お題「逆光のみクジラ」

【海の王】(410文字)

　釣りに行ったら小さな魚が一匹だけ釣れた。
　こんな僕に釣られた魚はどんなバカな奴だろうと思って話しかけてみた。いつもバカにされている人間は自分よりバカな奴を見るとイジメたくなる。

「おい、お前はなんだ、マヌケな奴だな」
「私は海の王ですよ」
「ハッタリをかますとは生意気だな」
「本当です」
「じゃあ、証拠を見せろ」

　すぐに居丈高になる奴らのことを普段は忌み嫌っているくせに、いま僕は小さな魚に対して同じように振舞っている…。

「雲間から太陽が顔を出したら空中に投げてください」
「嘘つきめ」
「お見せしますから」
「まぁいい。どうせ食えるほど大きくもないからな」

　その時、ちょうど雲が切れて太陽が顔を出したので、僕は魚を空中に放り投げた。
　すると逆光の中で小さな魚はみるみる大きくなり、巨大なクジラになった。
「逆光のみクジラに戻った姿を見せられるのですよ…」

　海の王は、そのまま波間に消えていった。

　僕は小さく恥じ入るしかなく、最後には砂粒になった。

おわり

(2024/1/3 作)

たらはかに様の12/31～1/06のイベントに参加させていただきました☆
今回は裏お題です。

ちょっとブラックな仕上がりになってしまいましたね～(;・∀・)
元旦の午後に書き上げていたので、諸々の心理的影響ではありません…

今朝は我が家の洗濯機が壊れましたけれど、洗濯機程度でなんてありがたいのだろうと思いました…。しばらく手洗いがんばります。