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「会社員」があって演劇があること

2023年の3月に、所属しているユニットの公演があり、その稽古中や公演が終わってからぼんやり考えていたことがあります。なんとなく言葉になってきたのでまとめておこうと思います。
個人的な感覚なので、ほかの方に当てはまるとも思っていないし、地方と都心で考え方って違ってくると思うので、こう思っている人もいるんだなぁと思っていてもらえたらと思います。

お芝居をすることでお給料やギャラをもらって生活をしている人がいる、というのが、私の周りでなんとなく目立ってきたなと思い始めました。
富山に戻ってきたときはそんなことは思っていなかったのですが、ここ数年、私の交友範囲が広がってきたのか、職業俳優として活動する人が増えてきたのか、そんな人がはっきりと見えるようになったな、と思ってきました。

関東に居た時は、それは目標であり、私の周りにいる役者仲間もそこに向かって生きていた人が多く、当たり前、のような感覚でいました。だから、そこに何も思わなかったし、疑問に感じることもなかったと思います。

これは私の意識なのか、地方の生活がそうさせるのかはわかりませんが、富山に戻ってきて会社員になって、私の中でお金を稼ぐことは「会社員として働く」ということでした。確実に生きて、生活するためにお金を稼げる方法が私にとっては会社員だったのだと思います。地元で週5日勤務の正社員で働くことが当たり前だったし、その上で演劇をするのが環境的に良いと思ったし、実際そうやって演劇を続けている人がほとんどでした。

地元に戻ってきてから、お芝居関係でお仕事をいただく機会がぽつぽつありました。たまにそうやってお仕事をさせてもらって、SNSなどでお知らせして反応をもらう。ほかの人がお仕事をもらったり、何かに出演したりすると羨ましかったし、自分も頑張らなければという思いになりました。

それが、今年に入ってから、そういう風に思うことがなくなってきました。何かに出演するという話を聞けば、「すごいなぁ」としか思えなかったし、SNSで反応をもらいたければ、自分で何かをつくればいいという気持ちになってきました。自分の中で、反応をもらうための「なにか」は、「お仕事のお芝居」である必要がなくなってきたんだと思いました。

また、周りの人がお芝居を仕事にするのを見て、私には無理だな、と思ったものも大きいのだと思います。

私は会社員として働いていて、まあまあ仕事を任せてもらえて、上司もいて部下もいて、お給料は少ないですが、人間関係でストレスもあまりない環境で働かせてもらっています。お仕事の内容も私には合っていると思うし、とても頑張らなくてもこなせる業務範囲になっています。

15年近くこの仕事をしていて、ここまで来たらこの仕事が自分に向いていないと、流石に言える範囲では無いと思います…。社内やお客様と仕事をするときに、プロフェッショナルとは言えないかもしれないけれど、自分の持てるものは全て使って仕事をしているつもりです。
それを考えると、お芝居に対して、お芝居が仕事になった時に、私はそこまでこだわって向き合えるのだろうかと思ってしまいました。

この時、きっと私はお芝居を仕事として仕上げるのは向いていないんだろうなぁと思いました。そのほかにも、関東で芝居を辞めた時に思った、自分の好きな人としかきっと芝居ができないとか、そういったこともあるのだろうと思います。そのときはそれが一番大きかったけど、今はお芝居を仕事としての精度にして、ある時は割り切って、ある時は無理をして向き合うことが難しいくらいにお芝居のことを思ってしまっているのかもしれません。

そして、お芝居だけの世界になったときに、私はどんどん世界と視野と人が狭くなっていって、そうなってしまった自分にも耐えられなくなるかもしれない、という風にも思いました。自分から世界を広げていくのが億劫だし、そうなったら、きっと自分が好きな人、関わりたい人としか関わらなくなってしまう。そうなったら自分が終わるな…と思ったことも大きいと思いました。

だから、私にとって会社員など、お金を稼げる場所であり、自分が関わらない人とも関わらなくてはならない世界というのは必要な場所なんだなと思います。
「宝くじが当たった時、今の仕事辞めますか?」という質問があった時、私は「辞めない」あるいは、「パートやアルバイトになって今よりも短い時間働く」という答えを返します。きっとそれと同じで、お金とは別の所でも、働く場所というか、世界が必要なんだと思います。

たまに聞きますが、会社と家だけではなく、もう一つ別の場所を作っておいた方がいいという話です。多分これもなんとなく近い話で、私はこの会社と家の他に、お芝居、演劇、という世界を持っている。だから、お芝居や演劇=会社、になってしまったら、もう一つ別の場所を作らなくちゃいけない。それもきっと自分にとってはしんどいことなんだろうと思うのです。

そんなわけで、少しずつ、職業役者、といった方たちとは生きる世界が違ってきたんだなという実感があります。そういった人たちとお芝居に対する価値観がズレてきているかもしれないし、根本の部分では繋がっているかもしれない。県内で、お芝居を仕事にする、していこうという人たちが目に見え始めたのはいいことだなと思いつつ、もしかしたらもう同じ世界を見ることはできないのかもな、と思ったりもしています。


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