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【こんな映画でした】157.[ベニスに死す]

2021年 9月 9日 (木曜) [ベニスに死す](1971年 MORTE A VENEZIA DEATH IN VENICE イタリア/フランス 130分)

 ルキノ・ヴィスコンティ監督作品。一回目は封切られた時に映画館で。二回目はおよそ半世紀後の2020年 4月28日 (火曜)にVHSで。そして今回三回目はDVDで。なおブルーレイディスクはクライテリオン版があるが、高価だ。今回のDVDでもまず十分に見ることができた。

 三日にわたって、初めてDVD版で観る。そもそもはレンタル落ちのを購入手続きしたところ、不具合があるのでキャンセルされてしまった。ところがテックシアターからだが、送られてきたものには他の二枚とこれも同梱されていた。もちろん無料ということで。で、早速試したみたが、開始40分くらいでストップしてしまった。こういうことだった。にもかかわらず送ってくれたのはありがたかった。で、諦めずにこのDVDをアルコールで清拭して、最新のプレーヤーに掛けてみた。結論からいって、拭いたにもかかわらず二カ所は一瞬、画像が乱れた。しかしともかく最後まで観ることができたのだった。特典映像も観られて良かった。

 やはりVHSに比べ格段に画質が良い。見やすかった。そしてこれまで気が付かなかったシーンにも気が付かされた。たとえば教会でタージオ(ビョルン・アンドレセン)たちがいるところへ、アッシェンバッハ教授(ダーク・ボガード)が入っていくというもの。短時間なので見落としたか忘れたか。

 ラストシーンも見事だ。あの海辺のハウスがずらっと並んでいる状景をじっくり俯瞰で見せる。そして画面右奥の方から教授らしき人物が見えてくる。そこでアップになり、教授の異様な風体に驚かされることになる。教授はあたかも死に化粧ともいえる白塗りの化粧をほどこし、白装束のような上下白のスーツで浜辺へ登場。その少し前から鎮魂歌のような歌がそこにいる人たちによって歌われる(何の曲なのか分からない)。

 そこに教授がよたよたと現れる。思わず係員の肩をつかんだりもする。途中で気が付いたのだろう、いつも使っているハウスまで行かずに、途中でデッキチェア(キャンバス地のリクライニング)に腰をおろしてしまう。何故そこなのか、は次のショットで私たちに分かる。タージオが視線の先にいたのだ。友だちとふざけあっている。それを慈しむようにじっと眺める教授。

 と、まもなくタージオは海へと歩き出す。汗をふきふき見つめる教授の頰には黒い筋がゆっくり流れ落ちてくる。床屋での髪の黒塗りが暑さで溶けてきたのだ。その教授の視線のかなたで、タージオは向こう向きで右手を腰に、左手を斜め上に伸ばすというポーズをとる(これまた何を意味するのか私には分からない)。そしてちょっと教授の方を振り返って見る。

 教授は左手を彼に差し伸べ、立ち上がろうとするかのように、デッキチェアから崩れ落ちる。係員が教授の異変に気が付き近寄ってくる。もう亡くなっていると察知し、人を呼んで二人で教授を抱きかかえ連れ去っていく。ここでまたカメラはその浜辺の俯瞰に戻り、教授が運んでいかれるのを点景として映しながらフェイドアウトする。
* 
 結局、タージオという美少年は何なのだろう。美というものは人間が創造しようとしてもできるものではない。それは自然に生まれるものだということなのか。その証明であり、象徴がこのタージオなのだと教授は見たのかもしれない。自分の作り出せなかった芸術の結晶をそこに見出したのかもしれない。

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