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勉強の苦手パターン④ そもそも教科書の文章の意味が理解できない。読み取れない

(この記事は約14分で読めます)

パターン①〜③は、勉強の苦手な子に共通する特徴を「覚えられない」という側面から分析しました。
パターン④からは、「理解できない」という側面に注目します。

▼「教科書の文章の意味が理解できない」子はどんな状態か?その定義

パターン④に当てはまる子どもたちがどんな状態なのかを、まず定義します。
教科書を読めていない子どもたちを分析すると、共通して以下の特徴が見られます。

特徴1語彙力の不足=漢字・語彙など、「単語」を理解できていない

特徴2文法力の不足=文が長くなると主語と述語を対応させられない。
「てにをは」を使い分けられないなど、日本語の「文法」を理解できていない

特徴3リズムやアクセントなど日本語の「発音規則」を理解できていない

→単語・文法・発音。この1~3が複合することにより、「教科書の文章の意味を理解できない」という事態が起こっています。

▼パターン④の具体例

■特徴2:文法力が不足している子の例

これはAI vs. 教科書が読めない子どもたち』(新井紀子 東洋経済新報社 2018)でも話題になりました。(Amazonリンク www.amazon.co.jp/dp/4492762396

たとえばこんな例題があります。
問い:次の2つの文の意味は同じか、異なるか。答えなさい。
・幕府は、1639年、ポルトガル人を追放し、大名には沿岸の警備を命じた。

1639年、ポルトガル人は追放され、幕府は大名から沿岸の警備を命じられた。

(東洋経済ONLINE 「教科書が読めない人」は実はこんなにいるhttps://toyokeizai.net/articles/-/300847?page=2 より引用)

答えは「異なる」ですが、中学生の正答率は57%しかなかったそうです。
私の経験からもこの数字は納得です。学区によってはもっと正答率は低いと思います。

なぜ中学生はこの問題を間違えてしまうのか?
「集中力が足りなくて」読み飛ばしているだけ?
「本気を出せば」読めるだけの能力はあるんだろうか…?

そこで、私は生徒たちが教科書を読む様子を観察したり、様々な発問をしたりして、彼らの頭の中を探ってみました。

その結果…国語の文法力不足が一因になっていることが分かりました。
特に、

・「てにをは」など付属語のニュアンスの違いを理解できていない

・修飾・被修飾の関係を理解せずに、単語だけをつなげて直感で読んでいる

という共通点が見つかりました。

そのため、文が長くなって「てにをは」の数が増えるほど混乱していき、文末にたどり着いた頃には文頭との意味がつながらなくなってしまうんです。

しかし、現在の公立小中ではこういった文法をほとんど教えません。
引用元の東洋経済オンラインの記事にもあるように、教育現場では子どもの日本語力不足が十分に認識されていません。
いまだに「日本人ならば自然と日本語文を読めて当たり前。家庭教育の問題」と思われてしまっているように感じます。

そのため、文を読めない中高生はいつまでたっても文が読めない、という状況になっています。

■特徴3:発音の能力が不足している子の例

文章を音読させてみるとよく分かります。
変なところで文を区切ってしまったり、抑揚が不安定だったりします。

たとえば以前、中学生にこんな文を読んでもらったことがあります。
/(スラッシュ)の部分は、その時その生徒が区切って読んだところです。

「私 / は、床に / 落 / ちていた / つまよ / うじを / ゴ / ミ箱に捨てた。」

句読点(息継ぎ)や意味のまとまりを無視して読んでいるため、音読のリズムがおかしくなっています。

また、言葉を意味のまとまりごとに捉えることができないため、上の「は」を「wa」ではなく「ha」と発音していました。「わたし」「はゆかに」という感じです。

国語が苦手な子はなぜ、音読をする時に読み間違えたり、つっかえたりしてしまうのか?文章をスムーズに理解できないのか?

それは「日本人はどうやって日本語を読んでいるのか」を振り返ってみることで理解できます。これについて、次の項で説明します。

注:緊張のためにうまく読めない子どももいるので、必ずしも音読が苦手=読めていない、というわけではありません。

▼日本人はどうやって日本語を読んでいるのか?(■特徴3について詳しく説明)

まず結論から書きます。ふだん私たちは…

リズムをつけて=単語など、意味ごとのまとまりで区切って

音程をつけて※=日本語のアクセントの規則に従って

日本語を読んでいます。声に出さないで読む時もです。
ためしに、どんな文でもいいので黙読してみてください。頭の中でリズムと音程をつけているはずです。

そして、どこで区切って読むか・どんな音程で読むかは、何度読んでも変わらないと思います。

(※「音程」というのは言語学上、正確な表現ではありませんが、分かりやすくするためにこう書くことにします。

日本語は「高低アクセント」といって、音の高低で単語にアクセントをつけます。
対して英語は「強弱アクセント」といって、声の大きさでアクセントをつけます。

リズムとアクセントを正確につけられないと、文章をうまく読む・素早く理解することができません。)

リズムと音程。このルールを身につけているからこそ、初めて読む文章でもスムーズに理解することができます。
国語力の不足している子はこの「リズムと音程」のルールを理解できていません。
実際にこのケースに当てはまった子たちの学年順位から逆算すると、公立中学校の10~20%くらいが該当しそうです。

▼パターン④に当てはまる子の特徴

見た目では分かりづらく、専門家でないと判別は難しいです。
あえて言うなら、

・長時間教科書を読んでいるのに、テストの点が上がらない
・特定の教科ではなく、5教科すべてが苦手
・数学の計算問題は他の教科よりも正答率が高い。が、文章題や記述問題は壊滅的

これらが特徴かもしれません。

一生懸命、長時間教科書を読んでいるのに結果が出ないということは、目が文字を追っているだけで理解できていないのかもしれません。

教科書を読めなければ十分にテスト勉強ができません。
そのため、公式暗記で対応できる計算問題以外のすべての教科で伸び悩みます。

・音読をさせると手がかりがつかめることもあります。
リズムと音程の違和感の他には、「音読をさせると読むのが遅いのに、黙読をさせると音読の半分くらいの時間で読めてしまう」というのも要注意です。

きちんと読めていれば、黙読する場合でも音読と同じリズムで読むはずなので、音読の時間と黙読の時間に極端な差は出ないはずです。

「読んでいる(理解している)」のではなく、「目で字を追っている(見ている)」だけなのかもしれません。

▼パターン④の原因

原因はおそらく複雑で、私にはまだ分かりやすく説明することができません。
しかし、対処法はある程度分かってきました。

私が教えてきた中で、上に書いたような状態から平均点以上を取れるようになった子は少なくありません。

適切な訓練を行えば国語力を身につけることはできますし、教科書も一人で読めるようになります。
実際に効果のあった指導例について、次の項に書きます。

▼パターン④の対処法

〇塾での指導例

※細かなテクニックなので、教育関係以外の方は「ご家庭でも行える対処法」まで読み飛ばした方がいいかもしれません。

言語の習得なので、やることは英語と同じです。
知識のインプット⇔アウトプットの両輪を回しつつ、
リスニング/スピーキング/リーディング/ライティングの4領域をフルに使って国語力を鍛えます。

最も重要なのは「聞く/話す」から始めることです。これも英語と同じです。
語彙を覚えるにしても、まずはその言葉を「読めて」、正しいアクセントで「発音できる」状態にするのが最優先。
暗記はその次のステップです。

指導例としては以下のようなものがあります。
便宜上番号をふりましたが、優先順位はその子の状況によって変わります。

1,音読を聞かせる・音読してもらう …リズムやアクセントの修正をする

2,漢字・語彙の意味を知り、例文を作る…学習マンガや会話でのやり取りを活用して、子どもの負担を軽減しつつ漢字や語彙の知識を増やす。
意味が分からない時は調べる、という習慣を身につける。

3,主語・述語・修飾語の基本を身につける国語文法の問題集を使用する

1の目的→単語が、文の中で実際にどう使われているかを感じること、そして日本語のリズムやアクセントを身につけることが目的です。

音読しなさいと言ってもいきなりはできないので、まずはお手本を見せます。
そして「ここで区切るのはこういう理由があるから」のように、大人がどういう規則に沿って文を読んでいるのかを理解してもらいます※。
真似をすることから始めます。

※音読の正解は一つではないので、「正解」ではなく「日本語発音のルールやコツ」を教えるイメージです。

2の目的→単語や語彙を覚えることと、調べる能力や習慣を身につけることです。

語彙の少ない子は文字だけだと理解しづらいので、絵を描いたり描かせたりしてイメージで理解させます。

例文はノートに書かなくても、会話で使えればOK。
その場で100%理解できなくても、次にその語彙に出会った時、この記憶が頭に引っかかっていることを目的にします。

意味調べはネットでも人に聞くでも、何でもOK。形のある物ならば画像検索をすると理解しやすいです。

語彙力は日常生活の積み重ねなので、習慣づけが重要です。

3の目的→これによって、
「私は、カレーライスが大好きだと思います。」
のような文がどうしておかしな文章なのか?を理解できるようにします。

文法力が未熟な子に「この文はおかしいでしょ?」と指摘しても理解ができません。
単語と単語を結び付けるだけ(=感覚)で文の意味を判断しており、「おかしい」の基準が分からないからです。

(「私は、カレーライスが大好きです。」という言い方が正しい。)

〇ご家庭でもできる対処法

→国語の4技能の基礎になるのは、上に書いたとおり「聞く/話す」です。
そのため以下の2つの方法が非常に大切で、効果があります。

単語会話をしない。会話の先回りをしない。

良くない例(塾の面談を想定)
講師:「最近寝不足みたいだね。夜眠れてないの?」
子ども:「スマホ見ちゃう」←単語会話
保護者:「YouTubeの実況動画が面白くて、寝る前につい見ちゃうんだよね?」←太字が会話の先回り

修正例
講師:「最近寝不足みたいだね。夜眠れてないの?」
子ども:「スマホ見ちゃう」←単語会話
保護者または講師:「いつ見ちゃうの?」「どうして見ちゃうの?」など…

子どもが自分で文を考えるように仕向けます。そして、十分に時間を与えて待ちます。

言葉が苦手な子の会話を先回りしてしまうと、子どもは「待っていれば大人が解決してくれるんだ」と学習してしまい、自分で言葉を考えなくなります。
その結果、ますます単語だけで会話をするようになってしまいます。

じれて先回りしたくなるのをグッとこらえて、待つ。
子ども自身の言葉で話してもらうこと。
国語力を鍛えるうえで、これ以上に重要なことはありません。

子どもとの会話で、大人がいろいろな語彙を使う

大人側の行動だけでできることです。
子どもに国語のリスニングをさせるわけです。
日常会話に知らない言葉がちょっと混じったくらいなら、前後の文脈から意味を推測して少しずつ吸収していけます。

お子さまが勉強しないのなら、知らないうちに刷り込んでしまいましょう。

▼やってしまいがちな間違い指導

・よく「国語が苦手な子には読書をさせると良い」と言われますが、無理やり読書をさせるのは逆効果になることが多いです。
天声人語の書き写しなんかも同じです。

文章を読み書きすることで文章力を上げるというのは地頭の良い人が国語力を伸ばす方法で、ここで書いている「勉強の苦手な子」には効果がありません。

(イラストがたくさん使われている本や漫画で、かつ本人が興味を持てるものであれば効果が出るケースもあります。)

・分からない言葉に出くわした時に辞書をひかせるのも、あまり効果がないことが多いです。
辞書に書いてある言葉の意味が分からないからです。

「日本語のルール」という抽象的なものを抽象的な形のまま学ぶことは、国語が苦手な人にとってはものすごく苦痛です。

聴覚(会話)や視覚(絵や写真)を活用して、抽象的な概念をどれだけ具体的な形で学べるかが、パターン④克服のカギになります。

▼④のまとめ/学習塾での解決の可否

「パターン④の対処法」に書いたように、時間はかかりますが※1学習塾で解決が可能です。

ただし国語の文法指導のノウハウを持っている学習塾は少ないため※2、通塾の目的が国語力の向上であれば、校舎責任者に指導方針を確認した方が良いでしょう。

国語に特化した塾に体験入塾してみるのもお勧めです。

※1:半年~数年が目安です

※2:ほとんどの中高生向けの塾は、動詞・名詞・形容詞などの分類、そして判別など「定期テストで正解するための文法」は指導できます。

しかし「てにをは」の使い方や主語・述語・修飾語の係り受け、重文や複文の読み取りなど「文を読むための文法」を指導できる塾は少なく、教材も限られています。

▼追記(2022/3/22)

神奈川県鎌倉市にある「かまくら国語塾」様のブログに、子どもの国語力を高める方法がとても分かりやすく書かれていたので紹介します。
「国語力を高める親の魔法の問いかけ」『受験を超えて』http://offspleiades.net/japanese_question/
(2022年3月22日最終アクセス)

・「てにをは」を意識して会話の一文を長くする、
・子どもとの会話で少し難しめの言葉を入れてみる、
・先回りして答えを汲み取らない など…
国語を教える専門家たちが、子どもの国語力を伸ばす方向性に対して一定の共通認識を持っていることが分かります。

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