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料理との相性

母の煮物がすごく好きだ。

あとスパゲティとグラタンもいい。というのも、母は大の薄味好きで、ありとあらゆる食事が薄い。今日は特に薄味だなと思ったら砂糖も塩もなしで調理していたことがよくあった。とにかく調味料を使いたくないので、濃い味大好きなファストフードジャンキーな私とはなかなか相性が良くなかった。すごく好きなものよりも、何でこれを食べるの……? とお互いに理解できないことの方が多い。好みがあわない私たちだったが、なぜか煮物はしっかり味がついていて好きだった。

一方、ばーちゃんは濃い味のものを私に与えた。帰省すればまずは肉、それから魚、あと肉、ラーメン、チョコレート、アイス、ジュース、あと肉。そんな感じだった。食卓には多様なドレッシングと、なぜか3種類もあるポン酢が並んでいた。だんだん私の好みのものが定まってきて、ここ数年はシンプルなポン酢で魚を食べたりしている。

祖母と母の好みの違いもなかなかだ。母も私と同じように、祖母との好みがあわなかったのかもしれない。祖母から母へ、料理や好みの伝承は行われなかったようだ。

さて、では私は何か受け継いだものを作るのかと言えば、全く何も作らない。数年前に電子レンジで肉まんを燃やしてからと言うもの、それ以降の調理は全然していない。

しかし、私の周りには男女問わず料理ができる人がいて、それぞれから心配されている。餌付け、と言わんばかりに作った料理やお菓子を与えられることさえある。

「なぁ、最近何か作った?」

友人のIさんはそう聞きながらも、お前は何も作っていないであろうという顔をしている。

「ゆでたまごを作ったよ」

「……おお! すごい! ついにお湯を沸騰させられるようになったか!」

バカにしている。こいつは、絶対に私をバカにしている。ゆでたまごに関しては半熟と固ゆでの中間地点、ちょうどいいゆでたまごが出来上がるタイミングも知っている。沸騰してからちゃんと7分ゆでれば、ちょうどよくできるのだ。しかし、ゆでたまご以外はトーストくらいしか作っていない。

「さすがに何も料理ができないのはそれはそれで問題だからな……」

と言って、Iさんは私に電子レンジで作れる料理のレシピを貸してくれた。100個の料理レシピが書かれているらしい、パラパラめくると、確かにおいしそうなものもあるし、これなら私も作れそうだ。

「ちなみに……電子レンジは、使えるよね?」

「うるせぇばぁか」

使えないかもしれない。肉まんはレンジで7分あたためて燃やしてしまった。その後リトライした際には、電子レンジ用のお皿をオーブンモードであたためてやっぱり燃やしてしまった。

ただ今回に限って、問題は料理する以前にあった。

「買い物がめんどくさい」

材料を買うのが大変面倒だ。家にあるもので何か作ろうにも、あるのは大量のたまごと……お肉と……意外とあるけれど、これは使ったら怒られるやつだろうと言い訳をこぼして冷蔵庫を閉じた。

パラパラめくっていたレシピ本も閉じる。やーめた。やめやめ。料理したくないでござる。……でも、せめてみそ汁くらいは、ちゃんと作れるようになりたいな……。

「で、作れなかった。と」

「さようでござる」

私はIさんへLINEを送ると、お湯を沸騰させてインスタントみそ汁へ注いだ。料理を作るのは、想像以上に大変だった。作るというか、作るまでに気持ちを持って行くのが大変だった。レシピ本は、こっそりIさんのカバンの中に戻しておくとしよう。

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