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妻より先に目が覚めた。

起きた。

午前8時27分。

私にとっては早朝である。普段、午前11時頃に起きている。そこから、出かける準備をバタバタとこなして職場へ向かう。休みの日は午後2時まで寝ている。いつもより2時間半早い目覚め、という意味で、この時間は早朝なのだ。午前7時に起きて学校へ行っていた頃に照らし合わせれば、5時半に起きるなどもはや「なんか目が覚めた」という曖昧な状態である。起きたら起きたで、ゲームでもしていたような気がする。

妻はまだ寝ている。関白宣言という歌においては、"俺より先に寝てはいけない 俺より後に起きてもいけない"と言っていたが流石にその男もふと「なんか、目が覚めちゃったな……」というときは、流石にこれで「俺より遅いじゃねぇか」というのは理不尽なので、ちょっと寝た振りなんかしてみるのではないか。そしてそのまま寝てしまい起きた妻から「あんたもういい加減起きなさい」と言われては「5時半には起きていたんだ」とか屁理屈をこね「目を開けたのと起きたとは違う」とか言われているのだろうか。これでは彼が関白になりうる日は遠いだろう。

ところで、初めて関白宣言という言葉を聞いたとき私は「関白」を殿様とか横綱とか名人のようなその場のトップに与えられる称号であると思っていた。歴史の授業で触れてみると全然違った。

「関白……ああ、亭主関白の。殿様みたいな? ……えぇ!? 天皇の補佐ぁ!?」

二番手だった。たしかに偉いのだが、天皇を補佐する係だそうだ。これを知った時は大変おかしい気持ちになったものである。確かに関白という地位は高いものだが、平民の生まれが「一回でいいからなってみてぇなぁ」と目指すには若干低く思えたのだ。

小学生が「名人になりたい」と将来の夢を語るなら「おぉ、そうかそうか」とニコニコして頷く。しかしこれが「日本将棋連盟の副会長になりたい」となれば「えっ、あ、あぁ、た、確かに、栄誉ある立ち場だし、なるのはとても大変だけど……そこ、なのかい?」とその称号に敬意を示しつつ、私とその子の認識がズレていないか確認する工程を挟まなくてはならない。

ともあれ、関白は天皇の補佐なのであくまでも偉いのは天皇である。その後も調べていくと「源頼朝が幕府を開いてからは、征夷大将軍のほうが影響力としては大きかったのではないか説」など、現代において関白は「準レギュラーキャラ」ぐらいの打点しかないように思える情報も出てきた。

そうして改めて関白宣言を聞くと「二番手が何言うてんねんコラ、部屋掃除しろ」と曲の途中で天皇にシバかれているのではないかと想像する。ちゃんとフルコーラス歌い切れるのだろうか。確かに関白は偉いのだが、そのノリで名乗ると「天皇宣言」や「将軍宣言」を名乗られた際にカードとしては弱い。しかも困ったことに天皇、将軍、皇子、皇女候補は山程現れる。例えば子どもが生まれたら、まず子どもが天皇宣言である。しかも、こちらは関白宣言をしている場合ではない。

ギター片手に歌っていようものなら、その間にも子はあっちへこっちへと動き回り、ギャンギャン泣くだろう。だからまずはギターをよけて泣き止むまで抱いてやり、うたう歌も天皇様好みのものに変えなくてはならない。宣言できるビションが全く見えない。また、小さな天皇様のお世話をする場合は厳密には関白ではなく摂政である。

摂政は天皇に変わり政治を行い、事実上の実権を握っていた。などとあるが、3歳ごろのお子さんがスーパーで泣いているのを見ると「果たして実権など握れるのだろうか」と思い、そのギャン泣きに頑として「ほら行くよ!」としっかり振る舞っている親御さんを見るに「……記述する上では、確かに実権を握っていた、と、言えるかも知れない」と思う。

3歳の彼からしてみれば「私は生まれ持っての王であった。しかし、出先で車のおもちゃを見つけた際、あまりに魅力的なので、『買って』と再三主張したが認められなかった。王ではあったが、実権は両親が握っていたのである」ということになるだろう。

さらに、摂政を越え、晴れて関白となりギターを手に歌い始めたとしても、おそらく反抗期真っ盛りであり「は? キモ」とか言われて終わるのだ。確かに子供に向けた曲ではない。ただ、子どもも自分で判断できるようになりいよいよ私も摂政から関白かというところで宣言しようというとろで、さてどうしたものか。嫁にもらう前に関白宣言をする歌なので、妻に向けて歌っても「もうお前の嫁だが」という話である。

「いや、そうじゃなくて、関白宣言だから。摂政から、関白になれましたよという節目に歌うわけよ」

「そんな暇あったら、掃除せぇ」

「はい」

弱い。弱すぎる。宣言するタイミングなど本当にあるのだろうか。誰も聞いていないところで、静かに独り言のようにギター片手に誰にも受理されない関白宣言をするのが、現実的なのではないか。

ただ、私はギターを弾けないので、そういった意味でも関白宣言をするために必要なものは何一つ揃っていない。

早く起きすぎると、こういうくだらないことを考えて時間を費やしてしまう。

ふと隣を見ると妻と目が合った。いつの間に起きていたのだろうか。

「おはよう」

今日はまだもう少しだけ、布団の上で過ごす。妻がカーテンを開ける。

うおっ、眩しっ。

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出典:関白宣言,作詞作曲:さだまさし

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