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お話『踊りと私の話:5〜シニヨン〜』

これは一人の平凡な女の子のお話。
踊りと、ある女の子の物語です。


バレエをやっている女の子を見かけるとすぐにわかる。

すっとまっすぐに伸びた背筋や歩き方にも特徴があるけれど。

ピンクのタイツともうひとつ。
頭の後ろ少し高めの位置に小さくまとめたシニヨン。
お団子の髪型。

憧れの姿。


***

こんにちは。きこです。
わぁ、今回も来てくださったのね。
とっても嬉しい。ありがとう。

前回はお話は休憩でこのお話を書いている人、、
私のこの言葉を書いてくれてる人ね。
その人からの小話だったの。
私の名前のこととかも書いてくれたんだって。
うふふ、なんか変な感じ。照れちゃう。


さぁ。今回からまたお話を続けるね。
私ね、憧れっていう感情はとっても大事だって思ってる。

素敵だな、格好いいな
そう思うことが子どもの頃本当にたくさんあったの。

外国の映画の中、本の中、旅先で見かけた女の子や、どこかで出会った年上のお姉さんとかね。

きっとその人や物事の気持ちの在り方が姿や洋服や表情に表れていてそこに響いていたんだろうなって、今なら思う。でもそんなことわかっていなかったから外見や言葉とかで真似できそうなところを探してた。


その頃の私に「ちゃんと本質を理解してよ!大事なのはそこじゃん!」って言いたい気もするけど、でもね、まずは外側だけ真似していくところからだけでも、気持ちが少し変わるっていうのかな。
強くなれたり、優しくなれたり、、背筋が伸びたりするきっかけになることがあるの。
少なくとも、私はね。
そこから本質を探し始めたこと、たくさんあるんだ。


やり方は人それぞれ。
今がどんな自分であったって、憧れる気持ちに後押ししてもらって小さなほんの一歩を踏み出せることを大切にできたらいいなって思うんだ。


***


通い慣れた教室にお別れした翌月、電車に乗ってふたつ隣の駅にあるクラッシックバレエの教室に通いはじめた。

緊張で飛び出しそうになる心臓を感じながら。
髪の毛をきっちりとシニヨンにまとめて。



そこは、これまでとは何もかもが違っていて、まずお稽古場がすごく大きくて、バーも鏡も全部の壁についている。クラスも年代とレベルごとに分かれていて、全体のレッスン表をみてみたら朝から夜までびっしり書いてあった。私は小学生の小さい方のクラス。同じくらいの年齢の子たちばかり15人くらいが一緒のクラスだっていうことがわかった。


ひとクラスに2〜3人ついて教えてくれる先生たちは優しいけれどキリッとした感じ。音楽もテープじゃなくて生のピアノを専門のピアニストさんが弾く中でお稽古していく。内容だって当たり前だけど本当にクラシックバレエの基礎をみっちり。


格好も、黒のレオタードにバレエシューズ、というのはこれまでと変わらなかったけれど、靴下じゃなくてピンクのタイツをはくこと。
そして髪の毛は自由じゃなくて、前髪もあげてきちんとまとめたシニヨン、と決められていた。


みんな同じくらいの背丈。同じ格好。同じ髪型。同じような体型。同じ動き。
違うのは、そのお稽古場に慣れているかどうかと、少しのレベルの差。あと、気持ち。性格。

誰もおしゃべりなんてしなくて、新しく入った人はみんなを見ながら、静かに、もくもくとレッスンが進んでいく。

わからないことがあっても誰かが困っていても仲良く教えてくれたりはしない。
そもそも、しん、、と静かなお稽古場で言葉を発するのは勇気がいる。お稽古前でも顔見知りになった子たち同士が軽く会釈する程度で、はしゃぎ回るような雰囲気はなかった。



これまでのびのびと楽しくあそぶように躍ってきた私には新鮮でもありーー

もうひとつ、同じ動きであってもここで求められる感覚や全体のが流れが今までと大きく違うことに戸惑い、気後れで、身体が動かなくなりそうになる日があった。


身体の使い方はひとつ一つの動きをしている中で細かく注意してもらえるけど、まずはここでのおおまかなルーティンがわかっていないと流れについていけない。

ちょっとでもまごつくと、みんなの動きと合わなくて、前後の子と顔が合ってしまったり全体の進行を止めてしまう。

 覚えていけば大丈夫
 雰囲気に慣れれば大丈夫

そう言い聞かせながらも、これまでのあったかな空気とは少し違う雰囲気に心細くなりながちなレッスンだった。

 誰だって最初は同じはずだもの

そう言い聞かせても、いつも心の中で一緒に飛び回って踊っているように感じていた小鳥が、見えなくなりそうな気がした。



「あそぶようにのびのび踊ってきた」と言ったけど、前の場所が緊張感がなかったということではない。ただ雰囲気が正反対だったというだけのこと。

以前までのところがひだまりみたいなところだったとすれば、ここは妖精たちの厳しい訓練所といった風情のところ。


何かが感じられなくなってしまう時。それは、そこに楽しいものが流れているかどうかや、楽しさを感じられる見つけられる余裕、相性、小さなタイミング、その「たまたま」のいろんなことの組み合わせだったりするんだと思う。


久しぶりに、あの、お腹のあたりが、くっと硬くなる感じを感じていた。


そんな私を密かに支えてくれたものがある。

それはシニヨン。
きゅっとお団子にまとめた頭。


そんなことで?と思うかもしれない。
けれど、そんな小さなことが、心にある憧れの気持ちが、この時の私の味方だった。

誰にも、そういう小さなお守りみたいなものがあるのかも知れない。
他の人が聞いたら笑ってしまうようなものかもしれなくても、その時のその人の心を支えてくれるもの。



気後れしそうにな時。
動きが分からなくて止まってしまいそうな時。

鏡に映る、ずらりと並んだ生徒たちの間で一緒にバーを握る自分を見るたびに顔をあげた。


私もみんなと同じ格好と同じ髪型でここにいるのだから。せめて顔をあげて背筋を伸ばして、しっかりと立っていよう。きちんとポーズをしよう。

バレリーナになりたいと思っていたわけではなかった。けれど、せっかく始めたんだもの。他にはなにも上手なことはないし、ここでもどうなるかわからないけれど、踊ることだけはやめたくない。


大人が聞いたら笑っちゃうかもしれないけれど、この時8〜9歳くらいだった私を密かに支えてくれたのは、シニヨン。

きゅっとまとめた髪型が、いつもそばにいて、後ろからそっと応援してくれていた。


+++


〜作者より〜

先週の休憩の小話を読んでくださった皆様ありがとうございます。たまにこのお話の成り立ちみたいなことも挟んでいってみようかなと思っています。
そして。ふらりと訪れてくれたという印をくださった方々へ。それが届くたびに私は本当に幸せに舞い踊って全力の感謝の念を送っていました。この先もそれは毎回変わらないでしょう。ありがとうございます。

さて。叶う、叶わないに限らず、憧れたりいいなぁと思うものがあることで、自分を少しだけでもその方向へ傾けていくことができるというのは、この頃に覚えたような気がします。そして、その憧れは、人から見たらくだらないようなことだったりするかもしれない。

けれど、自分の心が反応しているものを信じること。

自分にとってのお守りは自分が決めればいいと思っています。

きゅっと結んだ髪の毛と、すっと伸びた背筋は、いつだって私を真っ直ぐにしてくれる。
それはもうバレエだからというのではなく、自分の軸にしたい気持ちのあり方のひとつ。
今も変わらない私の心の中のお守りです。


次回は来週土曜日4/15更新予定です。
今回もお読みくださりありがとうございました。

✴︎一話目からはここにまとめています


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