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小さなペラ紙に期待を馳せて

 8月初旬。きのね5周年直前展示企画として、これまできのね(のてんちょー)が制作してきたDMの中から約40種類ほどを展示した『きのねのおしごと DM制作について思うこと展』を開催しました。

展示風景

 きのねは2018年9月にオープンしました。まったく無名な中で、いかにして新たなギャラリーの存在を広めていくかは開店当初からの課題でした。もちろん、作家をお呼びし、魅力的な企画を打ち立てていくこと以上の仕事はありませんが、無名で発信力もなければ、どれだけ良い企画を出しても認知すらされず、「そんなのあったの?」と後から気づかれては意味がありません。作家の利益を考えるなら、まずはギャラリーの存在感を強めることも大事だと考えています。

 そこで、短期間とはいえ、デザイン業界にいた経験を活かし、オープン当初からDMのデザインできのねの存在感をアピールする作戦に出ました。この「DM」という存在は、作家やコレクター、アートファンといった方々が足を運ぶであろう美術館やギャラリー、展示企画ができる施設など、どこに行っても何かしら目に留まるとても身近な存在であり、きのねを知ってもらうメディアとして、とても良い媒体だと考えました。DMとはすなわちコミュニケーションだと思っています。展示会の開催を訴求する「広告」ですから、当然といえば当然なのですが、この基本的なコミュニケーションが無名のきのねにとって最も早く武器にできるものだろうと思ってのことでした。

情報面のレイアウト。同じサイズでもこれだけ展開が異なる。

 この5年間、本当にさまざまなDMをデザインしてきました。ひとえにDMといっても、一般的な定型サイズとなる148×100(mm)だけでなく、大型や変形と企画ごとに合わせて多様なサイズ、形状があります。きのねを始めてすぐの頃、奇抜な企画とDMで名を広めることに貢献した展示といえばおそらく『牛乳パック展』と『エビフライ展』だと思います。この2企画では、実際に牛乳パック型のDMを作ったり、エビフライ展については、A4タテのサイズでエビフライのイラストを載せ、手作業で任意のシルエットにカットして配布するという大変に手間のかかるDMを作成していました。

奇抜さが売りなDMたち

 どれだけ展示企画が面白くできようとも、こういったDMの存在がなければ、これほど盛り上がることもなかっただろうと思います。実際、DMを見て気になって来たという方が本当に多かったことを覚えておりますし、話題性もあってか、この頃から少しずつカフェギャラリーきのねの知名度が上がってきた実感があります。面白いものはとことん面白く。展示内容に負けないものを作ろうと常に意識しています。
その上で気をつけなければならないことは、展示内容を無視した、内容に関連性のないサイズ設計やビジュアル作りをしないことです。あくまで「この展示は面白そうだ」と感じてもらえるためのアプローチが大切です。DMデザインだけが先行してしまう企画はただただ悲しいものです。
昔読んだデザイン関係の本で「パッケージとは、内容物の一番外側の部分だ」という内容が書かれていました。DMはパッケージではありませんが、展示の存在を知る最初の入り口です。デザインする際は、展示を「内容物」として、一番外側の部分を見せる気持ちで制作に当たっています。

特色や箔、リソグラフと特殊印刷に挑戦したDMたち

 今や展示会の広告はSNSが主力であり、文化として紙での告知は今なお続いてはおりますが、ネット上での広告力が強いため、一部では「紙不要論」も出てくることと思います。しかしながら、このDMという紙モノに関して言えば、まだまだ働きがいのあるものと考えています。理由としては「マーケティングが完了した領域で物理的に配置され、不動であること」、「モノとして価値がある」の2つが要素としてあります。前者は、そもそもDMはギャラリー、美術館等アート好きな方が訪れる場所に設置されます。通常広告はどうターゲットを定め打ち出すか、という段階から入ることも多いのですが、その工程がDMにはほぼ必要ありません。さらにネット、特にSNSの情報は大変流動的で「最終日に知りました」なんてお声を聞くことも珍しくありません。物理的にアートファンが集まる場所に少なくとも会期が終わるまでは常に居続けてくれる紙媒体の存在は大変ありがたいです。さらに、ネット上の繋がりがないアートファンの方々への偶発的な繋がりを生むきっかけとして機能します。
もう一つの機能として「モノとしての価値」があると思います。好きな作家の作品が載ったTAKE FREEの媒体などそうあるものではありません。展示の記念にもなりますし、販売用のポストカードなどと違って増刷はまずありません。本当に限られた期間でしか手に入ることのない「限定もの」としての絶対的な輝きがあるのです。

 DMの役割は3つあると思っています。一つは展示会の情報を広める広告としての役割。これが何より最重要であることは間違いありません。二つ目は前述した通り「モノとして価値がある」ということ。DMはその機会を逃せば基本的には二度と入手できない限定ものです。そしてこれら二つは共通して「対外」に向けた役割です。
最後は出展いただく作家(内部)を鼓舞することであると思っています。

依頼されて作成した外部展示等も含めたDMたち

逆で考えてみましょう。いわゆる意匠性の悪いと評されるデザインが施されたDMの展示会に自身が参加する時、やる気が上がるか。いっそ、そこに自分の(作家)名を載せないでほしいとさえ思うこともあるのではないでしょうか。DMはそこに関わる人のモチベーションにさえ影響する媒体であり、展示全体のクオリティに響く要素であると信じています。「これに私は出るんだ」と作家のモチベーションが上がるお手伝いができたのであれば、DMを作る側としてもとても幸せなことだと思います。

 きのねのしごととは、もちろんギャラリーですので、展示を企画し、作品を飾り、販売する、本当にシンプルなフローが基本です。その上でまだまだ若輩なきのねにできることは、よい企画を作っていくことと共に、それを内外に響かせることです。DMとは展示に来られるアートファンの方に限らず、きのねから作家へ向けた広告でもあります。その精度、品質の強化をブランドにしていくことで、ギャラリーとしての付加価値を感じていただき、ひいてはきのねに関わっていただける作家たちのブランディングに貢献することだと思っています。


DM制作の基礎講座の様子

 本企画では、展示会の他にDMを制作するにあたっての基礎講座を開催しました。今やギャラリーだけでなく、作家間でもキュレーションを行い、展示を企画開催することが一般的な時代であり、DMを制作する機会がある方も多いだろうと思い、開催したものでした。
「かっこいいDMを作るため」、と言うよりは、制作するに当たって気をつけてほしいこと、守ってほしいことなどを中心に展開しており、初心者が陥りがちなポイントを回避できる講座にしています。これだけで仕上がりが随分と違ってくると思うのです。

DMとは、会期が終わればその役割を終える儚い紙媒体ですが、作家に代わり、展示へ向けた作家やギャラリーの熱量を届けてくれる大切なコミュニケーション媒体です。
作家の熱意を遠くまで届ける拡声器としての役割と、ギャラリー自身のブランディングの役割を載せて、今後もきのねでは他にない作家の世界観を引き立たせるDM制作を行って参ります。

おまけ
DMデザイン制作承ります。
きのねでは、きのねでの開催分以外でもデザイン制作を承ります。

基本デザイン費(10,000円)+入稿代行費(1,000円)+印刷費(紙の種類、部数、納品期間によって変動)

上記の価格で制作依頼を受けております。
折りでページ数が増えたり、箔押し等特殊印刷が入る場合は別途案件別で作業費を頂戴しております。

ぜひご検討ください。

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