見出し画像

木原事件 ある警察官一家の事件簿(2)

この投稿はフィクションであり、物語に登場する人物は全て架空の人物です。

北永は息子・民雄からの電話で離婚届に判を押すよと話を聞くと複雑な思いが胸をよぎりました。逸子が民雄から逃げ出したことは聞いていたもののまだ離婚そのものに納得したわけではありませんでした。1週間前に逸子から電話があった時も二人で私のところに来なさいと言ったばかりでした。でも逸子が北永の家に来ることはないままその日を迎えたのでした。北永は毎日朝早くから配送の仕事をしていたので出来れば日曜のうちに車を返してもらいたいと思い民雄に電話をかけます。しかし民雄が電話に出ることはなく、又いつもならすぐに折り返すはずの民雄が今日に限ってなかなか電話を返してきませんでした。北永は気にはなりながらもいつも通り早めに床に着きます。しかし胸騒ぎがして、いてもたってもいられなくなり、まだ真っ暗な3時過ぎバイクにまたがると民雄の家に急ぎました。

民雄の家に着くと貸していたバンが狭い路地に駐車されていました。北永は一瞬、そのまま乗って帰ろうかと思いましたが、やはり民雄が気になり一声かけようと玄関に向かいます。玄関の鍵はかかっておらず、そのまま扉を開けるとそこにはいつもより多くの靴が散らばっていました。北永は靴を脱ぐと、民雄が寝ているはずの二階へと暗い階段を手探りで上って行きました。上りきったところで居間に入ろうとすると足にゴツンと何かがぶつかりました。「何だこんなところに寝やがって」と思いながら電灯のスイッチを入れるとそこには血だらけの民雄が目を剥いたまま仰向けに横たわっていました。

民雄が殺されたと確信した北永は119番でなく110番しようと携帯電話を取り出します。そこで現場の住所を正確に覚えていないことに気が付くと一旦外に出て住所が書いてある電柱か看板がないか探しますが、なかなか見つかりません。ようやく50メートルほど先の塀にかかっていた住所表記を見つけると北永はその場で「息子が死んでいる」と大きな声で警察に通報します。なんとか事情を説明し終えた北永は家に戻る途中、背中に長いものを背負い少しびっこを引きながら歩く見知らぬ男とすれ違います。少しばかり通り過ぎたところで北永はこんな時間に人が歩いていることに違和感を覚え、振り返るとその男を追いかけました。しかし男は道の先にある十字路を右折すると北永が十字路に着いた時にはすでに影も形もありませんでした。

北永が住所表記を探しているわずかな時間に家の中では大変なドタバタ劇があったのですが、北永はそのことには全く気づいていませんでした。実は北永が民雄の家に着いた時、逸子や寝ている子供たち以外になんと3人もの男がいたのです。一人はもちろん逸子に呼び出された淳ですが、あとの二人は兄・洋次と風俗店のオーナーでした。洋次は事件後の偽装工作を終え、父・謙三と共に一旦家を出ますが、一人になった洋次はオーナーに民雄が死んだことを携帯電話で伝えます。するとオーナーは「まだ盗まれた店の金の穴埋めが済んでいないのにどうしてくれるんだ!」と洋次をなじり「あいつを紹介したのはお前だぞ!残りの金はお前が返せ!」と迫ります。「ひょっとしてお前、民雄をどこかに隠しているわけじゃないだろうな?」「いやいやいや!そんなことはありません。なんなら民雄の家に来て、金目のものでも何でも持っていってください。」「わかった!それならすぐに行くわ!」そんな訳でオーナーは家にやって来ると死体を確認し、高級時計など金目のものを全て取り上げます。そして現場にいた淳に対し「俺たちのことを喋ったら殺すぞ!」と脅かしました。そんな時に北栄がバイク音を響かせ民雄の家に到着したのです。北栄が一旦外に出たことを確認した洋次は玄関から自分以外の二人の靴を持って二階へ上がります。北栄と鉢合わせしないように階段の踊り場の窓から逃げようとしたのです。オーナーが飛び降りたところで、淳は北栄がまだ電話をしていることに気が付き、洋次に玄関から逃げろと合図しながら彼も下に降りました。顔を知られている洋次と淳はもちろん北栄がいない方向へと逃げますが、オーナーは北栄に顔を知られていない為、自分の車を止めてあった方向へと歩き出しました。ただ飛び降りた時に足を痛めた為、オーナーはびっこを引くように歩いていたのでした。そして電話をかけ終えた北栄とすれ違い、声をかけられると慌てて右折し止めてあった自分の車にじっと身を潜めていました。
(つづく)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?