重要文化財の秘密 in 東京国立近代美術館
こんにちは。
東京国立近代美術館70周年記念展、
重要文化財の秘密 に行ってまいりました。
教科書にも載っている名作が、実は重要文化財になるのが遅かったり、全体を通して「評価軸は時代の中で変わっていく面白さ」を表現した展覧会だったのかなと思います。
作家の端くれですが、作品が時代の変化によって評価されて不滅になるというのは希望が持てますね。
SNSやHPで使われているキャッチコピーが「問題作が傑作になるまで」とありましたが、作品が評価されるまで時間がかかったにせよ、問題視された背景などは私の読み取る力ではわからなかったです。今回は音声ガイドを使わなかったのでもしかしたら音声ガイドでその辺りの説明がされていたのかも。
時代によって評価されるポイントが変わってしまう、評価が不変ではないというところがとても興味深かったです。
教科書の名作を各分野ごとに時系列に沿って間近で見られるとてもよい展覧会でした!
重要文化財の立ち位置
重要文化財ってよく耳にするのですが、そもそもどういう立ち位置にものなのかそのあたり曖昧でした。🔰
文化財?世界遺産?国宝…?似たような表現がたくさんあってよくわからないまま「何か貴重なもの」という認識でいました。
つまり、あえて比べるなら国宝>重要文化財
それらを総称して有形文化財ということのようです。
現在国から指定を受けている国宝・重要文化財は13,377点。
美術工芸品10,820点、建造物2,557点 あるそうです。
文科省からの指定は受けていても、所有者は個人や法人となります。それゆえに日常管理は所有者の役割となってしまいます。その費用やそもそもの修理職人の不足など、修理保全など守っていくのも大変なのですね。
祖母の家の近くの茅葺き屋根の素敵な古民家は、茅葺き屋根を修理する職人を見つけられず、屋根に変わっていました。
文化財については承知しました。
となると、世界遺産ってなんなんだ?と疑問に思って調べてみると、指定した機関の違いのようですね。
文化財は文部科学省ですが、世界遺産はユネスコとのことです。
きっと採択基準や価値の判断も違うのでしょう。
初めてちゃんと見たよ 横山大観
最初に圧巻だったのが、横山大観の《生々流転》
水の一粒が40mにも及ぶ旅を経て、大海へ流れ出て龍になる過程を描いた水墨画でした。
水面の表現の繊細さにうっとりでした。
白黒の世界なのに、色が移ろう。森を表していた余白がいつのまにか下流のゆっくりとした方川の流れに変わっていて、表現の奥深さを知りました。
松の木に書いていた黒い点々は松ぼっくりでしょうか。(撮影禁止)
じっくりゆっくり眺めて歩きたい作品でした。こんな壮大なものどうやって描いたのでしょうか。水面の表現が多彩で久石譲の音楽が頭で再生されていました。(綾鷹のCM)
どこかで見たことある、鮭
教科書で見たことのある油絵、高橋由一の鮭です。
油絵で初めて重要文化財になったそうです。実物大きい!そして鮭!
現物をありのままに写しとる「写真」を目指したのではなく、あくまで「油絵」というところが面白かったです。精巧緻密でいて、筆の動きがわかるように描いていて、それなのに実物の質感がありありと表現されていました。ヒレや鱗といった細部をまじまじと見てしまいました。
なんで鮭描いたのかなってずっと不思議だったんですよ。
西洋から伝わった油絵具や精密に質感を表現する西洋絵画の油絵に感激して描いたそうです。確かに日本画だとデフォルメ化したり、西洋絵画とはそもそもモノの捉え方が違いますもんね。
新鮮で楽しかったのかな。鮭の質感表現も、きっと色々探究しながら皮の感じも身の部分も描きたくて表現を追求していったのかな。入ってきたばかりの表現と画材で実験と研究を繰り返す高橋由一を想像して、勝手にエビフライを差し入れしたくなりました。
圧倒する、老猿。それは魔法のよう
トチの木から切り出された圧巻の高村光雲の《老猿》。
サイズ感とインパクトにびっくりでした。そこに、鬼気迫る猿がそのまま魔法で固められてしまったかのような圧倒的な存在感でした。
シカゴ万博で対外的にも認められていたにもかかわらず、重要文化財になったのは意外と遅めの1999年のこと。
1968年、明治100年を記念した近代美術品が多く重要運化材に指定された年、最終候補に残りながらも、ロダンのような西洋彫刻観が一番とされていた時代背景もあり、老猿は重要文化財になることができませんでした。あくまで西洋美術が「本物」とされていた時代だったのでしょうか。
目の前にいる老猿、手に握っているのは逃した鷲の羽。空を睨みつける眼光。それが「本物」と言わず、なんといえるでしょう。
高村光雲の老猿が選考に漏れた年、重要文化財となった朝倉文夫の《墓守》。ロダンに学んだも展示されていましたが、どちらが優れているということではなく、どちらも美しいと思いました。
老猿の方が好きですが、いずれにしても作者はすでに亡くなった後の出来事。
のちの作品評価の順のことは作者の心の外のお話のため、19世紀に生命の叫びのような彫刻を生み出した作家がいる、ということで、優劣や評価は時代の流れの問題なんですね。
朝倉文夫といえば、生前のアトリエを美術館にした朝倉彫塑館が台東区日暮里駅の近くにあります。
猫好きだったそうで、《吊るされた猫》がとても好きです。猫好きにはぜひおすすめの場所です。
🐈..
超絶技巧の工芸品
近代の工芸品が重要文化財に指定されるようになったのは、つい30年ほど前のこと。平成になって久しい、2001年からとのことで、とても意外でした。
工芸というと、人間国宝という言葉をよく耳にします。作品ではなく卓越した「技術」をもつ人間に与えるられる称号です。古くから評価されてきたのかと思っていましたが、2001年まで指定に至っていなかったことはとてもびっくりです。
現在、明治以降の工芸品で重要文化財に指定されているものは9点のみとのことで、今後どんどん増えていくのかと思うとワクワクします。
驚きの金属加工技術
油絵コーナーを眺めていて、はっと目を奪うのは真っ赤な壁を背景にした鈴木長吉の《十二の鷹》です。
1893年のシカゴ万博の際に、鷹狩の伝統儀式を再現したものだそうです。
作者の鈴木長吉が全体指揮をして、24名の技術者たちの手で制作された大作です。(二24人の技術者たちの名前はわからず)
圧巻の作品群ですが、重要文化財への指定は2019年と本当に最近のことだそうです。
本当に魔法みたいでした。
その他好きだった作品
他にも好きな作品がたくさんありました。
工芸、油絵、日本画。どれも印象的な作品ばかりです。
こちらの屏風、とても素敵でちょうど前にベンチがあったので座ってしばらく眺めていました。屏風にしても油絵にしても、ゆっくりベンチに座って眺めたくなる作品の魅力って不思議だなと思います。美術館の中のベンチ、とても重要だと思います。
油絵コーナーにはベンチがなかったのでちょっと残念でした。
教科書でみたことのある作品がたくさんあることはもちろん、日本近代美術の評価軸の変遷という視点で作品が展示されているのは面白かったです。
中盤にある、重要文化財指定年順年表を見ると、1955年から今日に至るまでの指定の変遷がわかります。(最後に改めて眺めるとわかりやすいかも)
「近代的なものや西洋を意識した作品」が早くから指定されていて、遅れて評価される作品、そして工芸品。評価の多様化が進んでいくと次の10年で一体どういう作品が指定されていくのか、今後が楽しみになりました。
展示詳細
東京国立近代美術館70周年記念展、
重要文化財の秘密
2023/3/17-5/14
会期中に展示入れ替えがあります。
ご注意ください!
黒き猫がまだ飾られていない時期だったので5月リベンジします。
外国の方がとても多かった印象です。なんか嬉しいなあ。
精進します。
切り絵作家 ひら子
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