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うどんに振り回された日

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やはりエッセイはこちらにまとめておこうかと思いまして、マガジンを作りました。
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記事一覧

目的地

眠っていたため目的の駅に到着したことにすぐに気づかなかった。慌てて新幹線を降りる。 慌てたためコートを車内に忘れてしまった。取り戻すのに駅に電話をしなければいけないことを考えると気が重い。電話をするのがとにかく嫌いである。メールで問い合わせられないだろうか。 駅を出ると、バスが待っていた。目的地までの直行便で料金は九千円だという。財布から一万円札を渡そうとし、取り出したお札の色があまりにグリーンなので驚く。それはドル札だった。これじゃないこれじゃないと財布の中を探すと12

割って食べる弊害

煎餅を割らずに食べる派の人には申し訳ないですが、僕は袋の中で割ってから食べます(関連記事)。本当は丸い煎餅に噛み付いてバリバリと豪快に食べたいものですが、それをして欠片がそこら中に散らかると、自分の存在するエリアが何か肌に合わないセーターのようにチクチクした質感に変貌するので困るのです。 個別包装のものも割ってから食べますが、たいていは一袋に八枚入っているうまい煎餅です。かつてあった「名作」なきあとは、「うまい煎餅」という名のうまい煎餅ファンなのでほとんどこればかりです。

飲むせんべい

せんべいが好きだ。 丸いせんべいをビニール袋の中で小さい欠片に割ってから、それを取り出して食べる。 一枚分の欠片を食べ終える。一枚分たしかに食べたはずなのに、欠片にして食べたせいか、一枚食べた気が全然しない。明らかに食べ足りない。 もう一枚食べたくなる。 せんべいは炭水化物なのであまり食べると太るし、一枚で止めたいところなのだが、断腸の思いで二枚目をあきらめ、ようとするが結局食べてしまうのである。 二枚目のせんべいを袋の中で割る。 こんなことを繰り返しているうちに

どぜう

どぜうを食べた。 東京に住んでいるとはいえ、食べるのは初めてだった。たまたま駒形どぜうの近くを通りかかったのだが、店構えが一度も食べずにそのまま通り過ぎてはいけない感じを醸し出しており、入ってみたのだ。 メニューを見ると、どぜうなべや柳川なべ、どぜう汁、どぜう蒲焼、どぜう唐揚げなどいろいろ並んでいる。初めて食べる者としては、少しずつ各種食べてみたい。そんなことを考える客は多いと想像できるので、最適などぜう定食というのがある。田楽、どぜうなべ、柳川なべ、どぜう汁、お新香、ご

バッテリーはバッテリーでも

1月2日であるが、久しぶりにバイクに乗ろうと思い立った。正月だし、きっと道は空いているだろうと思ってのことだ。さて、どこに行こうか。 東北自動車道方面は方角として好きなのだが、いつも帰りに渋滞に巻き込まれるのが嫌で、なかなか行くチャンスがない。しかし、今日はさすがにスイスイ走れるのではないかと考えた。ストライキで話題になった佐野サービスエリアに寄りつつ、どこかで佐野ラーメンでも食べることにしよう。 1月にしてはそれほど寒くないとはいえ、防寒のために電熱ウエアを着込んだ。こ

住んでいた椅子を捨てる

時間に追われて根を詰めすぎているせいか、肩こりがひどい。腰痛も深刻だ。モニタに向かって絵を描き始めると、手以外はお地蔵さんのように微動だにしなくなるので、身体がコチコチに固まってしまうせいだろう。 一生のうちどのくらいの時間を椅子の上で暮らすのだろう。僕は日本でも東京でもなく、マンションでもなくて、椅子の上に住む生き物なのだ。 椅子にはキャスターが付いているので、お茶を淹れに行くときも、トイレへ行くときも、宅配便の荷物を受取るときも、軽やかに足で床を蹴って、座ったままスー

名前の由来

毎日自宅から25分ほど歩いて仕事場まで通っている。仕事場は、ある駅のすぐ近くにある。どのくらい近くかというと、わざわざ改札を通って出るより、ホームから直接仕事場のドアまでジャンプしたほうが早いくらいだ。 仕事場の屋号はペンスチという。 よく宅配便や手紙の宛先に、ペンスケとかペンステとかベンスチとか書かれていることがある。すべて間違いである。 かつて誰も聞いたことがない単語、音なので、意味もわからないし、間違えられるのも無理はない。実はペンスチは正式名称をPen Stil

ハイ、ナニ?

以前住んでいた家の近所に長命寺というお寺があった。夏になると近所の幼馴染といつもそこにクワガタを捕りに行った。たいていはコクワガタしかいないのだが、たまに赤黒いノコギリクワガタを発見すると大興奮したものだった。大きいクワガタがいると思って捕ろうとすると、ゴキブリだったこともよくある。 過去というものは現実には「存在」しないが、クワガタを捕りに行ったのは確実に子供の頃の良い思い出として心に残っている。 昆虫が好きで常に触れ合っていると、子供心が通じ合っているのじゃないかと錯

バイクに乗ると

僕がバイクに乗るのは、頭を空っぽにしたいからである。 目が覚めるような加速感を楽しみたいとか、きれいな風景を見たいとか、そういう理由も無いことはないが、第一に頭を空っぽにしたいからだ。だから別にどこを走っていてもかまわないのだ。ライダーに好まれるクネクネした峠道じゃなくても、単調な高速道路でも十分目的が果たせる。 そして行った先でボーッとするのがまた良い。そういう意味では高速道路のサービスエリアでも全くオーケーなのだ。 ただし、渋滞だけはなるべく避けたい。今ではすり抜け

ザリガニの棲む街

僕は生まれも育ちも石神井公園(しゃくじいこうえん)だ。どこで産湯を使ったかは知らないが、性は木内、名は達朗。もちろん、公園の中で生まれたわけではない。西武池袋線の石神井公園駅が最寄りだった。 生まれてすぐに、群馬、新潟と移り住んだものの、小学校に上がる頃には再び石神井公園というエリアに戻った。 石神井公園は、これは地域のことではなくて公園そのもののことだが、ボート池と三宝寺池なる二つの池を擁していた。  あるとき、ものすごい日照りでボート池が干上がってしまい、池の底がむき出し

I can't...

今でこそ英語を使って仕事したりしてるので、英語が堪能なのかと思われるかもしれないが、全くそんなことはない。 毎日毎日リスニングやったり独り言言ったり本読んだりして、やっとのことでアメリカにいた頃に少しは身につけたと思われる英語力を維持するのに必死なのだ。 家の近くの公立中学に通っていた頃は、比較的英語という科目が好きだと思っていた。 しかし、高校に入って周りがほとんど帰国子女という環境になると、自分の英語の出来なさが際立つようになった。一学年240人のうち、三分の二は帰

もしかしてSiriに電話してもらえばいいのかも

郵便局からの不在連絡票が入っていた。 再配達を申し込もうと郵便局のサイトへ行ってみた。追跡サービスの窓にお知らせ番号を入れたが、「問い合わせ番号の入力桁数に誤りがあります。11桁から13桁で入力してください」と出る。 お知らせ番号はあるが、お問い合わせ番号は連絡表のどこを探しても書かれていない。どうなってんだ? QRコードが貼り付けてあって、配達の申込みはこれでアクセスしてくださいと書いてある。 iMacからどうやってQRコードを読み取るべきかと調べたら、QR Jou

限りなく弱々しい咳払い

先日、いつも通っている鍼灸院へ行ったら、鍼をうたれたまま存在を忘れられてしまった。 一時間放ったらかしだ。そのせいで普段なら一時間で終わる施術が二時間もかかってしまった。 これまで放ったらかしにされたことはなかったものの、この先生にはなぜか、根拠はないけれど、いつか忘れられる予感がしていた。 この日は、もしかしたらついに存在を忘れられたかもしれないと気付いて、弱々しく咳払いをしてみたりしたのだが、全く気づいてもらえなかった。 一番端の目立たないベッドに寝ていたから。

チワワ倶楽部

目黒通りのとあるカフェで友人とビールを飲んでいた時のことだ。 肩から大きめのバッグを下げた十数人の一団が店に入ってきた。その中の二、三人は小型の犬を連れている。よく見るとチワワだ。 彼らはいくつかの円卓を囲んで席についた。すると、犬を連れていないと思っていた人たちもバッグの中からいっせいに犬を出しはじめた。 毛の色や長さがまちまちだったのですぐにはわからなかったが、よく見るとやはりチワワだ。皆が皆チワワを抱えている。チワワ倶楽部出現の瞬間だった。 メンバーはそれがさも