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お正月スペシャル   ~絵本作家・あべ弘士さんを迎えて~

―中尾
あけましておめでとうございます。今日は、旭川で収録していて、絵本作家のあべ弘士さんをお迎えしました。
よろしくお願いいたします。

―あべ
よろしく。あべです。

―中尾
旭川のお正月と言えば、「板かるた大会」ですね。

―あべ
そうだね。北海道全域でやっていますね。大きさは普通のかるたと同じなんだけど、板なので厚みが5㎜もあるの。下の句を書いているんだけど、草書体で書いてあるからぐちゃぐちゃで読めない。そして、上の句は最初からない。

―中尾
読む人は?読む人も、上の句は読まないのですか?

―あべ
読まない。下の句を読んで、下の句をとる。それならいろはかるたと一緒じゃん!というけど、なかなか奥が深い。

―中尾
どう深いのですか?ストーリーで考えないのですか?

―あべ
例えば、本州の人は百人一首覚えるの、すぐ挫折するでしょ?下の句だけだと挫折しないよ?記号だから。そうすると小さい子もカタチで覚えて遊べるからね。ねやのひまさえ…ってあるじゃない、あれは四角い字で、弁当箱って覚えるんだよ。(笑)

―中尾
なるほどね。今年もそろそろカルタ大会ですね。

―あべ
そうだね。

―中尾
北海道に来てから、あべさんのお家にもよく遊びに行かせていただいていますが、あべさんのお家の裏側って川が流れていて、その向こうにアイヌの方たちの山がありますよね。
その川が冬になると凍って、その上に雪が積もって、向こうの山からあべさんの庭まで鹿とかがやってきますよね。キツネもいましたね。

―あべ
くるね。キツネはすぐ横で繁殖してるわ。

―中尾
鳥は来るし、動物がいっぱいで、にぎやかですよね~。

―あべ
にぎやかですね。

―中尾
私がこちらに来て観た一番好きな風景は、札幌から旭川までくる電車の窓から見た、白鳥の群れが横に並行して飛ぶ姿なんですよね。あれは感動でした。それから旭川のホテルに泊まって、ちょっとお散歩すると…澁澤さんとお散歩した時は、アカゲラがいましたね。

―澁澤
アカゲラも、アオゲラもいましたね

―中尾
とにかく聞いたこともない、木をつつく音を初めて聞きました。エゾリスは走っているし、旭川駅から川沿いを30分くらい歩くと、神楽公園があって、そこでクマゲラもアカゲラもいて、動物たちに会えるんですよね。素晴らしいです。やっぱり北海道は自然王国ですよね。

―澁澤
常盤公園にはキツネもいましたね。

―中尾
そう、キツネはギャラリーの前まで来たこともあります。

―あべ
神楽岡公園は原生林に近いんだよね。
実はね、神楽岡公園から一度エゾリスが消えちゃったんだよね。なぜかわからないんだけど…キツネが増えたのかな~。急にいなくなっちゃって。それで、旭山動物園からつれて行ったんだよ。旭山動物園はエゾリスが4頭から80頭まで増えちゃったんだ。天才的な飼育係がいてね(笑)。どんどん増えた。それで、近親交配するので、全員名前を付けたの。その飼育係さんは歴史がすごく好きな人で、Aゾーンは天皇家の名前(笑)。「嵯峨天皇」とか、「後醍醐天皇」とか…。Bゾーンは源氏の名前、Cゾーンは平家の名前。メスもちゃんと「貞子」とか…今度は為朝と時子を結婚させようとか(笑)
要するに、個体識別して、血が混ざらないようにするにはそんな工夫をしないとね。

 ―中尾
名前呼ぶたびにみんな賢くなりますね(笑)

―澁澤
飼育係ってね、本当に1頭1頭わかるのよ。うちらから見ると、みんな同じサルであったり、同じリスであったりするんだけどね。飼育係は全部わかります。

―中尾
そうなんだ~。凄いですね。
私たちが、ギャラリーを作った場所は緑道と言って文化の道って言われていましたね。市役所から常盤公園までをつなぐ道で、常盤公園の中には美術館とか図書館とか文化的な施設があって、その公園の向こう側には雄大な石狩川が流れているんですよね。昔はこの緑道にもカンタンという鈴虫みたいな虫が鳴いていたり、蛍もいたんだよと聞きました。とっても自然豊かだったのが、だんだん町がつくられていくにつれて、人と動物が分断されて、動物は動物、人間は人間みたいになってきましたよね。でも、まちなかでも、鳥だとか虫だとか共存できるって素敵だなあと思いますよね。

―あべ
そうだね。カンタンは割と旭川は多くて、まちなかでも生息するんだけどね。

―中尾
それには植物も必要ですよね。

―澁澤
そうですね。蛍にしても、本州の場合は鈴虫とか多いのですけど、もう一度取り戻そうというか、復元しようと思うと、ある程度筋道さえ踏めば都会でも復元できるのです。要は人間側がそれを心地よいと思うかどうかの問題なんですよ。今の若い人たちにとって、自然というのは彼岸というか向こう側にある存在になってしまって、自分を生き物の一つだと思わなくなっているので、自分の生活に必要ないから排除しようと平気で今の学生は思いますからね。

―あべ
環境に関心を持つかどうか…ということかな。例えば旭川だと、ビジターセンターという、自然を観察できるような博物園構想をしたのが33年前。河川林がとても良いので、もっともっと河川林と川と公園を周回させて、緑の回廊をつくろうと。そういう計画をしていろいろやってきた。その成果が今年出ました!
旭川駅の裏にヒグマが来た(笑)!

―中尾
そうか!そうですよね!それは、成果ですよね(笑)

―あべ
凄いですよ。世界で、30万以上の都市で駅裏に野生のヒグマが歩いているなんてありえない!
人的被害とかあるかもしれないけど、一方では自然がここまで復活している事実があるんですよ。その一面としてみた方が良いのじゃないかなと思うね。

―澁澤
動物側も人間の暮らしに適応していくようになってきましたから、自然を復元しようとみんなが本当に思えば、意外と早いスピードで復元できると私は思いますが、人間側が自然と距離が遠くなってしまったのと、クマから見れば森の中を歩いてきてみたらそこに駅があったというだけのことなのに、人間が大騒ぎしてそれを駆除しようという話になるので、クマと人間との間の若干の緩衝帯いうか、お互いの住み分けられる場所が必要ですね。人間が怖がる以上に動物は人間を怖がりますから、その仕組みを作っていけばよいのではないかな。

 ―中尾
動物の住処でもあるんですものね。それを守ってあげられるのも、人間かもしれませんよね。
そういう街づくり的なことも考えられますよね?

―あべ
もちろんそうだね。

―澁澤
例えば田んぼから後ろの森までの間を、昔は草刈り場と言って、牛や馬で農耕をやっていましたから、牛や馬のえさとして草を刈る場所だったんですよ。そこからちょっと上がったところから森が始まっていたのです。その草刈り場というのが緩衝地域だった。駆除するより、田んぼの周辺の草を少し高めに刈ってやるという方が、効果があると思います。動物と人間がお互いに意識しながら住み分けられるような手法というのは、実は昔の里の暮らし、山の暮らしの中にいろんなヒントがあると思います。

―中尾
なるほど。今年は動物と人がどう近づけるかということをテーマに、旭川のまちづくりができるといいなと思っている今日この頃です。もうひと頑張り!どうでしょう?

―あべ
そうだね。それと、もう一つの役目は、私は絵本を書いている。文章も書いているので、次の世代の子供たちが、野生、自然、動物との接点を持てるような作品づくりをすることかな。

―澁澤
あべさんが前に考えられた緑の回廊を具体的な形で実現できると良いなとも思います。

―あべ
そうですね。ぜひまた来てください。

―中尾
今日はありがとうございました。

*Osteria Naconにて


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