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研究ノート『外国人材雇用における共生コミュニティの必要性』

【参考文献】
 野中郁次郎・竹内弘高著、梅本勝博翻訳『知識創造企業(新装版)』東洋経済新報社

一、前提

外国人雇用における大きな問題の一つに「定着性が低い」ことが挙げられる。
これは、端的に言えば、日本企業において外国人材の長期にわたる就労状況を維持できないことである。

日本企業からすれば、「ようやく仕事を覚えて戦力になったところで辞める」というのが常態化すれば、外国人雇用に消極的なるだろう。やはり、日本企業は、「長く働いてもらい、自社の中で経験を積んでもらう」ということを望む。

しかし、外国人材は、これまで自分が生活していた環境(母国)と全く異なる場所(日本)で生活することから、当然、外国人材は、数々の「葛藤(Conflict)」に直面していく。

「何が、正しいのか?」
「何が、間違っているのか?」
「何を、すべきなのか?」
「何が、与えられるのか?」
「何が、得られるのか?」

特に、来日当初の外国人材は、これらを適切に判断すること困難な状況(以下「葛藤状況」)に陥る傾向にある。

そして、葛藤状況のまま日本生活が継続すると、入管法上の「在留不良」や刑事罰を受ける可能性が高まり、失踪技能実習生や不法就労外国人へ至る外国人材が顕在化していく。

たとえ、そこまで至らなくても、「目先の好条件」に惹かれて転職し、結果的に不利益を受ける外国人材も少なくない。

では、葛藤状況を早期に解消するために必要なものは何か?


私は、終局的解決を図れるものとして

「共生コミュニティ(Symbiotic Community)」

を挙げる。


二、共生コミュニティ創造 Symbiotic Community Creation

共生コミュニティ(Symbiotic Community)とは、日本人と外国人による知識創造の場である。

既来日外国人材を構成員とする共生コミュニティが、後来日外国人材を迎え入れることにより、彼らに「日本入門」生活を実践させ彼らの葛藤状況を解消させる。

葛藤状況を解消するためには、「判断基準」(正当化基準)が必要となるが、この「判断基準」の前提となるのが日本の社会通念という暗黙知(非言語化知識)である。

例えば、日本人住民と外国人住民のトラブルとして、外国人住民のゴミ出しルールの不徹底がある。これは、日本人住民側からすれば、ゴミ出しルールを紙等で明確に告知しているのだから、それを外国人住民側が順守することは当然だと考える。

しかし、このルールの紙等での告知は、日本語で言語化された形式知であり、その前提となる社会通念である暗黙知を伝えてはいない(但し、この暗黙知は、日本人なら当然身につけているであろう感覚であり、言語化しやすい常識と考える)。

外国人住民側は、暗黙知を伴わない形式知のみのゴミ出しルールを伝えられても日本人と同様に理解を得ることは難しい。

これは、日本人と異なるエスニシティを持つ者からすれば、当然である。
両者のエスニシティの異同について擦り合わせる過程が必要なるが、この過程が、SECIモデルにおける表出化に当たると考える。

つまり、共生コミュニティは、この社会通念という暗黙知を形式知(言語化知識)とする表出化を核心とするSECIモデルとしての組織的知識創造機能を有する高密度な場である。

共生コミュニティ構成員となった外国人材は、組織的知識創造のプロセスの中で「判断基準」(正当化基準)を身につけ彼らの葛藤状況を解消していく。

また、日本企業における就労の中で生じる様々な新しい葛藤も、共生コミュニティにおける組織的知識創造の中で解消されて行く。

その結果として、外国人材の長期就労状況を維持できることになる。

なおコミュニティは、オンライン上等の単なる人的ネットワークでは不十分である。なぜなら、人的ネットワークでは、知識創造に必要な情報密度が不足しているからである。

これは、人的ネットワークでは、形式知が中心となり、知識創造に必要な暗黙知が不足するからである。

現在KISグループで進めている「KIV(KIS Immigrant VIllage) Project」は、上記「共生コミュニティ」の実現を目指したものである。


参考書籍
アインが見た、碧い空。

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