは忘れたくないな」
「うん、…うん」
なんだか彼女と考えてることがおんなじ気がして、この日のことを忘れないようにしようと誓った。ネックレスはというとその日から彼女が着けていて、見るたびに走った街並みを思い出すのだった。




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