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本読みの履歴書 18(最終回)

とうとう最終回まで来ました。
この「本読みの履歴書」は、18歳までに読んだ本に限っています。
昭和の時代なので紙しか無かったし(インターネット自体が無かった)、紙の本(含むまんが)を買うことが唯一の娯楽でありました。
前回はこちら。


<まんが:別冊少女コミック・花とゆめ・LaLaの時代>

自分も当時はまんが描きだったので、いろいろな少女マンガをちぎっては投げちぎっては投げ風に読み散らかしておりました。でもどういうわけか最後まで講談社系(フレンド&なかよし系)は読まなかったなあ。なぜなんでしょう。テイストが合わなかったという記憶があるのですが、そんなに出版社によってテイストがちがっていたのでしょうか。

当時は出版社が作家さんを独占していたというか、ある作家が「他社で描く」ということがほとんどなかったので、好みの作家が集英社と白泉社(と、小学館)に集中していただけかもしれません。24年組はすべからく好きでした。萩尾先生は神、大島先生も神です。


97.大島弓子 「綿の国星」

それ以前にこんな作品は読んだことがなかったです。
大島ファンだったし、それまでも「ヨハネが好き」だとか「すべて緑になる日まで」とか、もう出たら発売日に買いに行って読んでましたけどね。それでもこの作品は特別。


語彙が乏しくて、「すごい」という感想しか思いつきませんでした。
読んだのは日の光が明るい空港の売店でした。立ち読みです。たぶん、受験に行った帰りだったんじゃないかと記憶しています。
もちろんあとで本誌も買いました。

猫が主人公、ってのが、もうびっくりなわけですよ。
さらにその猫がエプロンドレスを着たちいちゃい奴で、そいつが「大きくなれば人間になれる」と思ってるところもびっくりで。
つまり少女が主人公でもないし恋愛も出てこないのに少女マンガで、少女マンガの感性と表現はどこまで行くんだろうと空の彼方を仰いでおりました。

おばけのような桜が
おわったかとおもうと
遅咲きの八重桜

すみれや
れんぎょう
花蘇芳

黄色い山ぶき
雪柳
なんとすごい
なんとすごい季節でしょう

大島弓子 「綿の国星」

この2ページ見開きの春の表現ときたら!
今でも暗誦できるほど覚えています。


98.萩尾望都 「11人いる!」

あえて「ポーの一族」でなく、「トーマの心臓」でもなく、こちらを。


もちろん「ポー」はすべて読んだし「トーマ」も読んでたし。何なら当時大変有名だった「迷宮'76」という名の同人集団による「萩尾望都へ愛を込めて」という同人誌(とても有名らしい)だって持っていました。どうやって手に入れたんだっけな? コミケに行く誰かに頼んで、買って送ってもらったのだと思います。組織的な通販なんか無い時代でした。

萩尾作品はいろいろありますが、今も一番心に残っているのはこれです。

入学試験のため宇宙の閉鎖空間に招き入れられた10人のはずの受験生たち。それぞれがまったく異なる星系と文化と生い立ちを持ち、協力せざるを得ないシチュエーションでどう生き残るのか、次々に襲いかかるアクシデントにどう立ち向かっていくのか。こんなものを生み出した昭和の少女マンガって、もう本当に言葉もありません。


99.青池保子 「イブの息子たち」

青池保子と言ったら「エロイカ」ですが、その先駆けとなった作品。
当時、同人誌をやっていた仲間たちと「どうしてこんなに古今東西の偉人・有名人を知ってるのか……というかネタに出来るのか」と感心したもの。

何でも出しちゃう強烈なギャグ・パロディだから今だといろいろ問題あるかもしれませんね(炎上しやすいとか)。宗教にゆるいニッポンで許されちゃいそうな釈迦と信者の少ないマホメッドは出しても、ジーザスが出てこないのはその辺を考慮して? だけどキリスト教系天使は出放題だったなあ。

とにかく面白くて2ページに一度は笑ってたし、主人公的立ち位置のヒース・イアソンのモデルだったキース・エマーソン(EL&Pのキーボード奏者。ライブでグランドピアノをたたき割ったりしていた)が自分の大推しだったのもあり、新作が出るたびにワクワクしてページを開いていました。
「ヒース、わたしを見て」の眉間に皺なニジンスキー(山岸涼子「アラベスク」のミロノフ先生のパロディ)とか、流行ったなあ仲間うちで。



100.森川久美 「そらの戴冠」

独特の雰囲気が好きでした。
これはマーガレット・コミックス「青色廃園」に掲載されていたもの。

お話はシェイクスピアの「リチャード三世」なんですけど、もうこの主人公の描き方が素晴らしい。シェイクスピアのお芝居とは全然違って、でも物語の筋書きは同じで。
シェイクスピアの「リチャード三世」はすごい悪人なんですけど、この物語では全然違います。あたかも史実に沿いながら見方を少しだけずらしてエンターテインメントとして大きな成功を収める大河ドラマみたいな、そんな印象を持っています。

著者はいま何をしていらっしゃるのでしょう?
……と検索したらちゃんとご本人のページがあったのですが、最近は更新がないみたい。引退なさったという話は聞かないのですが。

ほんとこの時代の少女マンガを牽引した24年組とその周辺はいろいろと表現の最先端を行っていたと思います。他のどの国にもこんなもの無かった。これらを日本語でいち早く読める幸せ、ですね。
この他にも坂田靖子、倉多江美、それから内田善美。数え切れない作家たちの数え切れない作品にどっぷり浸かって日々を過ごす10代だったのでした。
ああ何もかも懐かしい。


というわけで、森野を形成した18歳までの読書記録はこれでおしまいです。
古いものばかりですが、どこかでどなたかの琴線に触れるものがあればとても嬉しいです。

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