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「わたしだけの秘密基地」2024年4月15日の日記

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・前回の投稿から2週間。
この間、大学の勉学で忙しいというわけではないのだが、なぜか忙しい日々が続いたので、今一度自分自身のためにも整理しておこうと思う。

・まず、4月2日にルームメイトのメアリーがフランスに帰国した。
授業が1つを残し全て終了し、かつ今回の留学が彼女にとっては初海外。
冬休みにフランスに1か月ほど帰省していて、あちらにボーイフレンドもいる。
わたしたち日本の留学生にとって、フィンランドは簡単に帰って来れる場所ではないけれど、ヨーロッパの留学生は長期休みは母国に帰省する人がほとんどで、わたしの常識よりも家族愛が強い感覚がある。

・メアリーと最後にしたことは、ジブリの「ハウルの動く城」を見たことだ。
本編を丸々視聴したのは10年ぶりで、何となく恐ろしいイメージが先行していた。しかし、いざ見始めると舞台がフランスということもあり、行ったことはないのに普段メアリーから聞いているフランス人のソウルフード「パンとチーズ」が映画内に登場したりなど、ストーリーの大筋以外の要素で作り込まれているなぁと思うことが多くて面白かった。

・対面で別れを告げるだけでは言葉が足りず、きっと後悔するなぁと思ったから、当日は書店で桜に見えるようなマリメッコのポストカードを購入して、手紙を書いた。

・彼女が去った影響は大きく、まず生活リズムが崩れに崩れた。
これまで気づいていなかったのだが、個人のスペースはしっかり確保されている者の2人の共同生活はわたしにとってそれなりに負荷がかかるものだったらしい。
生活の自由度が上がった反面、いつシャワーを浴びてもいつ起きても気づかれない、迷惑がかからない状態が完成してしまい、伸び伸びと暮らしていたようで実は他者の目を意識して生きていたのだなぁと感じてしまった。

・別れは確かに寂しかったけれど、わたし自身のフィンランドとの別れも残り1か月を切ってしまい、今の気分は正直なところ「留学最後まで頑張ろう!」というよりも「あと1ヶ月で帰国」という目前のゴールに向けて最後の力を振り絞っている、という方が正しい。

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・今週はやっとフィンランドにも春が到来し、日中の温度が10℃を超える日もあった。留学生の中には半袖と上着1枚で登校する子もいて、人間の順応性の高さを思い知らされた。

・天候が良ければ、7時30分には太陽が眩しく輝き、午後9時にようやく暗くなる。4月からはバス会社と同じ機関から提供される自転車のフリーライドも活動を再開し(バスの定期券を購入していれば1日1時間自転車を無料で使用できる)、わたしも晴れている日はなるべく自転車を使うようにしている。

・とはいえ、雪も全然降った(←???)。
来週なんて最低気温が-2℃の日もある。日によって「上着、無くてもいいな」と思う日と「マフラー着けて来れば良かった」と思う日があって温度調節が難しい。
けれど、あの草木も凍るような(実際凍った)冬を思い出せば、この程度の寒さなんて大したことはない。あとは桜の開花を待つのみだ。

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・最寄りのスーパーに置いてあった無料配布型の雑誌の見出し文が解読できるようになった。ちょっと嬉しくなったので、ここで報告する。
(たとえば、上の写真のオレンジ色の文は「なぜわたしの町の店はそんなに重要なの?」と直訳できる)

・10日には久々にフィンランドのおばあちゃんと美術館を訪れた後、彼女が務めているレストランでランチを食べさせてもらった。

・わたしとおばあちゃんが出会ったきっかけであるFriendship Programの「パートナーと向かえばトゥルクにある6つの施設のうちの1つが入場無料になる」という制度のおかげで、かねてから行ってみたかった美術館へ。

・この春は上の画像のアーティスト「Ilu Susiraja」さんがトゥルク出身の現代アーティストとして注目を集めているらしく、彼女について特集した展示がほとんどだった。
写真家と彫像家の側面を持つ彼女だが、最大の特徴は彼女自身の身体と日用品を組み合わせて作品にするという点で、高尚というよりもこちらが爆笑してしまうような力強さがあった。

・100%肯定的というよりは好きな人と嫌いな人がはっきり分かれているとおばあちゃんに教えてもらったが、よくよく見ると服装や背景に細かな工夫が凝らされていたり、何よりもこの作風を脚光を浴びる10年前から継続していたという一貫性に好感が持てた。

・おばあちゃんが働いているレストランは普段滅多に外食をしないわたしでも分かるほど、中心街のバス乗り場の正面に建っているお店だった。
日本のレストランのイメージとは違い、従業員はオーナー夫妻と主婦世代の数名しかおらず、2人で食事をしている間も彼らが気軽に声をかけてくれる様子からその明るい雰囲気が伝わったし、何より日替わりのコーンスープがめちゃめちゃ美味しかった。

・食事中は先月の日本旅行に関する感想を聞いた(彼女はとてもアクティブな方で、今回で訪れた国は50か国にのぼるという)。
わたしたちにとっては当たり前のように思えるかもしれないけれど「日本はとにかく道路が清潔で、物乞いもいなかった。人は多いけど交通機関は思ったよりも静かで、外国人と日常的に接する人の対応は素晴らしかった」と言われると、改めて生まれ持った視点が違うなぁと考えさせられた。

・英語で道を尋ねようとすると逃げられてしまうこともあったらしい。
今あなたと英語で会話できているけれど、留学前のわたしは外国の方と話すことを避ける側だったよと話すと笑ってくれた。

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・12日は風が強いものの快晴だったので、めいちゃんとRuissaloという浜辺でピクニックをした。

・この浜辺はフィンランド到着から1週間も経たない頃、メアリーに誘われて留学生仲間4人組で初めて合流した思い出の場所だ。
前回の暖かさと涼しさが一緒にやって来る、さすがフィンランドの8月!と言えるような気候と比較するとやや寒さはあるものの、虫がまだまだ少なく森の奥深くにも躊躇なく入っていけるような気候で、フィンランドに旅行に行くなら4月~8月がベストシーズンだなぁと改めて思った。

・ずっと心のどこかに引っかかっていた後悔を解消した日でもあった。
中学生の頃オーストラリアでホームステイをした時にお世話になった方へ、約6年ぶりにメールしたのだ。

・わたしは中学3年の夏、2週間だけオーストラリアでホームステイを経験したことがある。
中学3年生の英語力なんてようやく毛が生えたくらいのもので、今から考えるとどうして生きて帰って来れたのか分からないくらい波乱万丈な日々だった(しかもわたしの通っていた中学は謎に校則が厳しく、当時のわたしは携帯の持ち込み禁止というルールを守って生活していた)。

・語学力自体が伸びたかと言うと、それ以降はネイティブと話すことに苦手意識が募り、なんなら逆効果とも思える結果になってしまったはものの、オーストラリアの自然の豊かさを体感したり、朝礼を1日だけさぼって引率の先生と話した15分間だったり、その後の人生のサバイバル能力を培うような期間だった。

・そんなわたしが生きて帰って来れたのは間違いなくホストファミリー(中でもホストマザー)のおかげで、帰国後は必ず伝えようと思っていたお礼の言葉を、英語が思うように話せなかった恥ずかしさと虚しさが上回ってしまい、連絡もよこさないまま今までの年月が経ってしまった。

・今となっては正直苦い思い出なのだが、その挫折があったからこそ今回の留学では他の人よりも心の準備が出来ていた。
それもあって、2週間の滞在中に1度両親のPC宛に送信したメールからアドレスを教えてもらい、約6年越しにメールを送ることにした。

・今年の4月はわたしにとって、フィンランドでの別れと日本での再会が交差する月だ。
「帰国してから会いたいね」が「何日空いてる?」になり、帰国が目前だということを改めて実感する。同時に、これまでお世話になったチューターのリリー、Friendshipの2人、大学の授業をきっかけに知り合った数名など、帰国後を見据えて連絡を取った人たちと同じくらいの人数が「帰国する前に会いたい」と連絡をくれ、我ながら本当に充実した1年だったなぁと自分自身を少し誇りに思えた。

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・昨日は先述したFriendship Programで出会った隣の大学の学生を家に招待し、おにぎりとパンヌカック(フィンランドの伝統スイーツ)を作った後、彼女が持って来てくれた脱出ゲームをした。

・余談ではあるが、フィンランドでは(ヨーロッパでは)1月から5月中旬までが後期扱いで、次年度が始まる8月末まではアルバイト&インターンを兼ねてSummer Jobをする学生が多い。

・個人的に脱出ゲームはかなり好きな方で、留学前も遊ぶことは多かったのだが、今回はボードゲーム形式で、説明文が全て英語で書かれていて全てが新しく思えた。
見開き2ページの小説を読みつつ問題カードに書かれた謎を解くのが主な流れで、折り紙を切って完成した形が謎の手がかりになっていたり、紙に穴を空けてそれを下敷きにしてなぞった時の感触が答えのきっかけになるなど、立体的で五感を必要とするものが多く、日本のものとはまた違う脳みそを動かしている感じがして良かった。

・パンヌカックは「フィンランドで最も簡単に作れるお菓子」と言われている通り、ホットケーキを作る時の材料で混ぜた生地をオーブントレイに流し込むだけの料理だ。
おそらくパンケーキをフィンランド語に直訳した名前なのだが、いざ食べてみるとふんわりというよりはカステラのような感触だった。フィンランドではフルーツのジャムと(ラズベリーが主流)砂糖を少しかけて食べるのが一般的で、海外の子どもが好む味がした。

・Friendshipのおばあちゃんとの交流をきっかけに、娯楽が(日本よりも)少ないフィンランドでも、少しお金と時間をかければ美味しくて満たされた生活が送れるんだと気づかされ、フィンランドでいうCookpadのようなサイトから作ったことのないレシピをどんどん試してみるようになった。

・マカロニラーティッコという料理。
フィンランド(ならびにヨーロッパ)ではキッチンがオーブンを中心に回っていて、家庭料理の8割がオーブン必須といっても過言ではない。
めちゃめちゃ太りそうな見た目をしているけれど(実際具材はカロリー高め)豚汁のような温かみのある味わいをしている。

・リハケイット(直訳すると肉のスープ)と称されるこの料理は、具材が完全に肉じゃがで、味もカレー風味の肉じゃがだ。
おばあちゃんの家でご馳走してもらったことがきっかけなのだが、その味について現地の学生に話してみると「カレー風味なのはその人の味付けだと思う」と言われたので、本来の味はもっと肉じゃが寄りなのかもしれない。
地理的には遠く離れたフィンランドと日本で、材料そっくりの2品が家庭料理として親しまれているというのは面白い。

・ウーニロヒ(オーブンサーモン)はサーモンにクッキングクリームをかけてオーブンで焼き、バジルとレモンをお供に食べるという簡単な料理だ。

・自炊を始めて分かったのだが、フィンランドではクッキングクリームを使用する頻度がかなり高い。学食が安価なため、自炊をしない学生も多く、たしかに1人で消費するにはコスパが悪いなぁと思う料理がほとんどだ(わたしは上記のような料理を4日分ほどまとめて作っている)。

・サーモンは基本的に高級品扱いだが、味は日本のものとは若干違っていて、やっぱり美味しい(日本の味も美味しいがこちらも負けていない!という美味しさの発見は、フィンランドでは中々貴重である)。

・健康になろうと思って作ったアボカドのクリームパスタ。
バナナやリンゴといったフルーツは安いものの、野菜は質と価格が伴っていない商品が多く、商品を見る目がかなり試される。
知らない場所のスーパーに行くのが好きだ。しかし最近はフィンランドのスーパーが日常に溶け込んでしまい、ハムコーナーの冷気やCookdoのパッケージ、安く購入できたパックの弁当コーナーがある世界に帰りたいなぁと時々思う。

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・今日はチューターのリリーの家で「すずめの戸締り」を見た後、アイスホッケーの観戦をした。

・すずめの戸締りは公開直後に見たことがあったため、約1年越しの再視聴だった。
大まかなあらすじは覚えていたものの、今回はチューターの家での視聴だったので、字幕だけでは伝わらない部分に注釈を入れたり(主人公のすずめが看護師になるための本を読んでいるという描写があるが、漢字で書かれているため日本語話者ではない人には伝わらない)、彼女の素朴な質問に答えながら(日本のアニメでよく出てくる僕/わたしの違いって何?など)、別の視点からこの映画を見ることが出来た。

・たとえば、1年前は思いもしていなかったが「すずめの戸締り」の舞台は九州→四国→神戸→東京→宮城と移り変わり、旅を通じて主人公が成長していくとともに学校、旅館、スナック、遊園地、通勤電車など日本中の色々な場所が登場する。
改めて見ると、この映画は内容が面白いだけでなく1本見終えるだけで日本中を旅してしまったような気持ちになれるのだ(実際、チューターも「この映画は日本文化に興味がある人の教材としてぴったりだと思う」と言ってくれた)。

・しかし、外国の人にとっては中々伝わらない表現があるのも事実で「すずめの戸締り」には地震を示唆する表現が多々含まれているのだが、地震がほぼ起こることのないフィンランドでは中々想像しにくい恐怖だろうなと思った。

・また、翻訳の壁もある。
作中、廃墟となってしまった場所の扉を閉めるというシーンが幾度かあるが「いってきます」「いってらっしゃい」などの台詞が何度も繰り返されるのと対照的に「おかえりなさい」という言葉は発されることがない。
これは震災の被害に遭い、もう戻ってこれなくなった人々のことを意図した表現なのではないかと解釈しているのだが、海外には上記のような文化がないため、訳語で「Take care.」だけが表示されたとしても、その虚しさが伝わらない。

・かといって先述した要素に気づくことが出来ない非ネイティブの人々が可哀想と言いたいわけではなく、彼らは彼らの故郷があるのだから、その文脈に照らし合わせて自分なりの解釈をしているんだと思う。
ただ、このように1つの物事を違った視点で見るという体験が出来たことが、純粋な今日の収穫だった。

・アイスホッケーはフィンランドの人気スポーツの1つである。
今回わたしは留学先の大学の医学部vs隣の大学の経営学部の試合を観戦したのだが、チケットが1人4ユーロ(約650円)とかなり安価なのにもかかわらず、パフォーマンスの内容はとても本格的だなぁと感じた。

・正直、漠然と「ウィンタースポーツの観戦がしたいなぁ」という思いからチケットを取得したため、今日の試合もルールを把握することからといった有り様だった。

・アイスホッケーは簡単に言えば氷の上のサッカー(さすがに有識者から苦情が来るかもしれないが)だ。
はっきり違う点があるとすれば、キーパーも入れた6人チームで行われ、20分×3セットを通じての合計点で勝敗が決まり、ポジションははっきり決まっておらずリンク内のどこでも移動して良いといった点だろうか。

・まず驚いたのは、個人的にはバレーボールのようにスピーディーに得点が重ねられると予想していたアイスホッケーの点数が、サッカーや野球と同じくらい動かない時間が続いたことだ。試合を見る前は「14vs15」のような数字を予想していたのだが、蓋を開けてみると「2vs5」で決着がついた。

・さらに、ゲームのルール自体もかなり柔軟だった。
選手は審判の判断なしで自由に交代して良いうえに、終盤では2点獲得しなければ勝てないという劣勢に追い込まれたチームが、キーパーを削り6人全員攻撃にシフトチェンジするという作戦に変更し、それが当然のように見なされていたからだ。

・また、想定よりも場外乱闘が多く「反則取られそう/痛そう」といった感想ではなく、味方が敵を倒した場合「よくやった!」というように声援が最初に湧き上がることに日本との差異を強く感じた。
他にも、タイムアウト中に流れる音楽に合わせて踊るチアリーダーがどちらのチームにも存在するのだが、同じダンスミュージックなのにチームごとにバラバラの振り付けで踊っており、応援一つとっても対抗意識があるのだと分かり興味深かった。

・別れと再会が交錯する月。
この留学期間、わたしは誇りを持って「自分は変わった」と言える。
それはひとえに、周囲の人々がありのままのわたしを、成長過程も含め受け入れてくれたからだ。
わたしは残りの期間で、彼らが贈ってくれた愛と同等の思いを返すことができるだろうか。

・目に見えない部分に取っておこうと決めた気づきを零さないように、ネットの海に繋ぎ止めている。


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