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アジャイルなパーソナルトレーニング


運動不足という永遠の課題

ホワイトカラー、エンジニア、テレワーク。

運動不足になりがちな三つの属性を満たしている私は、例に漏れず運動不足で、肩こりや眼精疲労に悩まされている。

また、運動不足の影響は痛みや疲れといった症状だけでなく、猫背や巻肩といった外見にも表れている。

運動したいとは日々思っている。

しかし、何から手をつけたらよいのか、どんな運動が自分にとって効果があるのかがわからない。何もやらないよりは何でもよいから始めた方がよいとはわかっていても、中途半端な完璧主義がほんの少し湧いたやる気を邪魔してしまう。

そんなあるとき「身体状態」を評価してくれるサービスがあることを知った。この評価が運動する気を少しでも引き出してくれることを期待し、申し込んでみた。

このサービスでは、身体状態を8つの機能に分け、それぞれの観点でテストをし、評価を数値化する。

①目の機能
②小脳の働き
③平衡感覚
④動きの質
⑤関節可動域
⑥体幹の強さ
⑦呼吸の仕方
⑧骨格の位置

身体が硬く細かい動きが苦手なので結果には全く期待していなかったが、予想以上に撃沈した。

身体状態を評価する

評価の終了後、結果の詳細とこれらを改善するパーソナルトレーニングの説明を受けた。

私が悩んでいる肩こりや眼精疲労、あるいは猫背や巻肩も、「身体状態」が悪いことによって引き起こされる可能性が高いそうだ。ここのパーソナルトレーニングはカロリーをたくさん消費する運動よりも、身体の状態やそれによって生じる悪い姿勢の改善を重視し、それが根本的な解消に繋がるという。

これまで「姿勢が悪いから痛みや疲れが溜まる」のように姿勢を「原因」と考えていた私にとって、姿勢が原因ではなく様々な機能低下の「結果」であるという説明に驚いた。

姿勢が悪いのは良い姿勢を意識していないからで、意識が足りないのは怠慢だと思っていた。しかし姿勢は身体状態の結果として現れるものであり、意識ではなくトレーニングによって無意識に改善することができる。

私はこのパーソナルトレーニングに興味が湧いてきた。

とはいえ、目の機能や平衡感覚が具体的にどのように悪い姿勢の原因になっているのだろう。そういったロジックもトレーナーが詳細に説明してくれたので、安心することができた。

「目の機能」というのは、例えば視野の広さのことである。PC作業が多いと遠くを見る時間よりも近くを見る時間の方が長くなり、また同じ方向ばかりを見る時間が長いので視野が狭くなる。

視野が狭くなると一定方向ばかり集中して向いてしまい、首が前に出てしまったり巻肩になったりなどの悪循環を生む。

また、平衡感覚を正しく持っていないと身体を正しい姿勢に保つことができず、姿勢が歪んでしまう。

実際にはこれらの説明はほんの触りであり、もっと詳細までロジックを説明してくれた。

あるいは他に、気にするほどではないが感じていた自身の身体の状態(足首が固い、肋骨が比較的出ている、外腿が張りやすい、など)も、身体状態との相互の関わりについて説明してもらった。

ここまで納得感を持って行えるトレーニングは無いと思い、まずは期間限定でこのパーソナルトレーニングを受けることにした。

アジャイルなパーソナルトレーニング

トレーニングでは、その日の姿勢の評価を簡単に行い、悪い姿勢の原因の仮説を立て、それを解消するためのトレーニングを実際に行う。

また、自分に合ったトレーニングを行うため、例えばあるトレーニングを試みたが別の部位が硬くて上手く動かせない場合には、そちらの改善をまずは行う方針に切り替えることもできる。

このように、最新の評価をベースにトレーニングを行えること、トレーナーの指導により正しいフォームで行えること、自分のペースや状態に合わせて進めることができるのは、パーソナルトレーニングの大きな魅力だ。

ではなぜそのようなトレーニングは魅力的なのだろうか。

それは、そのようなトレーニングはアジャイルだからだと考える。

先ほど述べた、目の機能や平衡感覚が姿勢に及ぼす影響は、あくまでも一般論であり、実際はそんなに単純にはいかない。人それぞれ様々な複合要因が重なって、現状の姿勢が形作られている。

それゆえ、身体状態の評価や姿勢の評価の結果からその原因を推測したとしても、それはあくまでもその時点での仮説に留まり、時間をかけて探っていくと別の真の原因が見つかることもある。

ではある時点での原因(仮説)が真の原因かどうかをどのようにして判断するかというと、実際にトレーニングを行ってみて、短時間での効果を測定するのである。

ある1回のトレーニングを行って姿勢が大きく改善すれば、それを宿題として自宅でも継続する。すると次の2週間後のトレーニングでは宿題も含めた効果測定ができる。

もしも効果が薄ければ、別の原因が真の原因であると仮説を再度立て直し、トレーニング中に効果を測定する。

このように短期間の間に、

  • 原因の仮説を立てる

  • トレーニングにより原因解消を試みる

  • 効果測定

というサイクルを回し、とにかくたくさんの検証を行うのである。

同じトレーニングばかりを長期間継続したり、一般的な原因推測に基づくトレーニングだけを継続したりすることはない。(もちろん効果があればそれが採用される場合もある)

これはまさに、近年ソフトウェア開発の分野でよく耳にする「アジャイル」だと感じた。

長期間かけて設計・開発・検証を順に行う従来のウォーターフォール型のソフトウェア開発に対して、アジャイル開発では全体を細かい機能に区切り、短い期間で設計・開発・検証のサイクルを回す。

アジャイル開発においては機能ごとに設計・開発・検証を行うことから、機能の優先順位付けが重要であり、プロダクトバックログがよく用いられる。

優先順位を付けるというのも姿勢改善において非常に重要な要素だ。なぜなら悪い姿勢というのは単一の原因から生じるものではないからで、複数の原因のうちまずは何を優先的に改善するかという判断が、姿勢改善に大きな影響を与えるからである。

また、アジャイルは近年の変化の速いビジネスにも柔軟に対応できる方法として知られている。

ではパーソナルトレーニングにおいては、何の変化が速く、何の変化に対応する必要があるのだろうか。

モチベーション変化の激しい時代


一番大きな変化はモチベーションではないかと思う。

私は効果の見えないものにはすぐに見切りをつける。自分の時間の一部を切り出してトレーニングをしている以上、長期間効果が出ないことに時間をかけることはできない。

趣味が多様になりタイパという言葉が流行る現代においては、私に限らず多くの人がより一層短期間で効果を実感できるサービスを求める。

アジャイルなパーソナルトレーニングは、このモチベーションの変化に適応する。

「継続は力なり」という言葉を、目に見える効果無しには信じることができない現代。

仮説・トレーニング・効果測定を短期間で回して確実に改善に繋げるパーソナルトレーニングだからこそ、私はレッスンを続けることができる。

あるいは自宅での宿題を続けることができるのは、それがアジャイルなトレーニングの効果測定の一環であり、「効果を出す」ためのトレーニングではなく「効果が出るかを測定する」ためのトレーニングだからこそである。

「わからないものを続ける」のではなく、「わからないことを測定してわかろうとする」ためのトレーニングなのだ。

アジャイルであれ、ストイックであれ

日々トレーニングを行うことは大変であり、自分を律する必要がある。

しかしその努力が、正しい未来へ進むための努力だと心から信じることができていれば、私はトレーニングを続け、自分にストイックであり続けることができる。

その努力はいつでもやめることができる。しかしその選択をするのは、効果測定を行ってからでも遅くはないだろう。

be agile, be stoic.

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