見出し画像

ヒマワリの理由(わけ)







7月の半ば、まだヒマワリが咲き始めた頃
とある中学校の校庭の、鉄棒付近の花壇に
誰が植えたのか、人の背丈ほどもある大振りのヒマワリが一輪だけ咲いていた。

咲いていた、と言うには少々語弊があるだろうか。何しろ、ようやくヒマワリが咲き始める時期だというのに、それは深々とこうべを垂れていたのだった。


お昼休みに、仲の良さそうな男子3人と女子2人がそのヒマワリを遠巻きに見ながら話し合っている。「ヒマワリのやつ、なんであんなにしおれてんだ?」がテーマだった。

正人が言った「きっと水が足りn「ハラでも痛ぇんじゃねぇの?いやてか、ひょっとしてふられたんじゃね?」・・・そばから、純平によりあっさり土俵際押し出し。

「ふられたんかなー?そんな話、聞いてなかったけどなー。朝の占いがサイアクだったから、とか?」ノブこと信行もあごに手を当てながら推察する。

「ちーがうって。ぜってーにふられたんだってば。みよろあの垂直180度の凹みっぷりよぉ」純平は譲らない。「そーうかなぁ・・・ちょっと俺、行って話してくるわ。」ノブがたたたっと、身軽な走りっぷりでヒマワリに近づいていった。

しばらくして、とぼとぼとノブが戻ってきた。「どうだった?」「・・・ダメだったー」「あいつ何て?」「それがどーにもこーにも、何聞いても、だんまりでさーあ。どうせ些細なことだと思ったんだけどなあ・・・」ノブがお手上げのポーズを取る。

「ノブはだめねー。せっかちで。」愛実が手を頭の後ろで組み、やや見下ろしたようにダメ出しする。
「なんだよー。愛実はなんでアイツがあんなにひしゃげてるのか、わかるのかよー」ノブが応戦するも、純平が「そうそう、ノブはせっかちすぎる!」と上から漬物石一個追加。ごん。

「ゔーーー」「はいはい、フクれないのー♪」ケラケラと笑いながらノブによしよしする女の子は、青い瞳に明るい水色の髪を持つHTMLだ。何でもハーフの帰国子女らしいのだが、名前のあまりのヨコモジっぷりに、略しに略して「エル」と呼ばれている。

「次は誰が行くの?」エルが尋ねる。「愛実に決まってんだろう。そこまで言ったからには、ヒマワリのやつ立ち直らせてみせろよな!」普段は温厚なノブも、さすがに腹が立っているらしい。「はいはーい。まあそこで見てなさいよっ♪」ぱたぱた、といかにも女子らしい走り方でかけていく。

「・・・」「・・・?」話し声が風に乗って辛うじて聞こえはするが、キャッチボールにはちょっと遠いくらいの距離で待機する彼らには内容まではわからない。

愛実がしょんぼりとした様子で帰ってくる。「あれれ?愛実ちゃんどーしちゃったのかなー?」今度はノブの反撃。

「・・・」「え?なに??」「こっちの目を見て、話してくれないのーーー!」若干涙目になっている愛実。どうやら、相手が心を開いてくれるはず、と相当自信があったらしいのだが・・・。

「・・・あたし、お父さんにいつも教わってたもの。どんな相手も、目を見て誠実に話せば、きっと心が通じ合うって。なのに、なのに・・・」うわーーーーん、と泣き出してしまう。さすがにノブもこれ以上からかう気にはなれず、困り果てて純平を見ると「あーあ、ノブが泣ーかしたーーー」と取りつく島もない。すんすん泣いている愛実をエルが慰めていると、正人が人さし指を上げて発言した。

「ね、みんな、ヒマワリに目は・・・「よぉーし!今度は俺の番だな。」そして、元気な純平にまたもや捻りつぶされた。あはれ。

「純平、何か勝算はあるの?」しゃがみこむ愛実の頭を、同じくしゃがみこんで撫でながら上目使いに尋ねるエル。「うん、あるっ!」仁王立ちで答える純平は元気よい。難しくは考えないタイプなのだ。「だいたい、ヒトが落ち込むなんて理由は決まってるんだよ。ハラが減ったか、人間関係か、どっちかだ。」「だから、あれは植b「俺はズバリ!恋愛と見た!!!」・・・誰か正人の話を・・・。

「というわけで、俺に任せろ!行ってくる!!」

だーーーーーッと陸上部らしい加速ですっ飛んでいく純平。残された4人にそよそよと風が吹いている。「・・・あいつらしいな・・・」誰ともなくボソッとつぶやく。

ほどなくして、行きの勢いはどこへやら、右に左にフラッフラ揺れながらこちらに向かってくるカカシ、いや失礼、純平の姿があった。

「・・・何??どうなったの・・・???」不安げに愛実が尋ねる。エルに慰められてすっかり落ち着いたようだ。いつもの愛実に戻っていた。

「・・・俺よぉ・・・アイツに聞いたんだよ。『相手、いるんだろ?言っちゃいなよ!誰?どこの組の子?』ってさ・・・そしたら・・・そしたらさ・・・」おおお、と悲壮感に耐えかねるように両手で顔を覆う純平。

「・・・アイツ、相手、いねぇんだとよぉぉぉぉぉ・・・!!!!!」

・・・一同、沈黙・・・。

「・・・そういえば、この校庭にヒマワリはあの一輪だけだね・・・」思い出したように正人がつぶやく。皆、無言で同意。

「なんだなんだ、どうしたお前らー?」突如熊が、いやいやいや、体育教師の熊田が声をかけてきた。「さっきから校庭の隅っこで固まって、何をやっとるんだ?」

口ひげも顎ひげも伸ばしていて五部刈りで、正しくくm「なんだ、アイツか?ここ2ー3日、めっきりしおれよってなぁ。どれ!俺が行って前向きな気持ちにさせて来てやる!心配するな!おう正人!信行!お前らも手伝え!ん?なんだ純平!おまえも元気なさそうじゃないか!一緒に来い!俺が喝を入れてやるー!」

ろくすっぽ話しも聞かないまま、シャケ3匹、じゃなくて男子3名を引きずるように連れて、熊は森へ帰っt…ヒマワリを励ますべく行軍して行った。

残された女子も、何とはなしにその後をトコトコと付いて行った。

「おう!ヒマワリよぅ!」熊田が怒声を、じゃない、大声を張り上げる。が、至近距離すぎて傍目には怒鳴られているようにしか見えない。「何があったか知らんが、人間、姿勢ってもんが大事だ!そんな夏の終わったヒマワリのような姿勢では、出る元気も出て来ん!」「いや、だからそれヒマワr「日本男児なら、男らしく胸を張って上を向けぇ!!!」正人(以下略)


しーーーーーーーんんん・・・

ヒマワリは、一言も答えない。

「何じゃあ!その態度は!人がせっかく心配してやっているというのに!おい、正人、純平、信行、手を貸せ!コイツの歪んだ性根をたたき直してやる!上を向け、上を!そんな下ばかり向いていては、心身に毒だ!」熊田は男子達の手を借りて、4人がかりでヒマワリの首を無理矢理上に向かせようと力をかけた。みしみしみし、と悲鳴のような音が聞こえる。

「何あれ?!何やってんの?!?」ゆっくりと歩いてきたエルが異変に気付いた。セーラー服のスカートをひらめかせてだっと駆け出す。「あ、エル!」愛実の声が後ろから飛んできたけれど、構っちゃいられない。

「ふう、ふう、ふう・・・」「なんだコイツ、びくともしねぇの・・・」男子達が弱音を上げる。7月半ば、梅雨明けして、暑い盛りである。汗が玉のように吹き出てくる。

「お前ら!もう一回行くz「やめてええええええ!!!!!」


(湊川あいさん:画 ならざきむつろさん:文 
 お借りしました!感謝!)


しん・・・・・・・
男達の動きが止まった。
エルの気迫に押されてか、熊田まですぐには声を出せないようだった。


「そ・・・」しばしあって、熊田がようやく口を開いた。
「そんな事言って、お前がコイツをどうにかできるのか!」
「できます!!」

あまりにきっぱりと、間髪入れずに確信を持って放たれた言葉に、熊田も気圧されてしまったようだ。一度勢いが削がれると、再び建て直すのは結構大変なのだ。

「そ・・・それなら、エル!お前が責任持って何とかしておくように!後でちゃんと様子を見に来るからな!」体裁を保つためか、いつもより先生らしく言い放つ。「まったく最近の若いモンときたら・・・」とブツブツひとりごちながら行ってしまった。


「すっげー気迫だったな、エル」ノブが汗をぬぐいながらエルに声をかける。エルはヒマワリを見据えたまま、視線を動かさずに言った。「みんな、悪いけど少し二人だけにしてくれるかな。」有無を言わせない強い口調だった。



「エルのやつ、あんなに自信ありそうだけど、どうするんだろ?」歩きながら、ノブがやや独り言のように語る。「あれっ?エル!見て!」愛実が後ろをふり返って指さす。みんなもふり返る。


エルが、ヒマワリを抱きしめていた。

愛おしそうに、やさしく、ぎゅっと。

遠目なので定かではないが、口元には微笑みを浮かべているように見えた。


「あっ!あれ!!」愛実がまた声を上げる。「ヒマワリが・・・!」

皆の見ている中、ヒマワリが、ゆっくりと、ゆっくりと、顔を上げていった。男4人がかりですら上がらなかった顔が。

やがて、すっかり顔を上げたヒマワリの顔に、エルが両手を添えて、互いに見つめ合っているようだった。日はまだ高かったが、二人の姿がまるで逆光で輝いているように見えたのは気のせいだったのだろうか。





ふんふん♪と、鼻歌を歌いながらエルが戻ってきた。「エルー!お帰り!すごいじゃーん!」愛実が走り寄って両手をエルの右の肩に置いた。「ねねね、どうやったの?」「んー?・・・えへへーーー。な・い・しょ!」

「えー!なんだよそれー。」男子からブーイングが上がるが、エルは気にしない。「えへへへへーーー」何とも言えない幸せそうな笑顔を浮かべて、楽しげにくるくるとにわかダンスを踊っている。

「・・・水じゃ、なかったんだな・・・」正人がぽつりと言った。「んーとね、何て言うか、水ものどを通らなかった、みたいなの。」とエル。「・・・ええ???なんだよそれ???」

純平がエルに詰め寄る。「なあ、結局ヒマワリのやつ、何だったんだよ?!」「・・・んーーーーーっ・・・」エルは人さし指を口元に当てて、斜め上を見上げてしばらく考えている風だったが、ふいに純平をまっすぐ見つめて、こう言った。

「あのね、いいカウンセラーはね、決めつけない、寄り添う、話を聞く、そして秘密を守る、んだってよ!」そう言ってくるりと半転したかと思うと、そのままぱーーーーーっと校舎へ走って行ってしまった。

「あ、エルー!まーってよーーーー!」「おいエル!なんだそれー!教えろよーーー!」ばたばたばた、と残りの者たちも駆け出す。それを合図にしたかのように、昼休みの終わりを告げるチャイムがこだまする。晴れ渡った空と照りつける太陽に、これからうんと暑い季節が来ようとしている予感がした。


(了)





☆スペシャルサンクス☆

扉絵は湊川あいさんがご好意で書き下ろして下さいました。感謝! https://note.mu/llminatoll/n/n59aee548644d

「ある夏の日の、ちょっとした優しい不条理。」
扉絵のキャッチコピーはプラニングにゃろさん。ありがとうございます!



☆制作秘話的なもの☆

このショートストーリーは湊川あいさんとならざきむつろさんのコラボ作品を、自分が更にスピンオフ(?)して出来たコラボのコラボ作品です。

〜発端〜
まずこれが湊川あいさんコラボ企画。
HTMLちゃんかわいい((((* ´ ω`*))))
https://note.mu/llminatoll/n/n5b38921d7f6a

〜発展〜
そして、それに参加したならざきむつろさんのコラボ作品がこちらhttps://note.mu/muturonarasaki/n/nd9c1341a28bc?magazine_key=mf61d31debfc7

〜スピンオフ〜
ならざきさんの作品↑に自分、えらくウケまして
「しかし本当にどういう状況だこれw」ってならざきさんに聞いたら
「ご想像にお任せします(笑)」って返されてしまい
それで、想像がフクらんじゃった結果、この作品になりました。

(9月11日追記)
そしたらぐるっと戻って、湊川あいさんが素敵なすてきな書き下ろしの絵を描いて下さいましたー!嬉しすぎます!!!!!

(2014/11/2追記)
プランニングにゃろさんがキャッチコピーを考えて下さいました!嬉しすぎる((((* ´ ω`*))))

つたない文章ですが、めちゃめちゃ楽しみながら作成することができた、 #ショートストーリー #デビュー作#さわやか青春不条理ストーリー (?)でした。

最後まで読んで下さってありがとうございます(* ´ ω`*)ノシ

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?