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グールドの食事/赤ちゃんビスケットしか食べなかった話

2022年は、グレン・グールド生誕90年・没後40年という周年であった。
10年前の2012年は、自分が演出・プロデューサーをしていたTV番組で念願の「グレン・グールド」を一時間まるまる特集した。

その時、グレン・グールド研究の第一人者、音楽評論家の宮澤淳一さんに番組に出演いただいた。
写真に写るビスケットはカナダのローカル・スーパーにしか売っていない、くず粉でできた幼児用「アロールート・ビスケット」。宮澤さんにカナダの地元のお店で買ってきていただき、スタジオで披露、番組内で紹介した。

グールドは亡くなるまでの何年かしばらくは、食事はこのビスケットしか食べなかったという話が残っている。

亡くなったのは50歳の誕生日の2日後。つまり40代後半のピアニストは、この幼児用ビスケットがメインディッシュだった。記録では、このビスケットと、フルーツジュース、それにサプリメントを飲んでいたのだという。

私は番組の放送終了後、そのビスケットを宮澤さんからいただいた。
なにしろカナダ空港にも売っていない、つまりお土産品ではないものなので、地元のスーパーに行かなければ手に入らないものなので貴重だった。

味はとくに甘くない。赤ちゃん用なので、あまり味がない。
たぶん日本と違って、ショートニングという膨らまし材(発がん性が高いとされる)も使っていない。
でも、美味しかったように記憶する。グールドのご飯はこれだったのかと思うと、食にそれほど関心が高くなかったのかな、と思った。
しかしその感性は、すべて耳と感じる音と指の動きに集約されていたのかと、想像するとその無味な食事も深さを増す。

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