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NO.6『イライラメーター』

なるべく穏やかに、優しく、温かくって思うけど…。
私のイライラメーターが段々と上昇していくのを感じたある日の出来事。こんな事がありました。ちょっと聞いて~

へっぽこ娘

その日はケアマネさんの訪問日だったので、午前中30分ほど仕事を抜けさせてもらい、母の近況を報告した。デイサービスが休みだった母も楽しそうに話に加わり、イイ感じだったのだが、午後になると母は「私は何もやることがない」と言い出した。「テレビでも見ていたら?」と言って私は仕事に戻ったが、少しすると「縫い物をしようと思ったんだけど糸がないの。買ってきていい?」と私の部屋に入ってきた。母の部屋を整理したときに売るほどある糸を目撃している私は「買わなくてもあるはずだよ。見つけてあげるね」と仕事を中断して母の部屋へ行く。テーブルに広げた布を見て「これを縫うつもりなんだ。やることがあって良かった」と思った。母は昔から縫い物が好きで、知り合いに譲ってもらった布を小さく切ってパッチワークをし、ベッドカバーやこたつカバーに仕立てては誰かにプレゼントをしていた。認知症が進んでからはやろうとしてもすぐに飽きるのか、疲れるのか、全然進んでいない作りかけがあるのを知っていたが、それがテーブルに広げてあったのだ。せっかくやる気になったのだから早く糸を見つけてあげようと探すと、色とりどりの糸の入った入れ物が4つも見つかった。母は「あ~よかった」と嬉しそうだった。これでしばらくは大丈夫だと私は仕事に戻る。

少しすると今度は「針がないのよ」と言ってきた。やれやれと探し出した針箱に何故か針が一本もなかったので、私の針を貸してあげた。しばらくして今度はメガネがないと言ってきた。今度はメガネ?いい加減にしてよ。仕事中なんだけど。母は「ここにキチンと置いたのになくなった」といつものセリフを口にした。「キチンと置いてあればメガネは一人で歩かないけどね~!」少し口調が強くなる。メガネの置き場所に心当たりがない私は「悪いけど仕事しているから自分で探して」と突き放してしまった。しばらくしてどうしたか気になって母の部屋へ行ってみると、色々なものをひっくり返してまだメガネを探していた。「ここに置いたのよ。まったくこの家には持っていちゃう悪い奴がいるから」また主人のことを言っているんだろうとその言葉にすぐに私は反応した。「誰も持って行かないよ。どこに行っちゃったんだろうね」まだまだ初めは穏やかだった。「私はちゃんと、きちんとここに置いたのに。本当に困ったわ。だからここの家は嫌なのよ。私はどこへ行けばいいの?」

あ~また言い出した。反論したい気持ちを抑えて無言で手あたり次第探すが出てこない。参った。今日は本当に出てこない。「仕方がないね」と探すのをやめると「本当に嫌な奴。この前も私の下着が入った箱を箱ごと持って行っちゃったんだから」「誰が?そんなことする人いないよ」と言うと「あんたの旦那だよ!」「そういうこと言わないでよ!悲しくなるよ!」「何言っているの!本当なんだから!」少しずつイライラメーターが上がってくる。

認知症の人が言っているのはわかっているのだが、本当に普通に言うのだ。だからこちらもつい、そのまま受けとめてしまい腹が立ってくる。そんなこんなのやり取りをしながら、最後にもう一度だけ母のバッグの中身を丁寧に確認すると、中からメガネケースが出てきた。「あったよ!ここに入れたの誰よ!お母さんでしょ!」と勝ち誇ったような気持ちで母に軽~く投げてメガネケースを渡した。受け取った母はすぐにそれを私に思いっきり投げつけてきた。母のプライドが傷ついたのだと思った。でも私は「本当に憎たらしい!可愛くない!人を疑ったんだから少しは謝れ!見つけてもらったんだから感謝しろ!」そんな気持ちでいっぱいになった。これ以上いいふれ合いは絶対にできないと確信した私は「勝手にして!」と捨てゼリフを吐きながら母の部屋のドアをバタンと締めて自分の部屋に逃げてきた。

あーあ、またやっちゃったと思ったけれど、前ほど自分を責めていない自分に気づく。だいぶ図々しくなってしまった。でもそれは、最近の母が今あったことをすぐに忘れてしまうので、こんなことがあっても全くと言っていいほどお互いしこりが残らないのをわかっていたからでもある。いいか悪いかは別として、これには私自身が一番助かっている気がする。案の定、それから小一時間経って母とは仲良くお茶をした。

聞いてくれてありがとう。


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