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トイレの水道水をがぶ飲みしたあの夏

1学期が終わり、夏休みが始まろうとしている。

地獄の夏休み。

小学校の頃は毎日パラダイスだったのに。

中学校に入ってうっかりバスケ部に入ってしまった
もんだから、地獄の夏が待ち受けている。

全開に窓を開けても、蒸し上がるように暑い体育館。

炎天下のグラウンド。

外で練習したあとに、体育館で練習という流れ。

中学の頃は、水分摂取量の規制があった。

今ではありえないことだが、練習中に500ccしか
水かお茶を摂取できないというルールだ。

飲みすぎてはいけないという方針だった。

すさまじく汗をかいているのに500ccしか
飲むことができない。

500ccなんて一気に余裕で飲み干せるのに。

ちびちびと飲むしかない。

もっとグビグビ飲みたいのに。

確実に発汗量に見合っていない。

地獄の夏合宿を思い出す。

半日ずっと練習しているもんだから、
流石に500ccではすまされない。

倍の1000ccに規制が変わる。

それでも足りない。

どんどん発汗されて、喉の乾きが凄まじい。

発汗と疲労は否応なしに増している。

もう限界だ。

のどの渇きも半端ない。

今ならなんでも飲める。

なんでもいいから水分が欲しい。

泥水でもいいから、がぶ飲みしたい。

お待ちかねの休憩時間。

トイレに行き、排泄を済ませ、手を洗う。

そこには無限に流れている水がある。

もうだめだ。

飲みたくて仕方がない。

でも部員に見られたら鬼のコーチに告げ口される
かもしれない。

いや、もうどうなってもいい。

無限に流れる水を両手ですくい、グビグビグビグビ。

がぶ飲みが止まらない。

『うまい!うますぎる!』

疲労しきった体がトイレの水道水で満たされていく。

『トイレの水道水ってこんなにおいしいのか!』

トイレの水道水に感動した中学の夏だった。


そして、高校でもうっかりバスケ部へ入部。

中学の時とはうって変わって、
水分は飲みたい放題だった。

ただ、補欠とスタメンの格差が激しい。

中学の時は、補欠もスタメンも一緒の練習メニュー
だったのに。

高校では、スタメンだけの練習メニューがある。

補欠はコートの外で見守るか、
ボールハンドリングをしているしかない。

悔しさと腹立たしさの気持ちがある一方、
補欠の方が楽だなと安堵している自分が情けない。

勿論、スタメンと補欠共通の練習メニューもある。

スタメンと補欠共通の練習メニューだと思い、
練習に入ろうとすると、

「いや、(あんたは) 違う」

スタメン部員から突き放される。

スタメンだけの練習メニューだと気づく、哀れな自分。

これほど屈辱的な瞬間はない。

『あんたは補欠だから、コート外でだまって見てな』

『補欠の分際で、スタメンだけの練習に入ろうとするな』

そういう目で見ているスタメン部員。

バスケ部全員が嫌いになった高校の夏だった。


汗と憎しみの感情で溢れた夏は、もう過去のこと。

補欠上等だ。

これからは補欠の時代なんだ!

補欠の夏がこれからやってくる!

夏が来る度にそう思っている。



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