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○月✖️日献立帳#33

2024.2.12 電話線


親のところには久しく顔を出していないので、義理を果たしに実家にいく。

電車で東京に出て、私鉄に乗り換え、混みあった電車にしばし揺られ、最寄り駅からてくてく歩く。

中学、高校、大学と過ごした街の風景と空気を確かめる。

元々何があったのか今となっては思い出せないところもあったり、

ハイスペックでセレブなマンションがおっ立ってしまったところもあるけど、

それはほんの一部、山の手の住宅地、街全体は大きく変わらないまま、

少しずつ、下り坂をゆっくりと下るように、時とともに古びていって、

お祭りの風船が段々としぼんでいくように、

通りの店々の張りと活気がなくなっていくのを感じる。

食事をして暇を告げて、向かいのバス停で帰りのバスを待っていると、

傍の電話ボックスが目に入る、ふと記憶が蘇る。

学生の頃、付き合っていた彼女との連絡は、家の固定電話では気まずいので、

夜な夜な外に出て何度となく使った公衆電話だ。なんと、そのまま残っている。


信じられないことに、緑の公衆電話もまだ現役稼働中だ。

電話ボックスに入ってみる。

受話器に手をかける。

10円玉を入れて、番号を押せば、あの時の彼女と繋がりそうだ。

初めて電話をかけるときのように、どきどきしてきた。


残念ながら、出だしの番号は出てくるが、後ろの番号がもう少しのことで思い出せない。

何もできず呆然としていると、バスが来たので、電話ボックスを出て乗り込んだ。


もし番号を思い出していたら、電話をかけただろうか。

もし電話をかけたら、マトリックスみたいに、30年前にタイムスリップしたりしないだろうか。

もし戻れるとして、はたして自分は30年前に本気で戻りたいのだろうか。

帰り道、いろいろな思いが頭をよぎった。

電話線でつながっていた時代があったなんて、今の若い人は想像できるだろうか。


2024.2.11 街の遷移相


近所を散歩

いつもの見慣れた街並みだが、昨日の都会の風景と重ねあわせると、あらためて、かなり寂れているのを感じる。

しかし、大きな木々が枯れ落ちた後には、日当たりと風通しのよい空間が生まれ、そこにまた新しい草木の群落が育つ。

植物の遷移と同じように、街も、時とともに荒廃と再生を繰り返す。

街のそこここにある空虚は、儚く小さな種子や胞子にとっては、可能性である。


いわしの刺身、ザーサイの葉の炒め物、きんめ鯛のアラ出汁ペンネ煮込み


2024.2.16 イワシの恩恵


イワシがよく獲れているようで、安くもあり、このところ、もっぱらイワシを食している。

手開きして、小骨を抜く。身が柔らかいので捌くのに毎度手こずるが、脂ののったイワシの刺身は、ほんとに美味しい。懐にもやさしい。

おともは、ほうれんそうのお浸しと、白菜雑炊

2024.2.18 先行逃げ切り


晴れ、洗濯。庭の河津桜が満開となった。

寒かろうが暖かかろうがお構いなし、

とにかく誰よりも早く一番ダッシュで咲く。

先行逃げ切りの馬のような潔さがある。

菜の花とささみのサラダ、里芋とペンネのクリーム煮、豆腐と白菜のスープ


2024.2.23 家籠り


一日冷たい雨ふりなので、買い物にも出ずに、家に籠る。

明日葉お浸しシラス和え、ビーツと里芋のグリル、牛肉ステーキえのきソース


2024.2.24 梅とアカシア


河津桜に遅れること1週間、梅とアカシアが咲きだした。

梅は老梅で、花の咲きも葉の茂りもこれまでもあまり勢いがなく、詫びさびの境地のような風情がある。

そのような儚げなところに先の強風でもともと折れかかっていた大きな幹の1本が、さらにダメージを受け、ほとんど樹皮1枚でつながっている状態になった。

脚立で下から支えをしたが、果たしてこの幹は生きているのか心もとなかったが、

枝に連なって膨らんでいた蕾たちは、何事もないかのように花開いた。


その隣に咲くアカシアは若木で、生育旺盛、枝葉がもりもりと繁茂し、常に老梅に覆いかぶさる。

その重みもあって梅の幹が損傷に至ったのだが、その暴れぶりに年中手を焼いている。

ブラシのような形状の輝く黄色の花穂が弾けるように現れる。


梅の淡い白とアカシアの光る黄色、老婆とじゃじゃ馬娘のような、

生い立ちも年代も性格も全く正反対の花木が、仲良く同時に花をつけた。


紫キャベツの煮込み、ふきのとうと高菜の天ぷら、いわしと鯛の刺身、ホタルイカのパスタ


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