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私の背を押すあなたの手

星野源さんのエッセイを読んでいる。

もう何度読み返したことだろう。エッセイを書くときに、文章のリズムが分からなくなったり、なにを書けばいいのか分からなくなったときに開くと「ああ、そうそう、これこれ」と筆が進むようになる。特に最初の一行を書くときに背中を押してもらっている。

エッセイを読んでもらったあとに感想をもらうことがある。主に感想をくれるのは友人で「おもしろい。上手」などと誉めてくれる。私は図々しい人間なので「もっと具体的に誉めて」とメモ帳片手に質問すると、少し長めに気に入ったポイントを送ってきてくれる。

エッセイを書き続けていると、気持ちが慣れてきて、伝えたいメッセージを乗せたいと思って書くことがある。

それがうまく届いているともちろん嬉しい。一方で意識していなかったのに「ここが素敵だ」と言われると、そんなことあったっけ、と書いたものを読み返して確認した。誉められたり、ここが良いと言われるとそれをもう一回やろうと変な欲が出て、読んでてなんだかおもしろくない文章ができあがる。

そんなときに、お手本にしている文章を読んでリズムや文章の感覚をつかみ直しもう一度(全部じゃないけど)書き直す。

そうそう、この辺が書きたかったんだよな。自分と意見を合わせながら、うんうんと一人で頷きながら文章を足していく。そうして一つのエッセイができあがる。

しかし、いつも自分の気持ちがうまく伝わるとは限らない、うまく伝わるのはいろいろな偶然が重なったからだ。私のこのエッセイだって、5年後読んだらチンプンカンプンかもしれない。「チンプンカンプン」という言葉が分かる人が減っているかもしれないし、言葉の意味が変わっているかもしれない。「いとおかし」の意味が「めっちゃ笑える」ではないと直感できる人が少なくなるに連れ、文章の解釈やニュアンスや雰囲気はどんどん変わっていくのだと思う。

以前「これを書いたのは、誰だい?」というエッセイを書いた。中原優香さんと言う方を密かに紹介したエッセイだ。それに対して中原さんが「言葉で心を動かしたい」という文章をお返事してくれてさらにmigminさんが「RTがないからこそ」というお返事をくれた。私もすっかりホッとした。

誰かを紹介するというのは、私にとってはそれなりに勇気のいる行動だった。まずそもそもどこから手を着けていいのかわからない。とにかく、書けばいいと思うので、文章は書き進めながらも、いつ相手に伝えるべきか悩んでいた。

「あの、エッセイにしていいですか?」とメッセージするか。いや、そんな怪しいコメント突然もらって相手の方が大変じゃないか。なんて思っているうちに、文章を書く方の私は一人勝手にエッセイを書き上げてしまった。

「……どうするの、これ。載せる?」

気持ちとしてはもう載せる以外の選択肢はない。でも、いやだってこれ、もしも中原さんが壮絶に気分を害してしまい「こいつを焼き払え」みたいな感じになってしまったらもう私どうすればいいの。落ち着け、落ち着くんだ私、migminさんに初めて取り上げてもらったときどんな気持ちだった! 思い出すんだ! あの嬉しい気持ちを!

「いや……でも……中原さんもそう感じるとは限らんし……」

大丈夫、いけるいけるって!

「でも」

うるせぇ! うおりゃぁ! 

ポチっと投稿し、大急ぎでメッセージを送った。

いやーーー!!

順番逆だったかなあああ!!

絶対先にこれメッセージすべきだったってえええええ!!

出してから事後報告はまずいってえええ!!

見苦しくも、記事を下書き保存に一度変えた。こうすると、タイムライン上では見えなくなる。しかし、メッセージと共にリンクを送ってしまった。リンク先が読めなかったら読めなかったで問題だ。そっと公開する。

ああ……いかん……もう……ダメだ……向いてないんだ……。

ゴロゴロ、布団に転がり、いったんスマホの通知を切った。ヘタレなのだ。もう、今日は見ないぞ……。その日は、少々緊張しながらも、いつもより少し早く眠れた。

翌日、中原さんからメッセージが届いた。

「自分のことだとは思えないみたいです、ありがとうございます」(要約)

「……だ…大丈夫だったー! よかったー!」

それからしばらくして、中原さんが投稿したお返事を見たあたりでやっとネガティブな方の私も「大丈夫そうだぞ」と確信を持ち始めた。やっとクールダウンを終えて「さて新しく何か書くか」と思い至ってはスマホに打ち込んでいる。

こうして私の文章はいつも誰かに背中を押されながら書いている。嬉しかったこと楽しかったこと困ったことちょっとつらかったこと。それを読んでくれる人、感想をくれる人、新しい取り組みに乗っかってくれる人がいて、やっと私は文字を書ける。

「ああ、そうそう、これこれ」

誰かから、微かに見られているこの感覚。それに背を押されて、やっと最初の一行が書ける。

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