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【こんな映画でした】415.[旅情]

2022年12月11日 (日曜) [旅情](1955年 SUMMERTIME イギリス 100分)

 デヴィッド・リーン監督作品。1907年生まれのキャサリン・ヘプバーン(1954年の撮影当時47歳)主演、相手役はロッサノ・ブラッツィ(撮影当時38歳)。
 キャサリン・ヘプバーンの役柄は、39歳のアメリカ人独身女性ということらしい。さすがに10歳の違いは大きいかもしれない。特に彼女の場合、シワが多かったと何かで読んだ気がする。アメリカ映画のスター主義は、10歳や15歳の役者の実年齢との差などは気にしてないようだ。スターを起用することが、映画の成功を左右する決め手になるということだ。

 だからというわけではないが、ロッサノ・ブラッツィは若い。二十歳前後と思われる長男が出てくるが、二十歳で結婚していたらおかしくない年齢設定だろう。

 オープニングまもなく、有名なこの映画のテーマソングが聞こえてくる。それも作中、何度もバリエーションの形で聴かされる。覚えてしまわないわけにはいかない哀感を帯びた名曲だ。

 オープニングシーンもエンドシーンも、ベニスからパリ行きのオリエント急行の列車を映しだしている。彼ら二人の別れは、それは大人のそれであった。もっとも主として女性側からの決断だが。そしてそれは正解だろう。いずれ時とともに、人の心は移ろいゆくものだから。思い出だけにして立ち去るのが綺麗だ。いくら寂しくてもそれがベターである。そこに残れば折角の思い出が薄汚いものになってしまうかもしれないから。

 はたしてこの結末は、彼女の賢明な判断なのか、それとも優柔不断(これまでの人生のように)のなせるわざなのか。いずれにしてもその行動にいたる思考には、様々なことを考えただろう。つまり、所詮は一夏の恋に過ぎないのだという諦観やら、実際問題としてイタリアとアメリカでどのようにして二人で暮らしていけるのか。経済問題も親族(彼の方の子どもたち)のことも。

 そのように考えていけば、愛という何ら保証のないものに縋るのは、やはり愚かである。これを素晴らしい僥倖だったとして、思い出にしてしまうのが一番賢明な選択になるのだ。もっとも人は、常にそのような最善の賢明な選択をできるとは限らないのだが。彼女は賢明であった。そして情熱的でもあった。

 ウィキペディアによると、宗教界からの問題提起もあり(イタリアはカトリックなので離婚はダメだし、まして不倫ものは、ということか)、公開には苦労しているようだ。一部の国では、シーンをカットしての上映とかも。映画に限らないが、芸術というものは権力からの弾圧を受けやすいものだとつくづく思う。お金が掛かるからでもあろう。とまれ宗教や道徳との戦いから、名作は生まれるのかもしれない。

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