北野圭介

北野圭介

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『情報哲学入門』のための練習問題 no. 3

(3月30日午後3時より、大阪は梅田のジュンク堂で、『情報哲学入門』の刊行イベントがあります。メディアアーティストの藤幡正樹さん、情報哲学者の原島大輔さんとの鼎談です。オンラインでも視聴可能です。 詳しくは https://online.maruzenjunkudo.co.jp/products/j70065-240330 をご覧ください。)  ロイターのニュースサイトで「シンガポールが「東南アジア」AIモデル開発」という記事(2024年2月12日)が飛び込んできた。 シ

    • シンガポール−ボストン 雑記帳(2)

       ハーバード・フィルム・アーカイブ(HFA)を訪ねてみた。  土地土地にある映画館に訪ねるのは映画研究者だからこその愉しみであることはすでに記したとおりだ。なかには、やれ名の知れたあの映画祭に出かけたのだの、この貴重な上映イベントに参加できたのだの、とことさらに語る人たちもいるが、そういう場に招かれたこともないので羨ましいとは思いつつも、そういう報告はあまり好きではないので、ここでのものはそうういう意図ではない。選ばれし者とでもいいたげな、なにほどかの特権性を醸し出しているこ

      • 『情報哲学入門』のための練習問題 no.2

         また映画の話で恐縮だが、同時代の諸状況を多かれ少なかれ受けとめ思うところをぶつけているのが、表現文化の面白いところだ。じっさい、前回の練習問題もそうだったが、昨今のSF映画は、こんにちのデジタル技術や人工知能の行方がどうなるかについて教えられるところが少なくない。 アメリカまでの飛行機のなかで、見逃していた『ザ・クリエーター/創造者』を見ることができた。 SF映画は個人的にもけっこう好きだし、上のような次第もあるので、一定程度の期待はあったものの、それでもなめてか

        • 『情報哲学入門』のための練習問題 no.1

           今年(2023年)の初夏(といっても、シンガポールはいつも夏みたいなのではあるが)、少しでも現地のいろんな人と触れあう機会を増やそうと考え、ChatGPTに相談してみた。「meetup」の一つに参加してみるのはどうかと応えてきたので、オンラインで調べてとりあえず日本語グループに参加することにした。  さっそく地図アプリでガイドしてもらって、土曜日に開催されているというショッピングモールのフードコートに出かけた。日本語ばかりでなく、中国語、フランス語といろんなグループがあって

        『情報哲学入門』のための練習問題 no. 3

          シンガポール−ボストン 雑記帳(1)

          縁あって、11月20日からボストンへと拠点を移している。 せっかくのサバティカルなので、シンガポールだけではなく、他の都市の学術状況を観察してみたいと思って、ハーバード大学ライシャワー日本研究所に無理をいってお願いを聞き入れてもらった格好だ。 とはいえ、日本で用事や、シンガポールでのやり残しもあって、ぐるぐる行ったり来たりを余儀なくされるという次第ではあるのだが。 いずれにせよ、その移動にまつわるてんやわんやもあって、すっかりこのnoteへのアップも怠ってしまうということにな

          シンガポール−ボストン 雑記帳(1)

          〈映画研究ユーザーズガイド〉             第11回 ストーリーテリング(3) 

          第11回 ストーリーテリングの映画的技法  では、ガレット・スチュアートによる、映画のストーリーテリングについてスケッチしておこう。   以下、多少なりともぬるい書きっぷりになっているのは、ひとえに筆者の腰が引けているからにほかならない。けっこう強者なのだ。  まず、スチュアートの仕事はかなり広範囲に及ぶ。  もともとは年季の入った文学研究者である。その文学論は、以下でみていくことになる映画論となかば対になっているともしばしばいわれるほどに、それ自体が相当ラディカルなも

          〈映画研究ユーザーズガイド〉             第11回 ストーリーテリング(3) 

          〈シンガポール雑記帳〉その5

           前置きが長くなってしまった。  自宅近くのシネコンで、では何を見たのかというと、『Home for Rent』(ちょっとタイ語が解せないので、英語表記にしておくことをご容赦ねがいたい。ちなみに、筆者が観た際も英語表記で劇場にはかけられていた)である。  監督は、2011年に『Laddar Land』でもって、タイの商業映画の興行成績を塗り変えたという鳴り物入りのSophon Sakdaphisitだ。下手なものではないだろうと期待が胸を踊らせた。  異国の慣れぬ景色に刺激さ

          〈シンガポール雑記帳〉その5

          〈映画研究ユーザーズガイド〉  第10回 ストーリーテリング(2)

          第8回 ストーリーテリングとエピステーメ  次に、バックランドと近い論方向であるものの、微妙に異なる立論を組み立てていたトーマス・エルセッサーの仕事をみておこう。  長いキャリアにおいてコンスタントに次々と研究者共同体を驚かせる仕事を発表してきた(2019年に亡くなられた)エルセッサーは、先に触れたバックランドが編んだ2009年の論集『Puzzle Film』に巻頭論文「The Mind Game Film」を寄稿していた。まずはこれをみておきたい。  膨大な数の作品

          〈映画研究ユーザーズガイド〉  第10回 ストーリーテリング(2)

          〈映画研究ユーザーズガイド〉  第9回 ストーリーテリング(1) 

          第9回 ストーリー・テリングとデジタル・テクノロジー  ストーリーテリングについてとりあげよう。  その研究は欧米でただいまフルスロットルで爆進中だ。  ここまで繰り返し述べてきたように、映画研究においては、技術経験論や情動研究の流行が長らく(25年強のあいだ)続いてきたのだがが、行き詰まりを感じはじめた研究者は少なくなく、映画のクリエティブな面、アートな面に光をあてなおす作業が改めて注目されている。カラーや音響、あるいはいくつかのジャンルにおける新たな技巧の取り組み

          〈映画研究ユーザーズガイド〉  第9回 ストーリーテリング(1) 

          〈シンガポール雑記帳〉その4

           タイ映画の新作ホラーがかかっているというので出かけてみた。  筆者が仮住まいしているのは、中心部から地下鉄で30~40分ほどの郊外の住宅地で、最寄りの駅といってもそこから徒歩でさらに20分ほど歩いたところだ。地下鉄が地上に出てから15分ほど走ったあたりといえば、日本でもありがちなので少し感じがわかるだろうか。  郊外の住宅地とはいえ、戸建ての区画は多少なりとも見受けられるものの、基本はいわゆる10階前後から20階前後あるいはそれより高層の集合住宅が群れをなし聳え立ってい

          〈シンガポール雑記帳〉その4

          〈映画研究ユーザーズガイド〉        第8回 サイエンス・フィクション 

          SF映画研究の現在  こんにちのジャンル映画研究の先端部分をもうひとつとりあげよう。SF映画だ。  SF映画は、ハリウッドはいうにおよばず、次から次へと傑作がスクリーンにかかってもいてまさに一番人気を誇るジャンルでもあるといってもいいかもしれないほどで、それに応じて、SF映画研究の方も追いつけ追い越せといわんばかりに活況を呈しているのである。  今回は今世紀のSF映画研究の有り様を照らし出してくれていると思われる研究書のひとつないしふたつをとりあげたい。  まず、J.P.

          〈映画研究ユーザーズガイド〉        第8回 サイエンス・フィクション 

          〈シンガポール雑記帳〉その3

           マイク・デ・リオンが世界のあちこちで話題になっている。  オーダム・シアタで目の当たりにしたのはそんな光景だ。  監督自身が登壇し、その対談相手をニューヨーク近代美術館映画部門キューレーターのジョシュ・シーゲルが務めるという形式だったのだが、シーゲルは昨年末に近代美術館でのデ・リオン監督の特集上映を企画し好評を博していて、それが今回のこのイベントのきっかけになっているのだ。  配布された資料をみると、そもそも2022年前半にはカンヌ映画祭でデ・リオンのレガシーともなって

          〈シンガポール雑記帳〉その3

          〈シンガポール雑記帳〉その2

           若い人たちが群れ集うブギスの盛り場から、大きな道路を挟んで小高い丘の方へちょっと上がった先にあるナショナルーアーカイブ、その2階にオーダム・シアターはある。シンガポールのアジア・フィルム・アーカイブ(AFA)がもつ映画館だ。  AFA自体のオフィスはナショナル・ライブラリーにある。この一年間シンガポールでいろいろと調査をしたいのでよろしくお願い申し上げますと、少しばかり前の3月末に挨拶に伺っていた。そのとき、職員のカレン・チャンさんにあれこれ説明をうけたのだが、加えて「いま

          〈シンガポール雑記帳〉その2

          〈シンガポール雑記帳〉その1

           運よくサバティカルがとれたので、研究専念の時期と謳われてもいるし、映画研究にかかわっての海外での経験値をちょっとでも膨らまそうと企んでみた。その雑記帳、あるいは備忘録である。  振り返ってみれば、大学院の時期を北米はニューヨークで、次には、10年ほど前にあった最初のサバティカルは狭い意味での欧州ではないものの英国はロンドンで、ありがたいことに過ごすことができた。北米、欧州ときたので、次はアジアかなと漠然と考えてみた。  東アジアも選択肢のひとつではあったのだが、青木保の書

          〈シンガポール雑記帳〉その1

          〈映画研究ユーザーズガイド〉     第7回 ホラー映画

          マレイ・リーダー『ホラー映画 評論入門(Horror Film A Critical Introduction)』(Bloomsbury, 2018)  カラーのあとにホラーをとりあげるというのは下手な語呂合わせのようでしかないが、これまでの話に鑑みると、それほどおかしいわけでもないだろう。  補助線を引いておけば、ハンセンが「グローバル・ヴァナキュラー」というフレーズをもとに注意を寄せているのはハリウッド映画における感覚に訴える力であることはすでにみたとおりだが、じつのと

          〈映画研究ユーザーズガイド〉     第7回 ホラー映画

          〈映画研究ユーザーズガイド〉     第6回 カラー

          第6回 ジョシュア・ユミビ『動くカラー−−初期映画、大衆文化、モダニズム』(Rutgers University Press, 2012)  映画の「カラー」をめぐっての論議が、映画研究においてやたらと盛んだ。  数例だけあげておこう。欧州認知派のワレン・バックランドの『Film Studies: An Introduction』(Teach Yourself, 2004)でもカラーは重要なトピックのひとつになっている(邦訳『フィルム・スタディーズ入門 映画を学ぶ楽しみ』、

          〈映画研究ユーザーズガイド〉     第6回 カラー