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カタールW杯/中東にまさかの神風吹き抜ける

日本 2-1 スペイン (2022.12.1.)
 すみませんでした! 私が間違っておりました!
 奇跡って、たった9日間で2回も起こるものなんですね・・・。

<付け焼き刃のシステム>
 森保監督がこのグループリーグ第3戦に組んだフォーメーションは、意外にも3バック。基本布陣の4-3-3で右サイドバックを任されている酒井が故障欠場した穴を、同じSBの山根ではなく、センターバックの谷口で埋めた(谷口を使うから3バックにしたのか、3バックにしたくて谷口を使ったのかは、監督本人に聞かなければわからないが)。
 森保にとって、ミュシャ・ペトロビッチ仕込みの3バックは、サンフレッチェ広島の監督時代にJ1を制した自家薬籠中のシステム。それでも代表の試合では試合の終盤に「お試し」程度に使ったことがあるだけで、スタート時点ではほとんど常に4バックだった。今大会に入る前にも、議論になったのは4-3-3か4-2-3-1かという点に限られた。
 ところが今大会に入ってからの2試合は、どちらも4バックでは思うような結果を出せず、途中から付け焼き刃の3バックへの修正を余儀なくされている。のみならず、ドイツ戦ではそれが奏功している。無敵艦隊を相手に最低でも引き分けなければならなくなった第3戦では、初めから背水の陣を敷いたということなのか。

<はじまりはいつも 雨 ダメ>
 しかし、その秘密兵器たる3バックは、前半、まったく機能しなかった。スペインに圧倒的にボールを握られ、実質的には5バックで守備に追われる。その前列には2枚のボランチとセカンドトップの2人が横一列に並び、5-4-1の形でプレーする時間が長かった(反抗を狙ったドイツ戦の後半途中からのシステムと同じですね)。
 前半9分にモラタにフリーでヘディングシュートを打たれたのは、凶事の前兆(判定はオフサイド)。その2分後には、右SBのアスピリクエタからのクロスを、今度は本当にモラタに決められる。リプレーを見返すと、アスピリクエタがパスを受ける直前、それまでモラタをマークしていた吉田が、なぜか板倉に「お前が付け」と指示を出している。かなしいかな、その受け渡しが間に合わなかった。
 基本技術の劣るサムライたちは、たまに相手からボールを奪っても、あっという間にターンオーバーされることの繰り返し。前半終了までに3人のCB全員がイエローカードを出されて、ハーフタイムに入った。

<二陣の神風>
 負ければ敗退が決まる日本は、後半開始時から森保マジックを発動。セカンドトップの久保と左SBの長友を、それぞれ堂安と三苫に入れ替える。もはや「マジック」と呼んでも支障ないだろう。ドイツ戦と同様、代わって入った選手が、ものの数分後に決定的な仕事をしてのけるのだから。
 まずは後半3分、敵陣深くで数人がかりのハイプレス。GKウナイ・シモンがやむなく左サイドのバルデに蹴り出したボールを、伊東が頭で跳ね返す。この浮き球が神風に乗って前方の堂安の頭上を越えたため、堂安はゴールに背を向けた状態ではなく、ゴールに顔を向けた状態でトラップできた。そこから左足アウトで少し中に持ち出し、ペナルティエリアのやや外側から利き足を一閃。この強烈なミドルがGKの手を弾き、ゴールネットを揺さぶった。堂安にとっては、ドイツ戦に続く起死回生の同点ゴールだ。
 さらにその3分後、堂安の右からのクロスを、三苫がファーサイドに飛びこんで折り返し。ゴール前に詰めていた田中がDFロドリの鼻先に飛び出し、右膝あたりでこれを沈めた。三苫のところでボールがゴールラインを割ったようにも見えたが、神風で押し戻されたらしく、VAR判定の結果セーフ。日本は早々に逆転を果たす。

<望外の首位通過>
 それ以降は現金なサムライたちのプレスが効きだしたのか、あるいはアジアの弱小チームに2発の魚雷を食らった無敵艦隊が浮き足だったのか、おそらくその両方なのだろうが、前半あれだけデキの良かったスペインが、攻守に冴えを失っていく。
 後半半ばの23分には、森保監督が鎌田をベンチに下げて、冨安を起用。それに伴い、伊東を右ウィングバックから2シャドーの一角に上げて、逃げ切りの布石を打つ。不完全燃焼だった鎌田の心中を推し量れば、笑顔がなかったのもむべなるところか。
 終了間際に、他会場でドイツが3-2でリードしたとの速報が入電。その場合は、スペインに追いつかれた時点で日本の勝ち抜けの目が消えるので、見ているこちらは肝を冷やす(というか、私個人に関して言えば、そういう予定調和的なシナリオをほとんど受け入れたよ。スペイン相手に引き分けることすら難しいと思っていたもの)。
 それでも追加タイムのダニ・オルモのシュートで引導を渡されることもなく、1億2000万の日本国民がキツネにつままれたように見守る中で、森保ジャパンは見事に2勝目をゲット。勝ち点4に終わったスペインを抑えて、望外のグループ首位通過を果たしたのだった。

 それにしてもねえ、強豪のドイツ、スペインと同居するグループを勝ち抜けたこと自体は特筆物だが、その両国から勝ち点3を取りながら、コスタリカ戦は取りこぼすというチグハグぶりが、いかにもサッカー後進国っぽい。欧州や南米の老練なサッカーメディアは、日本代表をどう評すべきかマジで悩んでいると思う。
 総力戦で戦う森保ジャパンは、フィールドプレイヤーでは柴崎と町野を除く全員がすでに一度はピッチに立った。4日後の決勝トーナメント1回戦はクロアチアとの対戦。森保監督のシステムや用兵に、より一層注目したい。

* 下記のブログではW杯の開催期間中、連日、関連記事を更新しています。
ぼんくら翻訳家の独り言

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