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書かずにはいられないのか

「夜のもっとも静かな時間に、私は書かずにはいられないのかと自分にたずねなさい」(Rilke, Der Brief an Franz Xaver Kappus, Paris am 17. Februar 1903)
 ドイツの詩人であるリルケは、自作の詩を送ってきた若い詩人カプスに、今後批評を求めるようなことは一切やめるようにといい、夜のもっとも静かな時間に「私は書かずにはいられないのか」と自分にたずねるよう助言している。
 そして、「私は書かずにはいられないのか」と問うてみて「書かずにはいられない」と答えられるのであれば、「この必然性に従ってあなたの生活を建てなさい」といっている。
 ここでリルケがいう「書かずにはいられない」は、ドイツ語ではIch muß schreibenだが、これは「私は書かなければならない」とも訳せる。しかし、義務感で書くということではなく、内面的な促しに従って書くということである。
 リルケは、詩を出版社に送り、自分の詩を他人の詩と比べたり、編集者に詩が拒絶されると不安になったりするようなことを一切やめるようにカプスに助言する。
詩を内面的な促しや「必然性」に従って書くのであれば、つまり「書かずにはいられない」のであれば、他者からの評価はどうでもよくなり、他者からの評価に一喜一憂することはなくなる。
 自分の外に目標が最初からあるのではない。誰かが決めるのでもない。人生の目標は、自分が決めなければならない。その決め方というのも、この若い詩人を例にすれば、詩を書くという行為自体が目標である。
 書かずにはいられない詩を書くことが何につながっていくかはわからない。世間的な成功にはつながらないかもしれない。しかし、ふとこの詩は売れるだろうかと考えた時、その生活は「書かずにはいられない」という必然性から逸脱してしまう。
 私はいつもこの厳しいリルケの言葉を思い出す。とりわけ、書きあぐねて書いては消してばかりしている時には。

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