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「つもり」には、なれないままで。

「本番のつもりでやってください」

と言われて、本番でやるようにできた試しが一度も無い。緊張感も、やる気も、やることも、練習と本番はもう、どうしょうもなく違う。本番のつもりでやることは、本番のときしかできない。

「練習だと思ってやればいい」

というアドバイスが効いた試しも一度も無い。それはもう何にでも言えることのようで、ラジオを撮っていても、録音をしているときとしていない時の壁はとても大きいものだ。後戻りできない、という緊張感はそれなりの恐怖と共に大きなエネルギーを与えてくれる。

エッセイを書いている時は、あまり緊張しない。何度でも書き直しができるからだ。投稿したあとでさえ、こっそり書き直すことができる。noteに掲載したあとも誤字脱字に気がついた時は、こっそり直す。そういう意味ではエッセイはラジオよりもやり直しが効く。

ただ、エッセイを人に見せるときは緊張感がドンとのしかかってくる。以前、東京の友達が関西に遊びに来てくれたことを書いた。エッセイを投稿したあと、エッセイに書いた友達へ「エッセイを書きました」とURLを送るときは10分くらい迷って、うーんと唸り「えい!」とメッセージを送ってから通知を切る。後戻りできないというのは、時に恐怖や不安が上回った。

結果的に、返ってきた返信は好意的なものであったが、リアクションが返ってくるまでは気を紛らわそうと必死だった。しかし、そのくらい緊張する体験をしたエッセイほど「面白い」と言ってもらえている。見られると恥ずかしいことほど、読まれたときには面白いのかもしれない。

エッセイを書き続ける背景には、そうした恥ずかしい自分を見てくれる人の存在がある。エッセイを書いていることを近くにいる友達に隠さずにいて良かったと思うことは、エッセイを読んでくれる人の実感がかなり早い段階で湧いたことだ。自分の書いたものを読んでくれる人がいるという事実と、面白いと言って読み続けてくれる人がいる自信は、まだフォロワーさんがほとんどいなかった頃の私にとってとても大きな存在だった。

また、だんだんフォロワーさんが増えてきて、何を書けばいいかわからなくなったときも、友達に見せることを意識した話を書こうと思えば自ずとテーマは絞れてきた。就職活動で迷っている友達へ向けたエッセイ。この前なんとなく話していた会話の続きをしたかった友達へ向けたエッセイ。恋人への気持ちを書いたエッセイ。身近にいる人から始まる文章は、書いている実感が得やすかった。

「誰かが読んでいるつもりで書いてください」と言われても、私はきっと書けなかっただろう。読んでくれる人がいる、絶対この人は読んでくれる、そんな、手紙を送るような気持ちで書いた文章は、たった1人に向けられたもので、いっそ、それ以外の人には全く関係ないものであるはずなのに「面白かった」と沢山の人に言ってもらえた。

一人だけのために書くのは、他の人を蔑ろにしているのではないかと思ったこともあった。友達のために書くことは、noteのフォロワーさんを置いてけぼりにする結果になるのではないかと思うこともあった。

しかし、そんなことは無かった。むしろ、誰かのために書いたエッセイほど「面白かった」と言われた。読んだ人には事情も何も関係ないことのはずなのに、温かい言葉をたくさんもらった。

もしかすると、誰かに気持ちを伝えようと一生懸命になっている私を陰から覗くのは結構面白いのかもしれない。例えば校舎裏、好きな人に告白している様子を陰からこっそり見ているクラスメイト。自分には一切関係ないことのはずなのに、ドキドキしながら見守るのは結構面白い。そうして告白が成功したときは、陰から飛び出していき「いえーーい!」などと騒いで「いつからいたんだよ!」と恥ずかしがる友達をしこたまいじり倒すのである。私にはそんな経験は無いけれど、きっと楽しいのではないかと思う。

うまく行った時や、目標を達成した時、はたまた何かの節目を迎えた時に、一緒に喜んでくれる人がいるというのは、幸せなことだ。うまく行ったことそのものよりも、一緒になって「やったー!」と笑い合えて始めて「あぁ、なんか結構遠くまで来たんだなぁ」と安心できる。

「誰かがそこにいると思って」という仮定のもとでエッセイを書くことは、きっと私にはできないのだろう。読んでくれる人がいる、聞いてくれる人がいる。そんな確信があるからこそ、私は文章を書いてこられた。

本番でないと気合が入らないという使い勝手の悪い性分も、毎回のエッセイを本番にすることができれば案外ドキドキしながら活動することができるようだ。だから、書くことがわからなくなったときは誰かに向けたエッセイを書く。書き上げた時ジワッと、汗が吹き出る。見せられるものなっているか悩みながら文章に手直しを加えた。あとは、これを投稿して送るだけ。

さぁ、本番だ。

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今回のテーマ「友達」

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