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【映画鑑賞記録】マッチ工場の少女

日本公開が1991年らしい。レンタルビデオでほぼ同時期に見た記憶がある。当時僕はまだ大学生で、映画好きの年上女性とお付き合いしていた。その彼女が観たいというので一緒に観たのだが、ハリウッド映画にドはまりしてた当時の頭空っぽの僕には全く面白みのない映画だった。一方の彼女は

「これはブラックジョークの映画だ」

というような独自の解釈を話していて、それはそれでなんとなく腑に落ちないまま、でも掘り下げることなく今に至っている。

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天安門事件のニュースが世界を駆け巡っていた時代。毎日のように流れてくる武力弾圧による虐殺の報道。その過激な日常のインプットが知らず知らずのうちに、異性との出会いが無い無味乾燥な生活を送る底辺労働者の心を静かに蝕んでいたのだろうか。

ストーリーとしては比較的シンプルで、工場で働くぱっとしない女性が夜な夜な酒場に足を運ぶものの、なかなか男から声をかけてもらない。そこで一念発起、奮発して購入した派手目の衣装で夜の街に出かけたら、とある中年紳士の目に留まり声をかけられ一夜を過ごす。男はまだ寝ている女の枕元にいくらかのお金を置いて出ていく。そこは男が住む豪邸だった。男にとっては一夜限りの火遊びのつもりだったが、女にとってはそうではなかった。

遊びだということを知らされ、妊娠していた子も事故で流産、親からは勘当される。追い詰められた彼女は自分を弄んだ男、酒場で声をかけてきたさえないおっさん、そして自分を勘当した両親に対し片っ端から無差別に毒を盛る。最終的にはしょっぴかれて話はおしまい。

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今見返しても解釈に困る作品だ。男にも女にも心情的に寄り添えない。共感の取っ掛かりがない作品だ。時代背景、厳しい労働環境、複雑な家庭事情が、本来は善良であるはずの人間を狂わせる。そして狂気は無差別な殺戮へと導かれていく。その主体が個人であれ国家であれ、尊い人命を理不尽に奪うという意味では同じこと。



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