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観劇記録|『tennen-tannpopop』

【!】登場人物の名前と役者がわからなかったため、twitterの役者紹介を確認して書いています。それでもあっているかわからないため、違っていたら、関係者の方、twitterでDMを下さい。

のとえみより

劇団ふだい2021年度冬公演
『tennen-tanpopo』
作・演出 功刀一八

2021年1月15日(土)14時の回
at 富山県民小劇場オルビス 後方上手側より観劇
https://gekidanfudai.amebaownd.com/

劇団ふだいさんの冬公演を観劇。
前回の夏公演は動画での撮影&配信になってしまったので、今回は本当にお客様の前で出来て良かったなと思った。そういう事もあったからか、受付、誘導、舞台スタッフ等、特にスタッフまわりの方々の丁寧な仕事から並々ならぬ気合を感じた。本当に素晴らしいスタッフワークだと思った。

ストーリー

真っ白な舞台上に、同じく白い樹が、下手側(左側)に1本と上手側(右側)に1本生えている。葉はなく、太い幹が通り、下手の樹には折れた後の短い枝が1本あり、黄色の肩掛け鞄がかかっている。上手の樹は衣文掛けのようにいくつもの短い枝が生えており、こちらには同じく黄色のベレー帽1つ、掛けてある。
舞台上には白い垂木で作られた、様々な形の、テーブルや椅子や台などになるであろうセットが置かれている。
下手から上手まで背の高い、白いパネルが立てられており、照明のバトンから白い布が何枚も、天蓋のように左右に吊り下げられている。

作品世界の説明はなく、そこに住処を作った5人の所に、1人がやってくる所から始まる。その1人は倒れており、声を掛けられて目を覚ました。
自分の名前もわからず、なぜここに来たのかもわからないが、ナノカ(宮野五郎太)からドウガ(林長谷川)という名前をもらい、5人と共に生活し始める。

ひとりずつと出逢い、1日、2日、1週間と経過していくが、そこでドウガには見えているが、5人には見えないヨウカ(沙門鈴那)に出会う。話を聴くと、ヨウカは存在しているが、5人からは無視をされている状況だという。その理由は、ヨウカがナノカを連れ去ろうとしたのが見つかり、誘拐犯だとされているからだと言うのだった。

ヨウカが言う神様についてや、無視されている状況に違和感を感じたドウガは当事者達から話を聴き、ヨウカの存在をみんなにも認めさせ、こうなってしまったことに謝罪をさせるのだった。
そしてさらに、ヨウカ、ナノカの口から真実を語らせる。
ナノカは実はこの世界を作っている神様で、それを知ったトウカ(川名弥玖)は、黙っている代わりに自分の都合の良いようにみんなを騙していることが明るみに出る。ただ、それはジョウガ(吉田杜莉武)とカイガ(今関鍊人)を仲良くさせたいゆえの行動だった。

誰かが誰かを思った結果に起こった出来事で、全ての真実により、みんなの間に嘘が無くなったことで、黄色の光が全員を包み込んでいった。そして、それぞれの成長を象徴するような黄色の装飾が加わり、逆に樹に掛けられていた鞄とベレー帽は消えていた。と同時に、手紙が残されており、ドウガとヨウカはふたりでここではないどこかへ旅立っていった。


作品全体の感想

世界観と展開

真っ白い舞台と衣装がとても印象的な作品だった。
作品全体を取り巻く空気感には重さが感じられ、作・演出のつくる世界観が強く見えていたように思う。作・演の功刀一八さんの作品は、「ふだいのぶたい2021」の『月並ぶ線も越えない』(YouTube限定公開)を見た程度だが、こちらよりも理解の難易度が難しく、けれども、作品の強度としては『tennen-tanpopo』の方が強かったように思う。

この2本を見ただけだが、功刀さんの作品は全体的に台詞が短く、情報量が少ない、という印象を受けた。短く台詞をつなげられるというのは案外難しいもので、最低限の言葉におさめるというシンプルさはすごいなと感じた。ただそれゆえに解りにくく、世界観や状況が全くわからないまま作品が進み、冒頭で世界観に入れない受け手が多いのではないかと感じた。作・演出の中では世界観が出来上がっており、本人が表現したい世界を表現しているだけ、という印象もあり、割と内側に籠った作品だと私は感じた。

今作の『tennen-tanpopo』も、冒頭でこの人たちがなぜここに何も分からずに存在しているか、この世界はどういった世界かが提示されずに始まっている。一番最後にこの世界に登場する人物が、この世界になんらかの変化をもたらす存在(探偵役など)であることが多く、本作でもそういった役割をドウガが担っていた。ただ、この世界に対しての疑問というよりは、存在している人や事象についての疑問を抱いており、それが最終的にこの世界を紐解く流れになっていた。最終的にこの世界はどういうところか、という部分は明示されるが、そこに到達するまでの流れがとても長く感じられた。

ナノカが神様であり、実はこの世界を少しずつ作っている、という驚きになるポイントで、面白さよりも、そこに辿り着くまでが長い、という気持ちになってしまった。先に書いた通り、冒頭でこの世界についての情報が無く話が進んで行ったことで、私はその部分がずっと気になり、引っかかっていた。そのため、その後の登場人物が増えて交流が進んで行くところが全く頭に入ってこなかった。ドウガと周りとの関係を見せていくシーンを観ていても、「でも何でこの人たちがここにいるの?この世界is何??」と頭をよぎり、より集中できなかった。全体的な雰囲気やテンポも変わらない状態で世界観に深く入って行けず、結果「長い」と感じてしまった。

実は神様であった、と判明する点はそのまま、そこへたどり着く流れの中で、観ている方に少しずつヒントが欲しいと感じた。最初から樹に鞄と帽子が掛けられているのではなく、鞄や帽子があったらいいのに、というような会話があり、それをナノカが聞いて、その希望をトウカの目を盗んで叶えている、というような伏線があっても良かったかもしれない。「水が美味しい」という情報だけでは伏線としては弱かったように感じた。

推理作品でも、推理が始まる前までに見ている側が推理して犯人を特定できる状態にしておく、というような作品やルールが存在する場合もある。ヒントがあるが解けにくくするというのと、ノーヒントで解かせるというのは違うものだと思う。受け手側を驚かせたいという部分もあるだろうが、観ている人が想像し、それがピタリと当たることが快感につながることもある。また、その想像を越えた予想外の展開に面白さを見出すこともあると思う。受け手側の気持ちが作品を観てどう変化するかなども意識して作品を作っていってもらえたら嬉しい。

シンプルな台詞の言葉選びにより、研ぎ澄まされた空気感が功刀さんらしい作風のひとつなのだろうなと思った。全体的にとても優しい世界で、功刀さん自身もそういった世界で生きている、あるいは生きたいと思っているのかなと感じた。もし今後社会に出て、その経験を得て作品を書くとしたら、どんなものが書けるのかとても興味を持った。


空気感と関係性

沢山キャラクターが出ていたが、それぞれの関係性の結びつきが弱かったように思う。作品の軸として、「誰かが誰かを思いやることで齟齬や誤解が生じてこじれる」という部分があると感じた。それを伝えるためには、関係性が重要だと思う。ただ喧嘩しているというだけではなく、それぞれの想いから言葉が生じ、たまたまそれが強い言葉や喧嘩腰になる。表に出た言葉や言い方、強さの裏側にある、その人の想いがそれぞれの台詞の表現から感じられなかった。それぞれのキャラクターを作り上げる部分はしっかり見えていると思ったので、それを持ちつつ、相手によってどう話しかけ、関わり合うか、相手の言葉を受けてどう返すか、というもう一歩踏み込んだ段階に入っていくレベルの役者さんたちだと思った。

そうすることで、誰かと誰かのの親密度が変わっていく、空気が穏やかになっていく、他の人といる時よりも空気が柔らかいなど、誰といるかによって空気が変わっていく。それが、シーンごとに生まれることによって、シーンが変われば空気が変わる、キャラクターの組み合わせが違うことで空気が変わる、ということにつながっていく。それだけで、全体の空気感が変化していき、作品全体に緩急が生まれる。間とテンポで緩急を作ることもできるが、本作の様な独特の空気感を形成する作品だと、間とテンポを有効に使えないかもしれない。そういった時のアプローチとして、関係性から攻めてみてほしい。

また、県内ではよく見かけるが、ひとりひとりを見れば、キャラクターも作れていて、よく作りこんでいる、という役者さんも多い。それが、相手とお芝居をするとなると途端にできなくなる役者さんが沢山いる。相手とお芝居が出来るようになる、台詞を会話として成立させられる、言葉を受けて返すが出来るかどうかが、初心者から中堅、達者な役者、魅力ある役者になれるかどうかの境目ではないかと思う。


お芝居について

役者の力

この作品がここまで空気感、立体感を持ったのは役者の力が大きかったと感じた。そこまで役者が演じ切られるように、作・演出から世界観の説明や表現してほしいことなどを伝えていたとは思うが、この台詞量でここまでの世界ができたのは役者の努力の結果だと思う。
それほどまでにこの作品は台詞のシンプルさから難しいと感じた。

最後にみんなの前でトウカが懺悔をしたシーンで、初めてこの作品の難しさを感じたし、印象としては、トウカとドウガの役が難しい印象を受けた。

トウカはこの世界の秘密を知っており、それを知った上で利用し、ふたりの仲直りのために行動している。最後に懺悔をされても、このキャラクターに共感できなかったのは、それまでの行動の過程でトウカの優しさや裏腹を含んだ言葉に聴こえなかったからではないかと思った。
また、ドウガは関係性やちょっとしたほころびから人間関係を取り持ち、この世界の秘密に辿り着くが、前半の人に対して興味がある、という部分で相手に対する距離感を感じてしまった。興味があるのに、人懐っこさ、人の懐に入るのが上手いという方向の方が良かったように感じた。

役者全体に対してであるが、台詞の上では人に興味があるようになっているが、一歩引いたように見えていた。役者として遠慮してしまっている人、キャラクターとして相手に歩み寄れていない人、お芝居としてどう相手との距離を詰めて行けばいいかわからない人、など様々な原因があると思うが、どちらかというと役者として相手との距離感がある、どう相手と距離を詰めればいいかわからない、という印象があった。後者であれば、相手の台詞を受けて返す、が出来るようになれば解決への道が開かれると思う。

正直、この作品は、私くらいのレベルの人たちがやることで、考えるな感じろ、といった作品にまで昇華することが出来る難しさだと思う。台詞以外のところで表現しなければならない部分が多く、それを外さずに作りこんでいく必要があるのではないかと思った。相手との距離感、言葉の発し方、音色、関係性、細かい部分まで作りこんでようやく、観ている人に伝わる、という所まで行けると思う。

そういう点で、この難しい作品をここまでの舞台に仕上げた役者さんたちはレベルが高かった。ふだいの劇団員さんを何代か見てきたが、現在の劇団員さんたちのレベルは粒が揃っており、レベルが高い世代だと思った。中でも俳優さんのレベルが高く、このまま県内のアマチュア劇団に入ったとしても十分にトップレベルに迫れる力がありそうだと感じた。ぜひ、この富山で演劇を続けてほしいと思う。もしそのような方がいたら、県東部の企業に就職し、私たちと一緒にお芝居をしてほしい。


気になった役/役者

ドウガ(最初に倒れていた人、胸に緑のリボンふたつつけている人)
この役はとてもとても難しかったと思う。それをあの感じに仕上げるのは面白いと思った。個人的にはもう少し奔放さが動きや行動にあっても良かったと思った。役者さん自身の真面目さや誠実さが見えていたような気がするので、それは横に置いて置き、役としての柔軟さや人懐っこさ、人の懐に入っていく図々しさがもっと見えても良かったと感じた。

ナノカ(神様の人、髪の毛一つで前に長い人)
うつむいて内にこもる芝居が気になった。ポイントで使えばキャラクターを表現できるので、効果的に使えたら良かった。最後のネタバラしの再現シーンの強い感じがとても好きだった。そのシーンのために、本当は芯を持っている、意思を持っているが弱みを握られているので強く言えない、という表現をそのシーンまで出来ればさらに良かった。今の感じだと、ただうじうじしているだけで、あまり共感できなく感じた。

セイカ(ロングスカートで、裾に緑の葉がついていた衣装の人)
器用で、自然体のお芝居ができる役者さんだと思った。その点で上手い、と思った。ただ、この作品でこの役だけがナチュラルなお芝居をしていたので、この役が喋る時に現実感がチラチラ見えて、この作品の世界観に少し違和感を感じた。抜きのお芝居(ナチュラルなお芝居)はポイントポイントで入れて(つぶやくところとか)、それ以外は入れたお芝居(前に出す、ちょっと作った芝居)寄りにした方が、この作品では世界観にあっていたように思った。

トウカ(髪の毛ボブで、後ろで緑のリボン、シンプルなロングの服)
物凄く難しい役だったのにとても頑張った。台詞だけでお芝居をしてしまっているので、台詞と連動して身体が動くお芝居ができるといいなと思った。
裏表がある感じに作るのは今回難しかったと思うので、一所懸命なあまり周りが見えなくなって、正義を貫き通した結果こうなった、という方向で役作りをしていったら役者さんに合っていたような気がした。今の感じだと、単純に意地悪にしか見えず、最後の謝罪のシーンでお客さんからの共感や、味方についてもらえる気持ちが生まれにくかった。


スタッフワーク

照明/音響(演出も含む)

暗転が多かった。繋げられるシーンは繋げたり、照明変化で切り替えられるところは切り替えて欲しかった。過去の再現シーンは、照明変化で切り替えた方が分かりやすかったと思う。
パネルが高く、後ろのホリの変化が分かりにくかったので、地明かりや上からの照明を上手く使って欲しかった。白い舞台、衣装で、照明がとても映える状況だったので、頑張って欲しかった。夕方、夜のシーンは舞台上に照明演出を入れても良かったと思う。仲直りしたシーンの黄色のサスは可愛くて好きだった。(もう少し絞っても良かった)

BGMが多かった。多すぎてどのシーンが重要、メインのシーンなのかわかりにくくなってしまった。

衣装

素晴らしかった。全員分抜かりなく細部までこだわっていて仕事ぶりが素晴らしかった。白をベースにたんぽぽの緑色、仲直り後は花の黄色を入れて花開いた、成長した感を演出していて良かった。カップリング(?)によって、追加された黄色のアクセサリー類が似ているのがとてもエモい。

舞台美術/大道具

背の高いパネルがとても美しかった。あの枚数を作るのは大変だったかもしれないが(もしかしたら過去作の使いまわしかもしれないが)、世界観をしっかり支えていたと思う。あの上からの布は絵に描いたような仕上がりでとても素晴らしかった。あの仕事をしたスタッフさんたちには惜しみない拍手をお送りしたい。

宣伝美術

この冊子と手紙の特典はアイディアやそれを実行した労力に惜しみない拍手を送りたい。特に手紙は大変だったと思うが、世界観がより身近になってよかった。これをするだけの予算を生んでくれた制作にも感謝を。

こういった感想や劇評を書く際、当日パンフレットに「役名」「役者名」「顔がはっきりわかる写真」(本番と同じ髪型、衣装ならなおよし)があるととても助かるので、できれば必ず入れてほしい。(これは私も出来る限りやっている。特に、オリジナルで、見たことのない名前、似ている名前、カタカナの名前、はお客さんが絶対に1度では覚えられないので、入れた方が良い。)

参考
当日パンフレットの考察その1
https://blog.goo.ne.jp/yukiyama/e/8fb074ac73a23f9cad5f1c0f6b4ed0f1

元劇団の先輩のご意見
https://twitter.com/kuwa79/status/1390448820828315649

Coffeeジョキャニーニャ YouTube
https://youtu.be/ZePKM8e2xi8
※ラスト10分くらいのなかだにさんの本作感想

のとえみTwitterいいねより

当日運営/受付/誘導

とても気を張っていて、真剣にこの公演を運営していたのが良かった。とても今回の公演を大事にしている気迫が伝わってきた。いい公演でした。いつもふだいさんの公演、受付で名前言うと微妙にビクッってなる人や一瞬ブレて挙動不審になる人がいるのだが、私の名前がまだ代々受け継がれているのだろうか…。
4年生もいたのかな…?この時期に演劇に関わってくれて感謝。

この世界のtanpopoたちに幸あれ……。







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