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私のロードムービー

あー私のひとつの物語が終わる。
悲しい。
私は現実世界が苦手で、現実社会というべきか、
子供のころからすぐに自分を物語の登場人物にするクセがあります。
そうすることで、いろんな自分になりきることで癒されるから。

よく利用していたこのガソリンスタンドに入る自分が好きでした。
おしゃれでもない、はっきりと言えば冴えないスタンド。



決してガソリン代は安くない。若いお客さんは少なく、高齢者のお客さんが多かった。愛想がいいわけではない。フロントガラスを拭いてくれる時もあればない時もある。こびり付いたままの鳥のふんをきれいに拭き取ってくれたときは心から「ありがとうございます!」と言いました。

働いているスタッフのみなさんのキャラ濃くていつもニヤニヤしながらスタンドに入っていました。住んでいる土地を舞台にしたスクリーンの中にいるような気分になれたんです。

交わす言葉はいつも「現金3000円で」くらい。
何かおもしろいことが起きるわけではないけど、今日もガソリンを入れてくれた。それだけ。
ガソリン以外に灯油、タイヤの空気圧、エンジンオイル交換、拭きあげなしの水洗車(のはずなのに拭いてくれた)をお願いする時もあった。
待っている間のサービスコーヒーはいつも薄かったけど、全部飲み切る前に作業がおわっていたのでそれでよかったのです。

金曜日はサービス券1枚でガソリン代が少し安くなる。券が5枚だったらいつでも安くなる。流れで別のところで入れることがあっても、よく利用しました。
まあ、向かいにあるスーパーを利用するという理由もありましたが。

今日は誰が入れてくれるんだろう?元気な声で出迎えてくれて、見送ってくれる。なぜかそれで運転に気をつけようと思えるから不思議。
セルフにはない温度というか。

ヴィムベンダースの映画を見た帰りにこのスタンドが今月いっぱいで閉店することを知った。
えーーー!!!っと大きな声を出してしまった。私のロードムービーが終わっちゃう・・・。と言いそうになったけどグッとがまん。

いつもガラガラ声のおばちゃんが(おじちゃんおばちゃんしかいない)
「そうなんです・・・」
と営業終了のビラを渡してくれた。
43年のご愛顧いただき、、、と書いてあった。私はその5年ほどしかお世話になってない、それでもありがとうございました。


さて、次はどこで新しい物語を始めようか。どんな自分になろうか。

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