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訪日観光客を生かす 交流深め、関係人口創出へ*

*西日本新聞2023年7月9日「オピニオン」欄より

 先ごろ政府は新たな観光立国推進基本計画を決定した。新型コロナウイルスを巡る水際対策は終了し、国内では観光復活に向けての動きが加速している。世界中で日本の食や文化への関心は高く、最近の海外の調査では、旅行先として日本が上位を占めるものも出てきた。先の計画には、インバウンド(訪日客)の地方分散の方針が打ち出されており、本格的な地域観光の時代が到来した感がある。今後、訪日観光客を地域の発展にどう取り込んでいくのか、自治体や民間事業者の知恵が問われることになりそうだ。

 2年前に九州に戻ってから、私は故郷の大分県中津市に計15回、50人以上の東京の友人を案内してきた。福澤諭吉旧居・福澤記念館や景勝地の耶馬渓、老舗料亭や博物館を訪れ、地元の人との交流を重ねた。友人たちの反応は良く、地域の振興や観光についてのアイデアが百出した。地域に課題はあるものの、観光を含めて、新しい可能性を見いだすことができたのはうれしい誤算となった。

 コロナを経て、世界はどこにいても仕事ができる環境になった。そうした中、日本の地方の自然や文化、人々の暮らしが好きで、訪れたい、住んでみたいという海外の人が増えていることを実感する。地方の良さは訪れた外国人によって気付かされることも多い。今後の地域観光の取り組みとして、まずは祭りなどの行事や伝統文化を生かして、訪日客と地元の人との交流の場をつくることから始めることを勧めたい。交流が地域の良さの再発見につながり、訪日客がファンやリピーター(いわゆる「関係人口」)になり、将来は住んでみたいとなるかもしれないからである。

 国の内外を問わず、人が訪れてくることは、地元にとって一期一会の出会いである。とりわけ、遠距離から来る旅行客との接点を地域で最大化しない手はない。例えば各地にある観光協会に、旅先案内だけでなく、商談や起業、移住の相談コーナーも設けてはどうか。また、旅行者の九州滞在を長期化するために、各地に点在する観光資源を食や文化などのテーマで結び付け、地域間で送客する取り組みはできないだろうか。

 やがて訪日客が地域コミュニティーのメンバーになることも期待しながら、今後も九州の観光をつないでいく試みを続けていきたいと思う。

 ゆう・きそん 大分県中津市生まれ。慶応大卒。英国の銀行勤務、富裕層・外国人向けの家事支援サービスの会社代表を経て、地域の事業創造に取り組む会社「クレアティフ」を設立。福岡市在住。

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