低空飛行から風穴(6/10)

6.
 トモカが指定してきたのは、香里の家から五分くらい歩けば着いてしまうくらい近すぎる全国チェーンのファーストフード店だった。店内は煌々としていて目に痛い。自動ドアの開く音、店内に充満する独特なメロディと、人、人、人。吐き気を覚えそうになりながら、香里はカウンターの向こうにいる店員に適当に飲み物だけを頼んだ。「二階の窓際の席ね」と言っていたトモカの淀みない指示に従順に従う。
 席についてなんとなくハアとため息をついてからコーラをずずっと啜っていると左肩にポンッと軽い衝撃と体温が当たった。

「よ」
「あ」
「あってなんだ、あって」

 けたけたけた、とまた笑う。声の調子から受けていたイメージそのままの姿でトモカは現れた。マスカラで武装された睫毛は攻撃力が高いのに、位置の高いチークは少女っぽい。真っ赤なジャケットに膝の出ているスカート、そしてやけにヒールが高くて細いミュール。財布みたいな小ささの鞄を左手に持って、香里の座る右隣にするっと滑り込む。

「コーラ飲んでんだ、あたしも」

 そう言って得意そうに口に含んで見せる。あー、美味し、と呟いてから気持ちよさそうに伸びをする。その一連の動作を、頭のてっぺんから足のつま先までマイペースで塗り込められた、異次元の生物を観察するような気持ちで、香里はぽかんと眺めていた。
 大きい目、小さくて高さのある鼻、薄い唇。どこかのアイドルグループの末席にいるような愛らしくまとまった横顔を見つめながら、不意に思い出すことがあった。

 確かに、私たちはひっきりなしに会っていた。

 5年ほど前、あと少しで高校卒業という年。唯一の友達だった達志という男に幼馴染だと紹介されて、3人でカラオケに行ったり、互いの友人を引き連れてまたカラオケに行ったり、残りの高校生活を悔いなく謳歌しようと貴重な時間を積極的に食いつぶしていた。

「あたしね」

 あの時会っていた、達志の幼馴染の智花が、今目の前にいるトモカなのだと頭ではなんとなくわかる。けれど何かが一致しない。圧倒的な違和感が鎮座している。痒いところに手を伸ばしたいのになかなか届かない時の歯がゆさに似た気持ちに侵食される。

「したんだ、整形」

 コーラを飲みながら軽い近況報告みたいなノリでトモカが言った。そうだ、このノリは間違いなく智花だ、と香里は確信する。

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