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インドでも実現していない、世界初の「タブラ実況」とはどんなものだったのか?

東京オリンピックは選手にとってはもちろん、実況アナウンサーにとっても晴れ舞台だ。中継を担うNHKや民放キー局のアナウンサーたちは、ずいぶん前から取材を重ねて、選手の姿や競技の様子を言葉で伝えるのである。彼らの声がテレビから流れる裏で、僕はタブラの演奏を実況することを思いついたのだ。

しかし、タブラ、と聞いてもピンと来ない人も多いだろう。

タブラとは、北インドの古典音楽には欠かせない打楽器で、いつどうやって生まれたのかは諸説ある。日本にも奏者は何人かいて、そのトップであるU-zhaan(ユザーン)さんが共演を快諾してくれたのだ。誰に頼まれたものでもない。自分がやりたいからやるライブである。

「タブラの実況…ってどういうことですか…?」

当日を迎えるまで、何人にも尋ねられたが、そりゃ、そうだ。タブラ自体が日本では知ってる人は少ないし、U-zhaanさんによると、タブラの本場インドでも演奏が実況された話は聞いたことがないという。世界初となるタブラと実況のセッションライブのセットリストは、以下の通りである。

実況芸SESSION 11   
"U-zhaanと清野茂樹"
①トーク
②タブラの皮締め実況
③プロレス名勝負架空実況
④タブラ演奏×実況
⑤石濱匡雄のカレー作りを実況&解説
⑥夕立

②のタブラの皮締めというのは、チューニング(調律)のことだ。ほとんどの人が見たことない、地味な作業に実況を付ける。もちろん、僕も初見である(まさかのU-zhaanさんが流血するアクシデントも発生!)。③のプロレス名勝負実況とは、U-zhaanさんがリクエストする試合に対して、僕がその場で架空実況を披露するものだ(リクエストはアントニオ猪木vs天龍源一郎だった)。そして、④U-zhaanさんがタブラを叩く様子を僕が実況するという、イベントの軸となるセッションもある。

⑤の石濱匡雄さんは、U-zhaanさんと親交のあるシタール奏者で、自宅キッチンで得意のカレーを作る様子をスマホで撮影してもらい、その映像に僕の実況とU-zhaanさんの解説をつけてお客さんに見てもらう。タブラは使っていないものの、カレー愛好家でもあるU-zhaanさんの知識が存分に聞ける企画である。⑥の「夕立」はインドに伝わる曲で、雨が降り始めて止むまでの様子をタブラと実況で同時に表現する。すべてがぶっつけ本番の即興だ。


終演後のアンケートに目を通すと、タブラの皮締め実況の評判が良い。あのコーナーを境にして会場の空気が緩んだことはステージにいてもはっきりわかった。マスク越しにお客さんの笑いが漏れたときに生じる空気の緩和、これはもう、無観客イベントでは決して味わえない生の醍醐味である。配信ライブは2度目の経験だが、無観客と有観客ではまったく違う。

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好評だったタブラの皮締め実況の様子

さて、今回、タブラとセッションして感じたのは、実況との相性の良さである。もちろん、U-zhaanさんの高い技術があってこその話だが、リズムのある打楽器としゃべりは相性が良く、同時に聞くのに音量もちょうどよい。即興には細かい反省点はたくさんあるものの、実況の言葉とタブラのリズムが融け合った瞬間は、ちょっとした快感だ。自分のしゃべりを派手に見せてくれる”音楽の力”も再認識した次第である。

「少し見てみようと思ったのに、最後まで全部見ちゃいました!すごいおもしろかったです」

イベントが終わった日の夜、配信のアーカイブ映像を見たU-zhaanさんからメールが届いた。こちらへの気遣いを差し引いたとしても、本当にそう感じてくれていることは短い文章からも伝わってくる。お客さんはもちろんだが、この企画はセッション相手に楽しんでもらえることも喜びである。

スケートボード金メダリストの西矢椛選手ではないが、「48歳、真夏の大冒険」をアーカイブでぜひご覧いただきたい。あれ、いいフレーズですね。


(追記)公演の一部がYouTubeで公開されました。




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