古橋 健二

古橋 健二

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斎藤茂男 ルポルタージュ 日本の情景 #4

1970年代の日本と現在の日本との違いは何か?そりゃあ無数にある。ただ、本著作集を読んでいると気づくことがある。それは、取材対象者が戦争経験者であることが普通にあることである。戦争経験者というのは戦地に行ってた人、という意味だ。1970年代の日本社会では、戦争経験者が普通に、親だったり、教師だったり、会社の上司だったりしたわけだ。思えば大岡昇平、春風亭柳昇、田中小実昌もまだ健在な時代。”名作の誉れ高い”(注:観ていないという意味)ドラマ『男たちの旅路』で鶴田浩二演じる主人公は

    • 斎藤茂男 ルポルタージュ 日本の情景 #3

      少し前に角田光代『紙の月』を読んでいて思ったのことの一つが、「この人( 注:光太という登場人物。大学生。)いまは50代か…」というものだった。フィクションであっても、ついそういう年齢計算をしてしまう。これは個人的な癖みたいなものだが、斎藤茂男の一連のルポルタージュを読んでいくうえで、この癖はむしろ必要な作法のように思われる。 斎藤茂男著作集はだいたい70年代から90年代初頭までの彼の仕事が、ほぼ年代順に収録されている。『わが亡きあとに洪水はきたれ!』は74年、最終第12巻『

      • 斎藤茂男 ルポルタージュ 日本の情景 #2

        ダウン症の赤ちゃんの生死をめぐるルポ、全集第3巻『生命かがやく日のために』に登場する「A先生」のこの発言に、愕然とさせられたものだ。2000年代に入ってからの新自由主義的な価値観の蔓延と、石原慎太郎とか橋下徹のような人が支持されていく風潮、そこからじわじわと、優生思想的な価値観が醸成されてきて現在に至ったのだと、なんとなく考えていたが、それは間違いだった。はるか以前から、少なくとも50年前からすでに、この社会には優生思想が現前していたことが、本書を読むと一発で分かる。この「A

        • 斎藤茂男 ルポルタージュ 日本の情景 #1

          先ほど、渡辺治著作集の第12巻を読了した。定期的に出くわす誤植には毎度辟易させられるが(第1巻から誤植のなかった巻はなかったように思う。最初は、70年代や80年代の論文は今のようにデジタルデータでないから、このような誤植が生じたのだとばかり思っていたが、そうではない。つい最近の論文まで、例えば、本巻で言えば、「入って」が「人って」になっている箇所が二か所もあるのである。何巻か忘れたが、「オイルショック」が「ナイルショック」になっているのを見たときは失笑した。こんな誤植、製本す

        斎藤茂男 ルポルタージュ 日本の情景 #4