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掌編小説【思色】

お題「手乗り文鳥」

「思色」

ぼくの小鳥が帰ってきた。
丸められた小さな紙をくちばしからはずして開く。彼女からの返信だ。
珊瑚色のちいさな折り紙の裏には「明日退院します」と書かれていた。
小鳥は窓辺で小首をかしげている。その姿に彼女の細い首筋を思い浮かべた。
僕は若菜色と薄浅葱の折り紙を見比べて、若菜色を選んだ。
色の数だけある折り紙は彼女が入院する時に僕に渡したものだ。
「この紙がなくなるまでに退院するからね」と彼女は言った。
折り紙は残り少なくなっている。
「迎えにいくよ」と僕は短くなった鉛筆で書いた。
窓辺の小鳥に「おいで」と呼び掛けると、小鳥はちょんと僕の手の平に乗った。
そして薄紅色のくちばしで僕が丸めた紙をくわえると、窓辺から勿忘草色の空へ飛び立っていった。

「思色、って知っている?」燃えるような緋色の折り紙をくわえた小鳥が僕の所に初めてやって来た時書かれていた言葉だ。
「教えてくれる?」僕は白色の紙に返事を書いた。
すると、文鳥と一緒に彼女が僕の所にやって来た。
「あの色は私の思いの色」と彼女は言った。
僕たちの日々は色彩に満ちていた。でも彼女のいない日々はモノクロだ。
僕は思色の折り紙を選び「おかえり」と書いて、彼女を迎えに行く。

おわり (2020/5 作)

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