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研究開発のデスバレー | 光の当たらない研究所の仕事

こんにちは。先日、開発部門のキックオフ会議がありました。全部で200人くらいが会議室に集められて半日缶詰。この手の会議は好きではありません😱

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はじめに

キックオフ会議で、研究所の所長によるゲストスピーチ(?)がありました。5年前まで私がいた研究所の現在のトップで、2ヶ月前から現在のポジションだそうです。

いつものこの手の会議はウチウチで実施するため、ゲストが来ることは皆無です。

何かあったんでしょうか?

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意識改革を実施します

研究所所長のスピーチの内容は『今から研究所をテコ入れするので、ご協力よろしく』でした。笑

具体的には、

・研究所の運営が迷走している
・ついては意識改革を実施する
・開発部門側から研究所に依頼が有れば遠慮不要
・その際、直で研究所の担当者に連絡してOK
・研究所の管理職とモメたら私に連絡してくれ

とのこと。

私が研究所から開発部門へ異動して早5年。異動後少し経ったくらいから、研究所の迷走っぷりは少し懸念してました。噂で聞くレベルでしたが。

このnoteでは、研究所に勤めた8年間のキャリアのうち、特に辛かった後半の4年間について振り返りたいと思います。

※ ここに挙げる内容は私の偏見にまみれた内容です。全ての研究所がこのケースに当てはまるわけではありません。会社や業種、地域など状況は様々ですので、あくまでエンタメの1つとして捉えていただければと思います。

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研究所の『闇』

私の考える研究所の『闇』は以下の通りです。

《社内ガラパゴス 研究所の闇》
・時間感覚が長すぎる
・組織として具体的な成果にコミットしていない
・トップの意向が研究所の指針に大きく影響
・研究所の指針が3年(所長の異動)毎に変わる
・方針ブレブレなので、長期的な方向性が定まらない

時間感覚が長いのは結構致命的です。ものづくりでは、どうしてもスケジュールがネックとなります。時間的な面で、研究所と他の部署とのプロジェクト自体がなかなか組まれなかったのも要因としてあるのかなと思います。

《研究所の時間感覚》
短期は1年、中期は3年、長期は5年

《開発サイドの時間感覚》
短期は数週間、中期は3ヶ月、長期は1年

開発部門的には1年先のことはわからない。研究所との調整も面倒臭いし、故に研究所に相談しないという訳です。

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研究所時代、当時の私の仕事

当時は、新規技術の開発が私の仕事でした。ただ、技術を作れば誰かが勝手に使ってくれる訳ではありません実用化に向けた基礎研究に加えて、それを開発サイドに売り込む仕事もセットでした。聞こえはいいかもしれませんが、かなり泥臭い仕事でした。

技術開発は、商品に使って貰えて初めて意味のある仕事なんですが、私から見れば先輩研究者の殆どが『我々は高貴な事をやっている』モードから抜け出す事なく、井の中の蛙と仕事してる感じです。笑

前述の研究所の『』を踏まえると、2度と戻りたくない職場です。笑

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新しい技術を開発サイドに売り込む

ちなみに研究所と開発部門は片道1.5時間くらいの距離にあります。週2〜3くらいで開発部門に通った記憶があります。

同じ会社とはいえ、技術の売り込みは一筋縄で行かないのが現実。

トップダウンの場合、皆んな必死になって取り組みますが、ボトムアップの場合、話は別です。何処の馬の骨かも分からない若者(私)が持ってきたイロモノの新規技術は見向きもされませんでした

そもそも研究サイドが考える『良い技術』と開発サイドの『良い技術』にはかなりのギャップがある事がわかりました。まずはそこの認識を埋める(開発サイドの意向を聞きまくる)ことから始めました。

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すぐ造れるの?投資はいくら?他社特許は?

専門家に相談に行っても、研究所勤務の私からすれば専門外の質問をいろんな角度から浴びせられます。そして大体撃沈します。

この際に相手からの質問や意見について持ち帰って調べ上げ、耳を揃えて提示する、という作業をただひたすら繰り返しました。ラッキーなことにそのうちキーマン(?)のうちの1人の目に留まりました。

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キーマンを取り込め

開発部門の開発責任者がキーマンとなります。そのお偉いさん方のうち誰か1人でも落とせないと使ってもらえません。死んだ技術となるわけです。

話しかけるのは相手が油断している時で、いつも喫煙所にいるところを見計らって攻め込んでいました。笑

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デスバレーを埋めろ

デスバレー(valley of death 死の谷)とは、研究戦略、技術経営、プロジェクトマネジメント等において、研究開発が、次の段階に発展しない状況やその難関・障壁となっている事柄全般を指す用語である。

その技術を使った商品を開発するにあたっては、当たり前ですが製造出来ることが前提となります。そのため、研究分野以外について調べまくって説得する材料を持っていく必要があります。

・製造工程は現有設備を使えるか?
・現有設備が使えない場合、投資額はいくらか?
・最終的なコストは大体いくらか?
・供給能力は十分確保できるか?
・他社の特許に抵触していないか?
・マーケティング部門は興味ありと言ってるか?
・その他リスクないか? 等々

これらの情報を集めるためには協力者を募る必要があったんですが、他部署の方はマジで反応が悪かったです。というのも、皆さん基本忙しく、販売計画が立ってない案件に対する協力体制はあまりかんばしくありません

そもそもどうやって造れそうですか?の質問から着手して、何度も開発部門に通い、その分野の特許も鼻血が出るくらい読みました。私にとっては辛い冬の時代です。

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みんなコストを気にしてる

当時、私が取り組んでいた新規技術は、残念なことに結構高額値段の話をした途端、相手さんが興味を失うのが常でした。そこから、コストを下げまくった仕様を考え出すことに。それが不幸中の幸でした。

ひょんなことから、マーケティング部門の先輩が海外のマーケット担当者へ紹介してくれ、棚ぼた的に実用化が決定。そこから、あれよあれよという間に商品化となりました。

そんなこんなで、研究所の技術開発のチームに在籍していた4年間で、私がメインで取り組んだテーマのうち、2つが実際に販売されるに至りました。

ウチの会社では、研究所から出た技術が実際に商品化までたどり着く成功率は極めて低く(私が知る限りだと今までで5件くらい)、打率としては申し分ない感じです。ちなみにホームランは出ませんでした。

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さいごに

冒頭の研究所所長の話を聞いていて『ついに(テコ入れが)きたか❗️』と思いつつも、その渦中にいる彼ら彼女らの現状を察するにいたたまれない気持ちになりました。力になってはあげたいものの、被弾は勘弁です。笑

すごくマニアックな内容のnoteでしたが、これから研究所勤務を志望する人、研究所でジレンマを抱えている人の目に留まればいいなと思っています。それではまた。

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