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にほんのみのる ① - また始めるかぁ

2022年9月11日、私たちの初めてのリーディング公演「ミノル」はなんとか無事に、幕を閉じた。劇場の1番後ろの入り口に立ち、満席の客席を見ながら思ったことは、ミュージカルを書くって怖いことだなァ、と。

そして、初めてレストランでバイトした時のことを思い出した。18歳の私は、ウェイターで雇われたのに、なぜかそこそこ味自慢のイタリアンでパスタのレシピを言い渡され、1回だけ試作品を作り、その後すぐにお客さんに提供することになった。作るまでは一生懸命だったけれど、お客さんのもとに私の作ったナポリタンが言った瞬間、我に返った。
家ですら料理しない私の作ったパスタを、2000円ランチで食べさせられるお客はなんて不幸なんだ。私は、あの時サラリーマン風のおじさんが、時間がないから仕方なく口にパスタを運んでいた光景が忘れられない。以来、私がキッチンに立つことはなかった。

初めて自分で書いたミュージカル。1年間とにかく自分が好きになれるミュージカルを作ろう、とがむしゃらに作ってきた作品は、気づいたら90人のお客さんの前で発表されている。彼らは、火事でも起きない限り、席を立つことはできない。どんなに退屈でも、じっと耐えるしかない。あぁ、目の前で起きていることは、もしかしたらあの日代々木上原のレストランでおじさんが味わっていた、もしくはそれ以上の拷問なのかもしれない。

ありがたいことに、キャストの素晴らしい演技歌唱力で、観客は私たちの"情熱"に拍手を送ってくれ、なんとか公演は終わった。助かった。はぁ、心臓に悪い。一度、時間をおいて、今後について考えよう。こんな怖いこと、これからも続けていくのかどうか。今、私には休憩と時間が必要だ。

そんなことを考えながら、コラボレーターのベンと一緒に、挨拶のため舞台へ上がる。ベンが挨拶を始める。

ベン「今日は来てくれてありがとう!来年、東京でミノルを公演したいと思います!大丈夫!キトが、全部日本語訳を作ってくれます!!ありがとう、キト!!」

観客の拍手

私「はぁ???」

この人は、何を考えているんだ。確かに、冗談でいつか日本でもやりたいねと言ったけれど、え?来年?しかも、これ大変なの私じゃん。

なんとなく会場の暖かい空気に押され、悩むより次の目標ができるのも悪くないか、と考え、ベンの提案を安請け合いをしてしまい、次の日から日本の会場探しを始めたのであった。

これが・・・、悪夢の翻訳&書き直しの始まりである・・・。

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