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オッペンハイマーの苦悩

オッペンハイマーを見てきました。以下、ネタバレを含む議論をします。


率直に最高の映画だと思います。久しぶりにパンフレットを買いました。映像美、ストーリー構成、音楽、内容の深さ、どれをとっても一級品だと思います。特に感心したのは映像で、リアルというよりも脳に「核爆発」を理解させてくる力を感じました。連鎖反応の力を可視化することで、オッペンハイマーが真に魅せられたのは何だったのか、理解させられます。

つまり、自分の解釈は、オッペンハイマーは「物理学を愛していた」ということです。トリニティが成功した時点で、彼の物理学的興味は完了していました。彼は別に原爆を落として欲しくないとは思っていなかった。ただそういう人達もいると伝えただけです。水爆の開発にも意味がないと思った。だからリソースを物理学の他の側面に割くべきだと考えた。最後まで、彼は物理学者だったのです。

この映画では、アインシュタインとの会話が核になっています。何故、マンハッタン計画に参加していない人物との会話がこんなにも重要な役割を担うのでしょうか。それは、物理学の行末を憂慮している、という裏テーマが隠されているからです。オッピーの中で、トリニティとともに世界は終わりました。後半のストローズとの戦いに彼は身を投じていません。物理学が、次に向かう方向を規定してしまったことがオッピーには重くのしかかっていたのではないでしょうか。そこで彼の物語は終了していました。

以上のように、オッピーが枯れ果てたのは、自分が物理学でやるべきことを完了してしまったからだと思います。そこには罪悪感も混じっていたのかもしれませんが、彼の物理学者としての姿勢は一貫していたように思えます。この映画は原爆の映画としてだけではなく、物理学者の映画として見ることができます。ロスアラモスは今も理論物理学の最高峰の研究所です。プリンストンは研究者の憧れであり続けています。彼が過ごしたこれらの地で、物理学は進展しているのです。科学は巨人の肩に乗る行為であり、オッピーらも巨人の一部として今も人々を支えています。そんな彼を深く知ることができる、素晴らしい映画でした。

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