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2023.03.20 LaLiga第26節 バルセロナvsレアル・マドリー

・はじめに

おはようございます。こんにちは。こんばんは。
今回は敵地に乗り込んだEl Clásicoの振り返りです。
嗚呼、負けられない負けられない負けられない...。

以下、スタメン。

両チームのスターティングメンバー

直近のリヴァプール戦と全く同じメンバー。
しかしこの日は、セオリー通りの“ブスケツのプレー阻害“を遂行するために中盤の配置が逆三角形から順三角形気味に変化していた。
ここ最近のビッグマッチにおいてチュアメニではなくカマヴィンガが使われている傾向は気になるポイント。
左SBも復帰したてのメンディではなくナチョの起用を継続。
対するバルセロナはクラシコ名物“アラウホ右SB“をこの試合でも抜け目なく。
ペドリとデンベレが欠場する中、IHに起用されたセルジ・ロベルト、そして左WGに入ったガビがこの日のキーマンとなる。

・試合内容

・マドリーの対策を逆手に取った“届かない保持起点“

マドリー陣内におけるバルセロナの保持の振る舞いで軸となっていたのが、「大外にバルデを固定+ガビorデ・ヨングをブスケツ横まで降ろして起点にする+降りなかった方が前線でファジーな位置を取る」という左サイドのメカニズム。

バルセロナのマドリー陣内保持局面概略図

大外にバルデを配置することで、バルベルデの擬似5バック化を促し、押し込み局面を創出。
もしバルベルデが付いて来ない場合でも、カルバハルの意識を外に引っ張り出し、外側から認知負荷をかける。

内側レーンでは左WGガビと左IHデ・ヨングのどちらかがブスケツの左隣付近まで降りる動きを多用。(基本的にはデ・ヨングが降りる場面が多かった)
そして降りなかったもう一方は、HS付近のファジーなポジション取りでボールを引き出しつつ、よりゴールに直結するプレーを目指す。

この日のマドリーはバルセロナの逆三角形配置の中盤3枚を牽制するために、モドリッチがブスケツ番をする順三角形を採用。
しかし、瞬間瞬間でバルセロナも順三角形を作ることで“マドリーの守備が届かない位置に安定した保持の拠り所を担保する“アプローチにより、この対策が瓦解。
この保持の肝は最初からブスケツの横に配置しておくのではなく、タイミングを見計らって降りること、そしてその役割を担える選手が2枚いること
マドリーはカマヴィンガあたりを押し出して対応しようにも、「何度も上下動を繰り返す移動コストが高い+ガビのポジショニング+右側ピボーテだけが上がるとクロースをやや左側の位置に1人で晒すことになる」といった状況下により動きづらかった。

左サイドで起点を作った後に、ハフィーニャやセルジ・ロベルトが待つ右サイドへボールを送り込んでフィニッシュを狙う形も再現性が高かった。
前者はバックドア性能の高さで幾度かナチョを出し抜きかけるシーンを重ねる。
ボールを持ってからのカットインシュートやインスイングクロスも脅威。
後者はボール保持にも関わりつつ、左サイドからのクロス等にもサボらずボックス内に飛び込むことで、ゴール前の人数を担保。

守備が届かない位置に保持の起点を持ってくるシステマティックなこの構造に、マドリーは序盤から後手を踏まされることに。

・好敵手との闘いの中に見えた唯一の光と違和感の3人称

この試合で早々に得点を“生み出した“ヴィニシウス。
「アラウホの右SB起用」という露骨な対策が講じられる中で、ブラジル代表WGはマドリーの攻撃における命運を託される。
しかし前半8分にリードを作った場面以外でも、この日の彼はそんな難しい状況を覆してくれる期待感を抱かせた。

例えば前半16分のシーン。
左サイドでボールを持ち、アラウホを躱してカットイン。
ペナ角からインスイングクロスを送るも、惜しくもベンゼマには合わず。
このような突破を狙うシーンだけでなく、抜き切らずに次のプレーに繋げる判断の質が高かったおかげで、この日無駄なロストがほぼなかったのは好印象。

反対に物足りなさが残ったのが右サイド。
普段は右ハーフレーン付近を担当してくれるモドリッチを、より内側のトップ下気味に起用した影響か、バルベルデもこの日は比較的内寄りの右ハーフレーン付近のポジショニングを志向。
そのため大外は基本的にはカルバハルが埋める構図が多くなるのだが、彼は短時間でサイドを駆け上がるより、味方との連携の中で前進することで活きるタイプ。
モドリッチのサイドフローやバルベルデの外側レーンでのスプリント等を活かせず、2人が大外で基準点となって時間を創りづらいこの日のユニットの中央志向は彼にとって逆風に。
さらに、バルデをかなり前に押し出してカルバハルに牽制をかけるシーンが多かったため、直接持ち運んで前進することも難しかった。

そんな中、別のアプローチを生み出す。
前述したバルデの前ベクトル守備とバルベルデの内側志向を利用し、モドリッチがギャップが生まれた右サイド深部をトップ下位置からの斜めの飛び出しで狙う。
これにより、カルバハルを後方に置いたまま彼のキック精度を活かしつつ右サイド深部へボールを届けることができた。
しかし、その後の効果的な二次アクションが見られず、ゴールに向かうための択を用意することができなかったため、目に見える結果は残せず。

右サイドの攻撃パターンの一種

右サイド3人称のユニット効力が低かったこの日、期待値・依存度が高かったのは結局ヴィニシウスの左サイド。
しかし、孤軍奮闘するヴィニシウスの類稀なるチャンスメイク能力を活かせたかと言うと...。
これは後述するテンポ感とボックス内不在問題にも関わってくる。

・結局解決できなかったガビの左WG

一時はリードを保ったマドリーだが、前半44分の失点で追いつかれる。
この失点を紐解くと、一番最初に述べたガビ、フレンキー、バルデの関係性でマドリー右サイドを翻弄されたことが起点になっていることが分かる。

バルセロナ得点の起点シーン

ガビがブスケツの横まで降りてボールを受け、前向きでフリーの状況。
近くにいるモドリッチ、カマヴィンガ、バルベルデは上の図のようにそれぞれ管轄内にいる選手による固定化がなされており、ガビへの1stプレスが決まらない。
その間に中央レーンからハーフレーンへ斜めの動き出しでラインブレイクを行ったレヴァンドフスキにパスが通る。
ポケットでボールを収めたレヴァンドフスキからクロスが送られるが、ハフィーニャがシュートを空振り。
しかし流れたボールを再度右サイドで回収したアラウホからのクロス→ボックス内での混乱からセルジ・ロベルトに得点を許す。

序盤から起点にされていたマドリー右ハーフレーンを解決するためか、バルベルデの大外守備を辞め、バルデは放置気味にするなど、マドリーの守備は徐々に対応を変化させながら試行錯誤していたが、中途半端な牽制ではバルセロナの選手達の基礎技術の高さの前に剥がされ続けるだけ。

そしてこの得点はセルジ・ロベルトや逆サイドのハフィーニャなどがサボらずボックス内へ入り、ボックス内に枚数を揃えた攻撃をバルセロナが徹底していたという事実も現状のマドリーにとってアイロニックなものとなった。

・テンポ感の乖離と重くのしかかるボックス内不在問題

現在のマドリーにおいて攻撃の旗頭となっているのはヴィニシウスである。
そして彼のスピードについて来れる右翼はバルベルデ、ゲームチェンジャーや2列目の打開者として才能を遺憾なく発揮し続けるロドリゴ。
中盤も若く、強度と速度を兼ね備えた選手達が台頭している。
これらの選手がマドリーの攻撃を引っ張っている中で顕在化してきたのが、ベテラン達がそのプレースピードやテンポ感について来れないのではないかという懸念。
中盤の選手達は静的な発射台や、ゲームを構築するコンダクターという役割の中であれば、さほどこの問題は目立ちづらい部分もあるかもしれない。
しかし、この問題から目を背けられず、ダイレクトに係ってくるのがCFを務めるベンゼマであり、CFのスピード感の欠如は昨今再三指摘され続けているボックス内不在問題に繋がってくる。
CFがヴィニシウスのスピードに追いつけないと、彼が突破した直後にボックス内を覗いても安心してボールを供給できる先が無いという状況に陥り、無駄なノッキングが増えたり、クロスが空虚を切り裂くものになる。

個人的に提言したいのが、この試合でも散見されたヴィニシウスの押し出しを促すために、ベンゼマがハーフウェーライン付近で左サイドへ流れてリンクを行うプレーの必要度の低さ。
現スカッドは最高峰のプレス回避技術のあるMF陣を揃え、CFを経由せずとも中央を外したU字循環の中の終着点としてヴィニシウスへボールを届け切ることができる。
更にヴィニシウスがボールを持ち、そこからチャンスメイクを完遂する回数と質も上がってる以上、ベンゼマにはボックス内でフィニッシュに集中、もしくはボールプレーに直接関与せずとも“バロンドーラーの引力“でDFを最低2枚は引き付けるプレーを求めたくなるのは私だけだろうか。

CFがボックス内の迫力を担保できないとなると、次に考慮する必要があるのが中盤のクロースモドリッチの同時起用。
両者ともにクロスに対してボックス内に飛び込むタイプでは無いため、ボックス手前で待機することが多いのだが、こぼれ球を即時奪回するフィルター能力にも少し欠ける部分があるため、結局撤退し、再度ヴィニシウス頼みのロングカウンター狙いに終始してしまう。

あとバルベルデに関して思うことは以下のツイート。

このようにベンゼマの9番位置への移動、中盤を務める選手の得手不得手、バルベルデの意識など、マドリーのテンポ感のズレやボックス内不在問題はかなり深刻なものとなっていることは改善すべき事象である。

・磨耗、不在、分断

引き分けでは終われないマドリーは後半61分に選手交代で攻勢をかけることを試みる。

しかし、この交代で見せた選手配置はかなり歪で非合理的なものに。

ロドリゴ、メンディ投入後のシステム概略図

雑に表したのが上記の図であるが、ライン間で衛星的なプレーを得意とするロドリゴとこの日トップ下気味の位置でスタメン出場をしていたモドリッチをベンゼマの後ろに配置。
バルベルデを3列目に降ろして、右サイドを1人で賄うのがカルバハル。
素人目で見ても明らかに歪なこのシステム。
攻撃的にフォルムチェンジしたいという意志と意図は感じられたが、これを機能させるのは至難の業。

このシステムの欠陥は主に3点。
「①過多タスクによるカルバハルの消耗の激しさ」
モドリッチも大外でプレーすることをメインにする選手ではなく、現スカッドで唯一右サイド大外でのプレークオリティを担保できるバルベルデを3列目に落としているため、右サイドの縦の幅を全部カバーするタスクがカルバハルにのしかかる。
実際に何度も上下動を繰り返しており、リヴァプール戦でも86分間闘い抜いた31歳にこれは過負荷過ぎたのではないか。

「②右サイドへのフィード先が不在」
これは①とも被ってくるが、左サイドで詰まった時に逆サイドへ解放しようとしても、そもそも人がいないため選択肢にも入らなくなってしまう。(もっと言うとカルバハル頼み)
実際に、後半68分にリュディガーが対角にフィードを放つも、誰もいないためラインを割ってしまうシーンが見られた。

「③前と後ろを繋ぎづらい」
大きな展開も一部使いづらい状況の中、バルベルデを3列目、モドリッチを2列目に固定するレイヤー設定の影響は前と後ろを分断するという苦しい状況に。
前線で活力を持ってゴールに迫る事ができるバルベルデと引き取って打開する事が上手いモドリッチの位置を入れ替えた方が良いと個人的には思うのだが、あくまでも両者の守備能力を考えた時、リスクヘッジが頭をよぎるのであろう。

ロドリゴをヴィニシウスの近くに配置できたことはある一定の効果が出たが、それ以外の部分に目を向けるとやはり無理があったように個人的に感じた。
特にバルベルデを3列目に下げる起用に関しては、本人の特徴やチュアメニという適任者がいることからも、個人的に疑問を投げ掛けざるを得ない

・一歩届かなかった最終盤におけるシステムの功罪

最終盤、徐々に展開はオープンになる中、途中出場してきたアセンシオやロドリゴがなんとか状況を打破しようともがく。
アセンシオは持ち前の“重さ“を武器にボールキャリーを全う。
その推進力の脅威から半ば強引なファウルで止められるシーンが散見。
前が空いたらシュートに移行するなど、ゴールへ向かう意識、得点を狙う気概が画面からひしひしと伝わってきた。

そしてロドリゴ。
彼がヴィニシウスが近い距離感と同じテンポでゴール方向に向かえばチャンスを作ることはできていた。
それが同点弾未遂に繋がるシーンを生み出す。

マドリーの2点目未遂シーン

ヴィニシウスが左サイドで降りながらメンディからボールを引き取る。
ここでポイントとなるのが、ロドリゴのサポートの仕方。
あくまでもヴィニシウスを後方から押し出すのでは無く、並行にサポートに寄ってくる、そして相手守備者の間にできる門を意識した受け方をすることで、相手を置き去りにしつつ一緒にゴールに向かう事ができる。
こうしてブスケツの背中側を取ってボールを引き出したロドリゴは、ドリブルでゴール方向に進んだ後カルバハルへ展開。
カルバハルのクロスに合わせたアセンシオがネットを揺らすも、惜しくもVARでオフサイドの判定。

しかし、落胆の中でも諦めずにゴールを目指す最中の後半AT91分、逆転弾を許してしまう。
カウンターからカルバハルの横パスをカットされ、逆にカウンターを食らう展開。
マドリー右サイドからボールを進められるが、既にこの試合で酷使され続けてカルバハルに脚は残っていなかった。
帰陣するも、虚しくゴール前でレヴァンドフスキに弾き飛ばされ、左サイド大外を上がったバルデのクロスからケシエに決められ失点。

このように選手交代による功罪が見事に浮かび上がった中で、結果的にはマイナス収支。

このまま1-2でマドリーが敗北という結果に。

・まとめ

序盤からマドリーの対策を逆手に取った保持スキームによって苦戦を強いられた。
そんな流れとは反対に早々に得点を奪うことができた分、マドリーのペースに持っていきたいのは山々であったが、どうしてもバルセロナが突きつけてくる難題に対する最適解を試合中に見出せなかった。

ベンゼマをはじめとした前線の決定力や枚数不足、そしてテンポ感の揃わなさといった問題はかなり深刻なものとなってきており、ここ最近は台頭し始めた若手を待望する声が大きくなってきている。

良かった点を挙げるとすれば、アラウホ対面でもヴィニシウスのプレーにネガティブな点が全然見られなかったことか。
そしてロドリゴと組み合わせた時の打開力には確信に近いものが感じられたことも。

とはいえ、先制したアドバンテージを活かせず、自らのシステム変更ですり減らした箇所から耐えきれなくなり、逆転を喫したことはかなり重く受け止めるべき事象。
終盤の追い上げ方、バランスを取りつつ前傾姿勢にシフトする手段は一向に整備がされないままだ。

残りも3分の1程度になってきた今季のLaLiga。
最後はどんな結末になっているだろうか。

・おわりに

この敗北により、首位のライバルクラブとの勝ち点差は12に。
残るクラシコはコパ・デル・レイ。
1stLegを落としているため、厳しい状況ではあるがここでリベンジを果たしたい。

稚拙な文章、お読みいただき誠にありがとうございます。
よければ拡散等していただけますと幸いです。今のところLaLiga全試合レビューするつもりではいます。多分。

それでは!

※画像はTACTICALista様、レアル・マドリー公式様を使用しております。

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