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詩みたいな【小さな島】#青ブラ文学部

山根あきらさんの青ブラ文学部『港』に参加させていただきます。

【小さな島】(401文字)

小さな島に着いた。
あるのは漁港と宿が一軒だけ。
誰も知らない小さな島。

古書店で島の写真を見つけた時、目が離せなかった。

なんにもない…。

いえ、あるにはある。
空と海、家と人、港には船だってちゃんとある。
でもなにもない…そう感じた。

夕暮れの島を包む淡い光。
その中に、すべての輪郭が溶けている。
日が沈んだら、この島は消えるのだろう。

嵐が吹き荒れていた時、この写真が救いだった。
難破しかかっていた私にとっての、港。
清らかな聖母のような、島。

今、私はようやくこの島に帰ってきた。
初めて来たのにおかしいけれど。
そうとしか感じられない。

夕暮れの桟橋から沈みゆく太陽が見える。
光の中に、すべての輪郭が溶けていく。

同時に私の感覚も消えていく。
私は恍惚として身をまかせる。

泡になる人魚姫も、こんな風だったかもしれない。
悲しくは、なかったのだろう。
むしろ… 


遠くで魚が一匹、ちゃぷんと跳ねる。


ふたたび生まれ変わるであろう、喜びに。


おわり

(2024/2/1 作)


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