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肋骨とスニーカ

先日、Youtubeでスニーカの紹介動画を観て購入を決意した。素足にサンダルが基本のこの生活において本来靴は不要だが、有り余る購買意欲を抑えることができなかった。

まだ雨季が続いているし、雨の日に足が濡れないように靴を買ってもいいかもしれない。南国の雨はサンダルだろうが靴だろうが容赦なく足を水浸しにすることは百も承知の上で、私はそのように自信を納得させ、早速スニーカを購入した。無論、せっかくの新品のスニーカをわざわざ雨の中履こうという意思は購入後に毛ほども湧かなかった。我ながらダブルスタンダードであった。

私はスニーカの履き心地を愉しむため、翌日家の近くのモールへ歩いて行った。その道は土壌のためか、あるいは工事のレベルの問題か、基本的に舗装が荒れている。普段はサンダルでえっちらおっちら歩いていくのだが、その日は違った。クッション性に優れたソールが地面の凹凸を吸収し、スムーズに足を運ばせて私を喜ばせた。

モールの中でもスニーカの性能は期待通りだった。硬い床材の上を長時間歩いても筋肉や関節の疲労を和らげてくれた。

私は大いに満足し、帰路に就くことにした。モールにいる間に一度バケツをひっくり返したような土砂降りとなったが、帰る頃には止んでいた。水たまりを慎重に避けつつ、家へと続く下り坂へたどり着いた。

悲劇はそこで起きた。踏み出した私の足は濡れた傾斜を全く掴まず、私はレンガの地面の上で盛大に転んだ。一度の転倒では勢いが止まらず、そのまま二,三度転がった。その転びようたるや、ここ十年で一番と言ってよかった。すぐに人が集まってきた。しかしそれどころではない。物凄く痛かった。強かに打った肘や膝はもちろん、巻き込んだ腕に圧迫された肋骨が鈍く軋んだ。

私のスニーカは濡れた地面の上で驚くほど滑った。まさか一年の半分が雨の国で、これほど滑りに弱いスニーカがあろうかというほど滑った。仮に彼のニュートンがこのスニーカを履いて生活していたら摩擦の存在に気付かなかったのではないか、代わりに滑って転がる自分の身で万有引力を発見できたのではないかと思うほどであった。

そして肋骨にはひびが入っていた。乾季になるまで、あるいは肋骨が万全となるまでスニーカは封印となった。

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