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「晩冬、フィンランドにて」2024年2月17日の日記

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・ここ最近人と会う用事が多く、書きたいことは増えていくのに書ききる時間と元気がなく、いつの間にか前回から1週間ほどが経ってしまった。

・今日の気温は0℃の強風。
先週はついにトゥルクの中心部にも太陽の光が眩しいほど降り注ぎ、雪が溶け切ってかなり歩きやすくなった。

・シンボルマークでもあるアウラ川の表面には分厚い氷が張り、住民が何人も川を横断している様子を見かけた。
川が歩けるまで凍ることは5年に1度くらいのかなりレアイベントらしい。
わたしが乗っても割れないだろうか、と心配してしまうけれど、氷の層はかなり厚く、スウェーデンのとある川の上ではドライブもできるそうだ。

61-2

・先週から今週は、フィンランドの時事的な出来事にたくさん遭遇した。

・まず、新たな大統領が決まった。
前回も触れたかもしれないが、フィンランドでは6年に1回、1月下旬と2月上旬に大統領選挙が行われる。
第1回の選挙で1人が過半数の票を獲得できなかった場合、上位2名を対象とした第2回選挙が開催される、という仕組みだ。

・今回大統領として選ばれたのはフィンランド語ネイティブではない人を妻に持つ50代の男性で、投票率は70%を超えていたらしい。
トゥルクだけでも100以上の投票所があるようで、政治への関心が伝わるような出来事だった。

・そして、先週の日曜日は「Penkkarit」という、フィンランドの高校3年生が主役のイベントがあった。
最終学年の生徒たちが仮装をして、下級生やお世話になった先生の授業に乱入しお菓子を投げたり、最終的にはトラックに乗って市内を駆け巡る。
わたしは中心街で買い物をした帰りにこのトラックに遭遇したのだが、バスの座席に座っていた自分の目線とトラックに乗るみんなの視線が赤信号の前でがっつり合ってしまってちょっと恥ずかしかった。

・さらに、2月はバレンタインデーの月でもある。
フィンランドでは近年、2月14日のことを「ystävän päivä(友達の日)」とも呼ぶらしく、恋人だけでなく親しい人へチョコをプレゼントする日になってきているそうだ。日本でいう友チョコみたいなことだろうか。

・バレンタインデーらしい柄の葉書もあってついつい買ってしまった。
葉書の文は「わたしが誰のことを考えているか、当ててみて」という意味らしい。
写真

・さらにその翌日「Laskiaispulla」というお菓子が学食の追加メニューとして提供された。

・これはPullaというフィンランドのお菓子の1種で、砂糖が乗ったサクサクのシュークリームのようなパンの中にクリームとジャムをトッピングして食べる。
作業の行程はクレープと似ているが、味はマクドナルドのキッズメニューに出てくるパンケーキが1番近いかもしれない。

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・イタリア出身の友人が授業の合間を縫ってこちらに帰ってきたというので、トゥルクのサラダカフェを訪れた。

・ハワイアンカフェと銘打ってはいたけれど、内装は思っていたよりアジアン系。お米の種類やトッピングが選べるのだが、もうしばらく見ていなかった枝豆やわかめ(しかも英語名もEdamame、Wakameだった)を食べることができて大変満足。ちなみに箸は縁起の良さそうな金色だった。

・ヨーロッパの大学では先週今週が丁度授業のないタイミングらしく、留学を終えもう1度ここに帰って来る学生が多くて羨ましい。
フィンランドー日本も、もっと気軽に行き来できる距離になればいいのに。

・それから、先週は日本人学生が勢ぞろいし、みんなで恵方巻も作った。
ご飯と海苔はスーパーで調達、日本のそれと比べるとかなり大きいサイズのきゅうり、卵焼き、アボカド、1人が日本から持って来て余ったというカニカマ、割り勘で購入したサーモン。
10人以上が恵方を見て黙々と食べる光景は後から写真を見返すと中々にカオスだった。

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・また、市のプログラムをきっかけに知り合ったおばあちゃんの家に招待してもらい、ご飯をご馳走してもらった後、スキーにも初挑戦した。

運転席とハンドルが逆!
家の中にある暖炉

・写真からも見て取れるように、彼女の家は整理整頓された本当に綺麗な部屋で、まさに「余生を謳歌!」といった理想的な空間だった。
おばあちゃんは普段週に何日かレストランで働いているので、キッチンにはオーブンが2つもあったし、ハンドミキサーも食洗器もあった。
この日頂いたのはサーモンのオーブン焼き(書いているだけでお腹が減りそう)、マッシュポテトにフィンランドやスウェーデン発祥のパン。
食後はフィンランドといえばでお馴染みのコーヒーにブルーベリーケーキ。

・家に暖炉もサウナもあった(サウナはともかく、ヨーロッパでは現代風ではない家に暖炉があるのは普通らしい)。
おばあちゃんにとって憩いの時間は、早朝、まだ寒い時間に暖炉に薪をくべて、コーヒーを嗜みながらテレビを見ることらしい。最高すぎる。

・普段の自炊だとどうしても日本の食事が恋しくなってしまうけれど、相応の具材と調理器具が整っていればフィンランドでもこんなに食が堪能できるんだなぁと実感した。
次、もし自分が長期間海外に行くことになった際は、優しいおばあちゃんおじいちゃんの家を探そう。

・調理中は、クリスマスに貰ったフィンランド語のムーミンの本を読んで、発音が分からない部分や解説がないと分かりにくい部分を適宜補足してもらった。
特に興味深かったのは「眠る」時の表現で、フィンランドでは眠ることを「森に入る」と表現するらしい。それに相当する言葉は中々思いつかないけれど、なんとなく感覚は掴めるから不思議な感じだ。

・スキーの用具を貸してもらい、平らなコースを3往復ほどした。
人生初スキーがフィンランドの日本人なんてほとんどいないだろう。
舗装されていない真の氷を滑るのはまだまだ早いけれど、ラップランド旅行時はもう少し滑れるようになっていたいな。

61-5

・最近のフィンランド語はというと、毎回もう笑えるくらい難しい。
この文章を読んでいる人に対してというより、わたしの頭の整理のために、簡単に今週学んだことを復習させてほしい。

・まず、フィンランド語には「どこ」を表す言葉が3種類ある。
どこに「いる/ある」がMissä、どこ「から」がMistä、どこ「へ」がMihin。

・そして、その場所に屋根があるかないかで、語尾が変わる。
たとえば、Streetを表す「tori」は、
通りにいる=torilla、通りから=torilta、通りへ=torilleとなるし、
学校を表す「koulu」では、
学校にいる=koulussa、学校から=koulusta、学校へ=kouluunとなる。
つまり、語尾のパターンが「内/外」と「いる/から/へ」で6種類に分岐することになる。

・これだけでも正直精一杯なのに、今週は特にどこ「へ」の「内」パターンでは違うルールがあり(古文でいう変格活用的な)、それについて深堀りしていく…さらに、この語尾のルールに則っていない言葉もいくつかあり、それらについて知る…という内容で、最近の内容は絶対に「Beginners’」ではないと思う。

・文句をダラダラと…と思われてしまうかもしれないが、嫌よ嫌よも好きのうちとはよく言うもので、こんなに難しいフィンランド語が大好きな自分も確かに存在しているのだ。
英語と比較すると0からのスタートで「出来て当たり前」よりもずっと言葉を発するハードルが低いからだろうか、間違いばかりでも意欲的に話そうと思える。

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・帰国まで残り3か月を切り「初めて」よりも「あと何回」を考える機会がぐっと増えた。
日本にいる友人たちとも「帰国後」の話題が中心となりつつあるのだが、最近その内の1人が「あと(帰国するまで)数か月しかないけど、フィンランドに行ってもいいかな?」という旨のメッセージが来た。

・彼女は渡航前も「行ってみたい」とは言ってくれてはいたけれど、正直渡航費も距離も中々手が届かないだろうとは思っていたから、今、わたしにとって終わりが見えかけている時期に「栞(仮名)がここにいるから行きたい」と言ってくれたのはかなり、いや、とても嬉しかった。

・ここにやって来てからの半年間は今までの人生で1番充実している期間といっても過言ではないほど満たされていて、人との縁に恵まれたおかげで、1年前までは露ほども思っていなかったフィンランドでの移住を考えてみるくらい、この国と、そこで暮らす人々のことが好きになった。

・何か月か前にも「まだ何も果たせていない」という旨の文章を残した気がするが、その思いはあんまり変わっていない。
欲を言えば、何か月かに1度遭遇するトゥルクの人の温かさに心が洗われるような経験をあと2,3回したいなぁと思うが、そんな体験は大抵の場合向こうからやって来るもので、たとえそれが叶ったとしても、どこか不完全燃焼のまま帰国している気もする。

・けれど、留学を終えたわたしは知っている。
フィンランドの冬の厳しさを、それを溶かしてしまえるくらい温かな人の心を。

・猛暑がやって来て、ふとあの寒さが恋しくなった時は、この日記を読み返せばいい。留学中の自分の感情は、シールのように切り貼りしたものではない。それらを全て経験し、選択の繰り返しで今の自分がいるのだから。

・心から大切にしたいと思える場所がたくさんあるって、どれだけ愛おしくて幸せなことだろう。
そんな場所が世界中にあるような、経験豊かな人になりたい。

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