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【映画】家族で『ウォンカとチョコレート工場のはじまり』を観に行った感想(ややネタバレあり)

※ 途中から「以下ネタバレあり」の挿入の下に若干のネタバレがありますので、ご留意ください。お気になさる方は、そこで引き返してください。

 本当は『ゴジラ-1.0』を観に行く予定が、拙宅山本家幹事長(4歳)が「こっちがいい」と指令を出されたため、急遽観ることになった『ウォンカとチョコレート工場のはじまり』。

 結論からすると「ふざけるなよ」と言いたくなるほどの男の中の男の映画でしたね。突然登場人物が脈絡もなく歌い出し、その辺に歩いていた人たちも一緒になって踊り始め、現代社会を生きる私がそれを見て「これじゃない」と思いながらも夢を持ち続けるのは大事だと勇気づけられるという、夢を実現させる男の中の男の成功譚であるのだと認識しました。

 しかしながら、冒頭で主人公のウォンカ氏が母親直伝の魔法をかけたチョコレートを食べさせられた地元有力者の皆さんが空中を飛び回るところからこの映画の恐ろしさを感じました。

 これ、いきなりノーベル物理学賞級の発明ですよね。

 だって、チョコレート食ったやつが飛べるんですよ。SF諸氏が夢に思い描き続けてきた反重力であり空間の歪みじゃないですか。カカオ一発でやりやがった。

 おまえ、チョコレート工場とか建設してないでいますぐ東京工業大学に行って論文を書いたり特許を取ったりしてトヨタ自動車に入社するべきです。カカオ豆と謎のレシピで物理法則を無視した空中浮遊が可能になるならば、こんなの世界のエネルギー問題が一挙解決じゃないですか。チョコ食ってる場合じゃねえんだよ。周りにいるやつもこの発明の凄さに気づいてマネジメント契約を申し入れるべきだ。いったい何をしている。驚くべき無能だお前らは。これひとつで日本のエネルギー輸入が10兆単位で浮くし、世界が救われるんだよ。

 それなのにどうしてこうなった。いや、その後の展開もおかしいよ。この映画のテーマは「素敵なことはすべて夢から始まる」のではなく「確かな社会経験がないやつは現代社会で食い物にされる」という残念な現実以外に何もないと思うんです。何よりもまず各種契約に詳しい弁護士を知人に持ち、いつでも相談ができる状況になってからしっかり権利を押さえていけば、才能をきちんとカネに換え、豊かな人生を謳歌でき、夢を実現する近道を選べて貴重な時間を無駄にすることはないのだ、という教訓こそがこの映画から学び取れることだと思うんです。

 苦境に遭って、仲間と巡り合い、作戦を考えて難局を突破する、それはそれで美しいことだと思いますが、そういう仲間こそ、苦労は共有できても利益は分かち合えず、成功してから裏切っていくことが多いんですよ。男はね、夢だけ見ていたら駄目なんです。確かな組織化が大事です。どんなに硬い友情に結ばれていると信じていても、一緒に工場経営をするとかやっては駄目です。一刻も早く、トヨタ自動車に入社するべきです。

 豊田章男にぎゃふんと言わせてやりましょう。

※ 以下、ネタバレとなります。まだ未鑑賞か、鑑賞する予定のない方はお引き返しください。

 というわけで、ウォンカ氏がパートナーとして選んだのはヒューグラントでした。いや、あれ完全にヒューグラントですよね。あの態度の大きさ、それもナチュラルな。ウンパルンパの役だけど、あれはヒューグラントだ。

 『アラジン』に出てきた青いジーニーがどう見てもウィルスミスだったのと同様、ヒューグラントはヒューグラントなのであって、ヒューグラントが出てきた瞬間から、この映画はヒューグラントの映画になりました。そして、彼こそが男の中の男。部族のために借金を取り立て、そのついでにウォンカ氏とその連れの命まで救う、そして工場を一緒に建設する、凄い名誉なことのはずなのに誘われて「悪くない(not so bad)」で済ませるヒューグラント。お前こそトヨタ自動車の新工場の工場長に相応しい男だ。

 借金取り立てのために身体を張るヒューグラント一代記が、この映画だと悟りました。というか、映画前半あそこまで適当な話で引っ張っておきながら、最終的に本丸がヒューグラントだったというのはズルい。それまでの物語がすべて茶番であります。そして、この作品では暴力が全てを解決する。そう、ウォンカ氏も警官も、人の命を何とも思っていない。最高だ。ぶん殴るし、監禁するし、殺害する。毒入りのチョコレートを喰わせても保健所すらやってこない。なんか暴動起きて爆発してたけど、消防署もいない。これはね、世紀末ですよ。最高だ。

 そして、一泊の宿代に関する契約で、奴隷扱いしようとする面白荘のごろつき男女。一見煌びやかな街並みで素敵なチョコレート経済圏の本拠地は完全な無法地帯であり、警官は買収される。しかも、最後は帳尻を合わせるように裁判所の令状もなくいきなり悪徳警官は逮捕されて連行されていく。どうしてこうなった。暴力の渦巻く無法地帯で夢を叶えたウォンカ氏とヒューグラントには感動が止まらないのであります。

 どこでもドア的に扱われる下水道、どうやって商品の陳列や梱包をしているのかロジはまったく不明、どこからともなく現れる客としての市民、遅れてやってくる警官、何事もなく逃げおおせる主人公一行、しかしこれだけ著名になっているにもかかわらずそこには宿屋の女主人も用心棒も現れず、ただただ脱獄され、しかし主人公たちは律儀に奴隷契約を守る。いやいやいやいや、それはいったいどうなの。その間に、目抜き通り一等地の不動産契約まで敢行するウォンカ氏。夢を目指して他のことを排除し突き進む男の中の男。おまえ、やり手なのか底抜けの馬鹿なのかどっちなんだ。いますぐ弁護士紹介してやるから契約しろ、そしてトヨタ自動車に入社してノーベル賞を受賞して世界を救ってほしいと思いながら観ていました。

 もちろん映画ですから、ささいな設定のミスや辻褄の合わなさは思った以上に華麗なダンスと歌でカバーされ、ちょいちょい大事なところで出てくるヒューグラントがいればそれでもういいやって映画です。最高だ。時間があれば二度でも三度でも観に行きたいタイプの映画ですね。最初に「えっ、なんでそれができるなら、もっといろんなことが可能じゃないのか」と思ってしまって、ずっと引っかかっていたんで、頭を空っぽにして、そういうものなのだと割り切って鑑賞する映画だと思いました。

 画像は『巨大なチョコレート工場と思いきや永久機関を完成させてしまい世界中から称賛される若きイケメン・ウォンカ氏』です。


神から「お前もそろそろnoteぐらい駄文練習用に使え使え使え使え使え」と言われた気がしたので、のろのろと再始動する感じのアカウント